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中編 洒落にならない怖い話

女がいない場所がない~《歩き巫女伝説:外法箱》改作《読者参加型リライトコンテンツ》rw+6,080-0105

投稿日:

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これから話すのは友人からの伝聞だ。

まるで見たかのように語る所もあるが、そこは許してほしい。訂正する術がない。

梅雨の夜、京都に就職した高村から連絡がきた。

「久しぶりに会わないか。聞いてもらいたいことがある。」

疎遠になっていた。けれど声が妙に乾いていたので、断る気になれなかった。

数年ぶりに会った高村は、見た目だけなら以前と変わらない。顔立ちも服のセンスも相変わらずよかった。だが目だけが違った。焦点が合っているのに、こちらを見ていない。話しかけても一拍遅れて返ってくる。体の中にもう一人、別の高村がいるみたいだった。

居酒屋に入って、乾杯だけして、酒が進まないのもすぐ分かった。高村はグラスを手に取るが、口をつけない。代わりに、店内を何度も見回した。女の客を順番に確かめるように、視線を滑らせていく。

「相変わらずだな。」

軽口を叩くと、高村は笑わなかった。ため息の途中みたいな声で言った。

「俺、やったらいけないことをやった。」

笑い話の前振りに聞こえなかった。言い切る時だけ、声が妙に強かった。

高村は京都での生活が合わなかったらしい。仕事はミス続きで、誰にも頼れず、部屋に帰ると何もかもどうでもよくなる。そういう日々の中で、唯一の慰めが、怖い話を読むことだった。幽霊だとか怪異だとかではなく、人が壊れていく話。普通の顔をしたまま、人が一線を越える瞬間。

「人間の狂気ってさ、見てるぶんには面白いだろ。」

昔からそう言っていた。俺も同調していた。安全な場所から眺める分には。

「で、触りに行った。」

高村はそう言って、指先でグラスの縁をなぞった。音がしないのに、ざらついた音が聞こえた気がした。

「触りに行ったって何だよ。」

「嫉妬。」

高村は淡々と答えた。自分で言葉を選んでいるというより、用意された文章を読み上げているみたいだった。

「嫉妬が一番、人をおかしくする。だから、作れると思った。俺が作れば、俺も見られると思った。」

その言い方が嫌だった。自分の身に起きたことを語っているのに、実験の結果を説明するみたいな口調だった。

高村は、わざと浮気をした。わざと匂わせた。わざとバレるように動いた。嫉妬の気配が濃くなる所を見たかった。誰かが泣いて、怒って、壊れていく所を、目の前で確かめたかった。

「でも、みんな離れていった。怒る前に終わる。壊れる前に終わる。俺は、何も見られなかった。」

そこで高村は初めて、悔しそうな顔をした。悔しそうというより、腹の底が空っぽで、そこに怒りを詰めようとしている顔だった。

「それで、由美と会った。」

由美という名前は仮名だ。高村は名前を言いたがらなかった。俺が尋ねても、首を振るだけだった。

由美は離れなかった。高村が過去に何をしていたか知っても、それでも好きだと言ったらしい。高村も、本気で好きになった。そこで実験は終わった。終わらせたつもりだった。

仕事も安定して、生活も整って、酒も旨くなって、ようやく普通に戻れると思った。

「だから、余計に、あの夜が分からない。」

高村は目だけで俺を見た。やっと焦点が合った気がした。合ったのに、冷えた。

その夜、由美が泊まりに来ていた。蒸し暑くて、寝苦しくて、午前二時過ぎに高村は目を覚ました。体が動かなかった。いわゆる金縛りだと思った。疲れていたし、珍しくないと思った。

天井を見て、呼吸を整えようとしているうちに、部屋の中を誰かが歩く気配がした。

高村はベッドの壁側で、由美が外側だった。視界の端を必死に動かして、部屋の暗がりを追った。

女がいた。

侵入者なら、物色する動きになるはずだ。けれど女は、ただ歩き回っていた。何かを探している感じでもない。部屋の空気を確かめているような、あるいは部屋の形を覚えているような歩き方だった。

女はふらふらとベッドへ近づいた。

由美の顔の真上で止まり、覗き込むように見つめた。高村は声を出したかった。腕を伸ばしたかった。体は石みたいに固まって、目だけが勝手に痛くなる。

女がゆっくり顔を上げた。

高村の方を見た。

暗い豆電球の明かりだった。色なんて分かるはずがないのに、女の顔だけが赤かった。血でも、光でもなく、塗られた赤だった。化粧の赤ではない。乾いた膜みたいな赤。人の皮膚の上に、別の皮が張り付いている感じ。

女は笑った。

笑顔と言うより、口だけが形を作った。嬉しいでも、面白いでもない。上手くいったとでも言うような、無関係な笑いだった。

女はそのまま、部屋を出ていった。

金縛りはしばらくして解けた。高村は玄関へ走って、鍵とチェーンを確かめた。異常はない。窓も閉まっていた。由美は寝息を立てていた。

由美を起こす気にはなれなかった。自分が見たものが何か分からなかったし、分からないものを、由美に渡したくなかった。

次の朝、高村はアラームで起きた。由美はまだ眠っていた。いつもなら由美の方が早く起きて、勝手に朝の段取りを整えてくれるのに、その日は動く気配がない。疲れているのだろうと思い、高村は静かに家を出た。

その日、由美から連絡はなかった。寝過ぎだと思ったが、電話はしなかった。もし眠っていたなら、起こすのが申し訳ないと考えたらしい。

仕事を終えて帰宅しても、由美はまだ横になっていた。

高村は笑いながら、由美の腕に触れた。

それで終わった。

由美の体は冷たかった。呼吸がなかった。救急車を呼び、胸を押し、声をかけ、人工呼吸をしても戻らなかった。

医者は心不全と言った。丈夫で、元気で、そんな兆候はなかったと高村が訴えても、医者は医者の声のままだった。病名は答えにならないのに、答えとして置かれていく。

高村は部屋に引きこもった。由美の死因を考えるのではなく、あの女の笑い方だけを反芻した。

そして高村は、拝み屋の所へ行った。

町の外れの、小さな家だった。初老の女が出てきた。部屋には祭壇らしい棚と、線香の匂いと、湿った布みたいな空気があった。高村は、全部を話した。浮気のことも、由美のことも、あの夜のことも。

拝み屋は黙って聞いて、途中で一度だけ言った。

「違うものが出るかもしれない。それでもいいか。」

高村が頷くと、拝み屋は祭壇の前に座った。何かを唱え始めた。高村は、答えが欲しいのに、答えが来てほしくない気持ちになっていたと言った。

十分も経たないうちに、拝み屋は動きを止めた。

顔色が一気に抜けた。

次の瞬間、口元を押さえて奥へ駆け込み、吐いた。水の音がして、戻ってきた拝み屋の目は赤かった。泣いた赤ではない。体が拒絶した赤だった。

拝み屋は座り直し、声を落とした。

「聞くか。」

高村は聞いた。

拝み屋は言った。

「由美さんに繋がったのは、あんたのせいだ。」

高村が反論しようとすると、拝み屋は先に言った。

「その女が来たんじゃない。あんたが呼んだ。」

「俺が、何を呼んだんだ。」

拝み屋はしばらく黙り、言葉を選ぶように唇を噛んだ。

「女の形をしたもの。赤い顔。嫉妬の形。あれは昔からいる。あんたが女を重ねた時に、目をつけられた。由美さんは、あんたの代わりに触れられた。」

高村は、言葉の意味を理解できなかった。理解したくなかった。

拝み屋は続けた。

「あんたは、探していた。見たいと思った。触りたいと思った。だから向こうも気づいた。見られるのが好きなものじゃない。見つけたら、離さない。」

高村は震えながら言った。

「じゃあ、あいつは何だ。鬼か。」

拝み屋は、首を横に振ったように見えた。頷いたようにも見えた。

「名前はどうでもいい。ただ、箱だ。」

「箱。」

「昔、そういうものがある。中に何が入っているかじゃない。入れ方だ。閉じ方だ。封じ方だ。箱に残ったものは、持ち主が死んでも終わらない。」

拝み屋はそこで口をつぐんだ。言えば言うほど、自分の口から何かが漏れるのを恐れているみたいだった。

高村は、その後で少し調べたと言った。外法箱という言葉が、昔の記録に出てくるらしいこと。巫女や祈祷師が持ち歩いたとされる箱があったこと。中身は一定ではなく、狐の骨だとか、木の人形だとか、そういう話が混じっていること。

だが高村は、どこにも確かな物を見つけられなかった。確かな物が見つからないのに、確かな恐怖だけが増えていった。

それから高村は、女を見るようになった。

最初は夜だけだった。自宅の窓の外に赤いものがちらつく。コンビニのガラスに、赤い顔が映る。駅のホームの柱の陰に、赤いものが止まっている。

気のせいだと思おうとすると、女は少し近づく。目を逸らすと、由美の死体の冷たさが指先に戻ってくる。高村は眠れなくなり、眠れても、目を覚ますと部屋の空気が誰かのものになっている。

俺は居酒屋で、高村の話を聞きながら、何度も言葉を探した。大丈夫だと言いたかった。精神的なものだと言いたかった。拝み屋の話が作り話だと言いたかった。由美の死を、偶然だと言いたかった。

けれど高村の目が、ずっと店内の隅を追っていた。俺がどんなに話しかけても、返事の前に、一度だけ目が泳ぐ。女の客を見ているのではない。客の背後を見ている。

「頼めばいいじゃん。拝み屋に。」

俺がそう言った時、高村は顔を上げた。初めて、怒鳴った。

「死んだ。」

「え。」

「拝み屋、心不全だって。隣に住んでた女子大生も死んだ。それも心不全だ。偶然って言うのか。」

俺は黙った。言葉が出てこなかった。偶然という言葉が、急に薄っぺらくなった。由美に出した時と同じ薄っぺらさになった。

高村は俯いて、かすれた声で言った。

「俺、もう無理かもしれない。」

その言葉が陳腐に聞こえたのは、俺が高村を昔の高村だと思い込んでいたせいだ。実験だとか観察だとか言っていた男が、今はただ、見られている。見られていることに耐えられないのではなく、見られることで、自分が空っぽになっていくのに耐えられないのだと思った。

その夜、俺たちは別れた。駅の改札で、高村はもう一度だけ周囲を見回し、俺を見ずに言った。

「女がいるわけじゃない。女がいない場所がない。」

それが最後だった。

次の日から、高村とは連絡がつかなくなった。会社にも出ていないらしい。京都の部屋にもいない。携帯は繋がらない。俺は、由美のことも、拝み屋のことも、誰にも確かめようがなかった。確かめる気にもなれなかった。確かめに行けば、関わりが深くなる気がした。

それでも、俺は最後に一度だけ、高村から電話を受けた。

夜中ではなく、夕方だった。雨が止んだ直後の、湿った光が窓に張り付いていた時間だ。

着信の名前を見て、手が冷たくなった。

出ると、高村の息だけが聞こえた。声が出ないのではなく、声を出すと何かが来るのを恐れているみたいだった。

「高村、どこにいるんだ。」

返事はなかった。その代わり、遠くで、何かを擦る音がした。濡れた布を床に引きずるような音。あるいは、人が笑う前に喉を鳴らす音。

高村が小さく言った。

「来てる。」

その直後、電話の向こうで、笑い声がした。

女の声だと断言はできない。女の声に聞こえたと言う方が正しい。けれどそれは、人が楽しんで笑う音ではなかった。息が詰まったまま漏れる笑い。喉の奥で泡が弾けるみたいな笑い。笑いという形を借りた、何かの合図。

高村が泣きそうな声で言った。

「見るな。」

電話は切れた。

俺はその後、しばらく携帯を耳から離せなかった。耳の中に、笑いが残っていた。残響ではない。自分の耳が、今も何かを拾っている感じ。

高村の行方は分からないままだ。

外法箱が実在したかどうかも分からない。高村が箱を見たのか、持ったのか、触れたのかも分からない。俺が知っているのは、由美が死んだことと、拝み屋が死んだことと、高村が消えたことだけだ。

昔、俺たちは言っていた。心霊は根源的な恐怖で、人間は狂気的な恐怖だと。今は少しだけ言い方を変えたい。

根源的に怖いのは、幽霊か人間かではない。自分が何かを見た瞬間に、もう安全な場所に戻れなくなることだ。見たことより、見た後の自分の立場が変わることの方が怖い。

あの電話以来、雨上がりの湿った夕方になると、俺は窓ガラスを見ないようにしている。映るのが自分の顔だけだとしても、安心できないからだ。

(了)

本作は、読者様から以下のコメントを受けてリライトしたものです。/2026年01月05日(月)

匿名 より:2017年11月23日 15:15 
文章がヘタ

匿名 より:2018年07月08日 05:58
普通に創作ですと言えばまだ読める話なのに
リアルの話っていうから寒くなるんだよ

アブソリュート・ゼロ より:2024年08月30日 20:05
丑の刻参りの正装が顔面を朱く塗ること、あと「魂魄」に触れていた点だけ良かった。
句読点と誤字脱字と主語が無かったり二重だったり……、とにかく物語がすんなり頭に入ってきませんでした。
話のまとめ方も「落としドコロはソコじゃないよね」みたいな、感覚の大きなズレを感じます。
彼女が出来たことで高村氏の考えが変わったかもですが、人の狂気……しかも権化・化身となった夜叉に魅入られて自身には直接的な実害が無いのに「俺もう無理なのかもな」は事態を切望した上での動向に及んだオカルト好きにしてはあまりにも陳腐な発言。
また、語り部が夜叉の笑い声を聴くというのも不自然。夜叉の想い人は語り部ではないし、標的は女だから語り部に正体をチラつかせる理由がない。
そこだけ…を……重く……言っても、効果など……無い!!!

語彙力の無い人が一生懸命に難しい言葉や難しい言い回しをして、さも頭が良いと思われようと躍起になる様とはこうも滑稽で見苦しものなのか、という見本。
冒頭の保険は気遣いや配慮でなく、打たれ弱さゆえの逃げ。
語り部は小説の一冊も読んでほしいです。

原作:

これから話すのは友人からの伝聞だ。まるで見たかのように話す所もあるが勘弁してもらいたい。

512: 本当にあった怖い名無し 2012/07/05(木) 18:54:39.25 ID:446tUXdQO

文才の無い俺が書く為に異常に長文乱文な上に、偉そうな文章になるかもしれない事も許して貰いたい。嫌な方はスルーして欲しい。

では本題だ。

今のようにジメジメとした梅雨の時期だ、友人の高村から一本の連絡があった。

「久しぶりに会わないか?聞いてもらいたい事がある」

就職で京都にいる高村とは連絡も途切れ、半ば疎遠となっていたが「聞いてもらいたい事」と深刻な赴きを感じた俺は二つ返事で了解した。

内容に入る前に軽くだが説明を挟ませてもらう。

高村とは高校大学ともに一緒で今思えば気味が悪い位に仲が良かった、だが周りから見たら俺と高村はどうみても友人同士として釣り合いがとれないように見えただろう。

高村はルックス、センス、運動神経、頭の出来、どれをとっても一流だった。

そんな高村に比べ、俺はこれといった才能も無く、本当にごくごく平凡な男だ。

そんな違い過ぎる俺達だが一つだけ共通点があった。

それは恐怖体験談が好きという一点だ。

それも一般的に知られるような心霊体験では無く、人間に関するものだ。

皆が皆では無いだろうし、間違った考え方かもしれないが俺達はこんな考えを持っていた。

「心霊現象というのは根源的な恐怖だ、得体のしれない謎に満ちた物を恐れるという根源的な物だ、俺達は人間に秘められた狂気的な恐怖を求めている」

心霊を否定している訳ではない、けれど俺達は人間の中にある狂気を求めていた。

だが因果なもので今から話す事は心霊現象だ、真実かは分からない……

俺に確かめる術は無い、だが何かがあったのは間違い無いと俺は考えている。

少し長くなったが内容に移らせてもらう。

数年ぶりに会った俺達は話しもそこそこに居酒屋に向かった。

久しぶりの再会を祝おうと少し高い酒を頼んだのだが、何故か高村はあまり進んでいなかった。

「お前どうかしたのか?好きだったよな酒?」

高村は苦笑いしながら一口だけ飲み、また手が止まった。

余りに前と違う高村を見て、やはり環境が変わると人も変わるのか?と少し淋しげに考えていた。

会話も途切れ途切れになり沈黙が多くなる中で高村のある行動が目についた。

一人一人店内の女性を確かめるかのように見つめていた。

俺は変わってない所を嬉しく思い「この好きモノが、そんな所は変わらんな(笑)」と高村を茶化すと、溜め息混じりにこう言った。

「俺は本当に……やったらいけない事をしたのかもしれない……」

俺は「は?」となったが、そこから高村はぽつぽつと話してくれた。

京都へ行った高村だったが京都での生活は合わず、仕事でもミスばかり繰り返していたようだ。

一人暮らしで荒れた生活だった事もあり、かなりのストレスを抱えていた中で高村の唯一の楽しみは冒頭で述べたように恐怖体験談を読みあさる事だけだった。

そんな億劫な毎日の中で高村は一つの考えに辿りついた。

「俺も人間の狂気に触れてみたい」

今思えば何処か壊れてたんだろうなと高村は語っていた。

高村が考えて導き出した答えは、狂気を生み出す原因の一つ『嫉妬心』を利用する、つまりは浮気をする事だ。

恵まれたルックスを活かし、何人もの女性と股をかけ、しかもわざとバレるような振る舞いをしていたようだ。

だが全く上手くいかなかった。

皆が一様に浮気がバレる前に離れていくか、バレたらバレたであっさり終わりの繰り返しだった。

それでも高村は諦めずに繰り返し女性との関係ばかりを求めた。

そんな中、高村は一人の女性と出会った、由美さん(仮名)という女性だ。

由美さんは浮気がバレても高村から離れていく事も無く高村を本当に好きでいてくれたみたいだった。

そんな由美さんを高村自身も本気で好きになった。

それからは由美さん以外の女性関係を絶ち、由美さんの支えもあり生活も仕事も上手くいって、高村は本当の意味で苦難を乗り越えたようだ。

だがその幸せも長くは続かなかった……

ある晩の事、余りの寝苦しさに高村は目を覚ました。

その日は由美さんが泊まりがけで高村の世話を焼いてくれたらしく、一緒に床についていたらしい。

時間は午前二時……そう丑三つ時と呼ばれる時間帯だ。

高村は目を覚ましたはいいが金縛りのように体は動かず、動かせたのは目だけだった。

普段の疲れがある為、大して気にも留めず眠れるようになるまで天井を見つめながらボーっとしていた。

時間にして十分位だろうか、高村はある事に気付いた。

誰かが部屋を歩く気配がする……

部屋の角にベッドがあり、壁側で寝ていた高村は気付かなかったようだ。

「こんな時にマジかよ……空き巣だったら洒落にならんぞ……」

そう考えた高村は必死に目を動かし、歩いている者を目で追った。

それは女だった。

しかし様子がおかしい。女は歩き回るだけで何かを物色している感じでは無かった……

異様な光景に高村は女から目を離せずにいると、今まで歩き回っていた女は急に立ち止まり、高村達の方へフラフラと近付いてきた。

女はベッドの前で立ち止まり、由美さんの顔を俯くように見つめていたらしい。

高村は恐怖もあったがそれ以上に「由美さんに何かあったら」とずっと女を睨みつけていた。

そして数十秒程女を睨みつけていると女はゆっくりと顔を高村の方へ顔を向けた。

高村は女の顔を見た瞬間心臓が止まるかと思う程に驚愕した。

部屋の明かりは豆電球だけだったが、豆電球の赤さと無関係に女の顔は赤かった、まるで朱で塗られているかのように……

女は高村を見ると、見るからに醜悪な笑顔を浮かべ、部屋を出て行った。

しばらくして自然と金縛りが解けた高村は玄関へ行き鍵とチェーンを確認したが何かされた様子は無かった。

由美さんを起こして話そうかとも思ったが、見てもいない由美さんを怖がらせる必要は無いと思い、その日は毛布に包まって必死で忘れようと眠る事に努めた。

高村はいつの間にか寝ていたのかアラームの音で目を覚ました。

由美さんはまだ寝ていた、いつもなら自分より早く起きて出勤の為の用意をしてくれているのだが珍しくまだ眠っているようだ。

「疲れが溜まっているのかな?」と考え、起こさずに身支度を整え高村は静かに家を出た。

その日、由美さんから連絡は無く、いくらなんでも寝過ぎだろと思ったが万が一寝ていたならと高村から連絡を入れる事はしなかったようだ。

仕事も早くに終わり直帰したが由美さんはまだ寝ていた。

「やっぱりか、寝過ぎだろ(笑)」と高村は由美さんを起こそうと由美さんの腕に触れた。

その瞬間、高村は凍り付いた……

由美さんの体が異様に冷たく、そして息をしていなかった……

高村は直ぐさま救急車を呼んだり、人工呼吸など施したが由美さんは助から無かった。

死因は「心不全」だと医者からしっかり説明して貰ったらしいが、体は丈夫で元気の良かった由美さんが何故?という気持ちは拭えなかった。

それから高村は会社にも行かず、自宅に引きこもっていた。

そしてあの晩の事をずっと考えていた、もしかしたらあの女が……と頭から離れなかったからだ。

高村は決心し、町の拝み屋の所へ行った。

高村はどうしても由美さんが死んだ本当の理由を突き止めたかったからだ。

拝み屋は初老の女性だった。

高村は事情を説明し、あの晩の事を詳しく拝み屋に説明した。

すると拝み屋は何も言わず祭壇の用意を始め高村にこう尋ねた。

「今から神懸を行いますが、貴方の考える物とは違う結果が出るかもしれません、それでもよろしいですか?」

高村は迷わず頷き、神懸の儀式は始まった。

高村は決心を固め真実を確かめようと拝み屋を真っ直ぐに見つめていた。

そして十分程たった時に異変は起きた。

急に拝み屋は動きを止めたかと思うと、真っ青になりトイレへ駆け出して行った。

高村は唖然としてその光景を見つめていたが、数分して拝み屋から今回の事の真相を告げられた……

「失礼しました、高村さん……今から告げる事は貴方にとって酷な事です、聞く聞かないは貴方が決める事です、どういたしますか?」

高村の決意は固く高村は拝み屋にこう告げた。

「どんな結果でもいいです、俺は本当の事が知りたいんです」

その決意をしっかりと汲んだかのように、拝み屋は暗く重たい口調で話し出した。

「わかりました、結果から言います、確かに貴方が言う女性が由美さんの死に繋がる事は間違いないです、ですが……はっきりと言います、きっかけとなった要因は貴方です」

そう聞いた高村の頭には疑問しかなかった、普段恐怖体験談で語られるような事はしていないし、近付くような真似もしていない、なのに何故と考え高村は拝み屋に尋ねた。

「あの……俺は危ない所には近付いたりとか無いし……要因って具体的には何なんですか?」

拝み屋は更に暗く重たい口調で話した。

「貴方は最近女性関係を重複したり、幅広く関係を求めたりしていましたよね?それが女性を呼び寄せるきっかけになりました」

話してない事を当てられ唖然としている高村に拝み屋はこう続けた。

「その女性は世間一般で言われる「悪霊」とは違います、遥か昔に嫉妬に狂い生きながらにして鬼となった女性です、その方から貴方は魅入られた……」

「鬼……ですか?」

高村は混乱していた。

ただでさえ初めて心霊現象に見舞われた上「鬼」などと言われたらそうなって当然だ。

そう聞かれた、拝み屋はこう告げた。

「そうですね、分かる範囲ですが経緯から話させてもらいます」

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ここからは何故、鬼になったかまでを話させてもらう。伝聞で長い為うろ覚えの部分もあるが聞いてもらいたい。

時代の背景までは聞いてはいないが遥か昔、呪術などを信じ、行使されていた時代だ。

ある良家、公家?に一人娘がいた。

その娘がとある縁談で庄屋の次男の所へ嫁いで行った先での話だ。

最初の内は仲睦ましく良い夫婦と世間でも評判の夫婦だったらしくとても幸せに満ちていた。

そして家を構えたが実家の家業柄か男は実家への通い婚となった。

初めの内は毎日帰宅していた男だったが年月が過ぎるにつれて二日に一度、三日に一度とどんどん帰宅する回数が減ってきたのだ。

男は仕事が忙しいと言っていたが実際はそうではない、男は浮気をしていた。

女はもちろん気付いていた、だが心底男に惚れ込んでいた女は只々男を待ち続ける日々を過ごした。

だがその思いも虚しく、男は遂に帰らなくなった。

元々嫉妬深かった女が狂うまでにそう月日は必要無かった。

そして女は「貴船大明神」にこう願った。

「貴方を七日間願い奉る、どうか憎々しい女を呪い、取り殺す方法を教えて貰いたい」

その願いが通じ、「貴船大明神」は女にある呪術を教えた。

その呪術とは周知であり世間一般で最も有名な呪術だと思われる……

そう、丑の刻参りだ。

だが世間で知られる物とは違く、恐らくこれが元祖のものと思われる。

白い衣装を纏い、髪を五つに分けて角のようにし、顔には朱、身には丹を塗り、鉄輪を逆さに被り、鉄輪の足に松を塗り火を付け、更に松明を口にくわえ両端に火を付ける。

その状態で河瀬に二十一日間浸かるという壮絶なものだ。

その苦行を達成し、遂には女は生きながらにして鬼となった。

鬼となった女は四十九本の頭の無い釘を女の家に向け人型に刺し、女を取り殺した。

女は歓喜とした男が戻って来ると……

だが男は戻らかった……

鬼となった女は完全に見放されたのだ。

だが女は諦め無かった、どんな仕打ちをされても男を慕う気持ちは無くなら無かった。

そして女は更に歪んだ思想を持った「自分以外の女がいなければいい」

女は山に入り、一人の幼子を拾う、頭が通常より大きく異業な姿、奇形児だ。

女は子供を育てた、自分の目的の為だけに……

その育て方は悍ましいの一言に尽きるものだった。

山を通る人を襲い、路銀を奪い、殺した。

だがそれだけではない、必ず二人一組を狙い、片方を惨たらしく殺した後にもう片方を殺す、そして後に殺した方の首を切り落とし、砕き、粥に混ぜ子供に与えていた。

古い思想だが、人間の頭には「魂魄」が宿るとされてきた。

だが「魂」と「魄」は別物で「魂」は死後天に昇る魂で「魄」は重く濁り、死後は頭部に留まり、やがて散って行く魂とされている。

女は「魄」だけを子供に与え続けた。

そうする事で怨鎖の念を増幅し断ち切らぬように。

そして十年の月日が経ったある日、女の目的が実行された。

恐らく歳にして十二歳位だろうか、自分が育てた子供を生きながらにして首を切り落とした。

生きながら殺す事で「魂」も「魄」共に頭部に残した。

そして頭部を人の行き交う街道に埋め、人が行き交う事で「魂」が昇るのを防ぎ、怨鎖の念が増幅する事を待った。

そして怨鎖の念が増幅し続ける事十二日目、女は頭部を掘り起こし、頭部の中の土と自分の血を混ぜ合わせ土像を作った、悍ましいまでの鬼の像だ。

それを箱に納め封をし、出来上がったのが「外法箱」だ。

通常とは作り方も意味も根本から違う恐ろしいもの。

それを用いて、町の女を呪い殺そうとした。

だが、十年という長い歳月が経ち、あれだけ恐ろしく悍ましい事をしてきた女が噂にならない筈がない。

町に堂々と出て来た女は町人から捕まった「鬼」として。

そして今までの数々の所業の償いとし、無論処刑となった。

だが町民達は恐れた、生きながらにして鬼となった女をそのままにしていいものかと……

祟りに見舞われるのではないかと……

そこで丁度来訪していた歩き巫女に相談した。

歩き巫女はこう町民に告げた。

「このままで怨念による祟りに見舞われるでしょう、私の指示通りにして下さい」と……
歩き巫女がとった方法は「逆さ埋葬」だ。

仏説に基づくもので、地獄など悪趣に堕ちた者は現世とは逆の姿をしていると、つまり屍体を物理的に地獄と同じにする事で祟りを封じた。

それだけでは済まさず、「黄泉還り」を防ぐ為、街道に地中深く穴を掘り「逆さ埋葬」した上で何重にも石で封をし、埋葬した。

そうする事で「黄泉還り」を防ぎ、よく人が往来する事で霊が浮かび上がるのも防ぐようにした。

そして鬼となった女の祟りは封じられた……

俺はここまで聞き一息入れ、そして疑問となる事を高村に問い掛けた。

「今の話が本当だとしても何でその女は死んだ後の事も知ってんの?おかしいだろ」

正味、今の現代に呪いだ、怨念だが残っているとは思え無かったからだ。

高村はこう話してくれた。

「正確に言うと……女の霊が起こした事じゃないらしい、問題は、箱の方らしいんだよ……」

拝み屋の話によると、霊は今だに元街道に封じられたままか、すでに地獄に堕ちているらしい。

今回の事を引き起こしたのは女が残した「外法箱」だと言った。

「魅入られたのは「箱」に残る怨念なんだよ……」

高村は泣きそうな声で呟いていた。

俺は重過ぎる雰囲気を軽くしようと高村に言った。

「言い方悪いけどさ……由美さんが亡くなったならもう終わった事じゃないかな?お前が元気無かったら由美さんだっ……」

高村は遮るように怒鳴ってきた。

「何もおわってねーよ、知った風に言うな」

高村は怒鳴った後、ハッとして「悪い」とひとこと言って、俯いた。

俺は周りに軽く頭を下げ、高村に尋ねた。

「終わってないってなんだよ?何が終わってないんだよ?」

高村はか細い声でこう言った。

「最近見えるんだ……昼間だろうが夜中だろうがあの女が……俺もう無理なのかもな……」

高村が周りを確認していた理由がようやく分かった気がした。

高村は女性を見ていたわけじゃない、女の怨念がいないかを見ていたんだ。

俺は空元気を出し高村を励まそうとした。

「大丈夫だって、話も眉唾だし、由美さんが亡くなって落ち込んでるのが原因なのかもしれないしな?それにさ、もし何かあったらその拝み屋に頼めばいいじゃん」

高村は更に俯きながら呟いた。

「拝み屋は死んだよ、心不全だった、隣に住んでた女子大生も死んだ、それも心不全だ、そんな偶然あるか?」

俺は何も言えなくなり、それから一言も話す事も出来ず居酒屋を後にした。

そして高村と会ったはその日が最後になった。

冒頭で述べたが「心霊は根源的な恐怖、人間は狂気的な恐怖」そう言ったが間違いだったのかもしれない。

心霊も元が人間である以上、本当の根源的な恐怖は人間の狂気なのかもしれない。

そして俺は一人の男性の為にここまでの事が出来、遠い先にまで恐怖を残す、俺は人間の持つ狂気に心底恐怖した。

正直この話が真実かは分からない、かなりうろ覚え部分もあるし、最愛の人を亡くした高村がノイローゼになっただけかもしれない。

だが俺は確かに聞いた。丁度高村が失踪する前日に。

高村から、かかって来た電話の先で、高村の怯える声に混じり、狂ったように笑う、女の、声を……

高村の行方は、現在も判明しないままとなっている……

後日談

高村と箱の関係……

それが分からないんです。

話しの中でも箱がどうなったかを聞いた覚えは無いし、高村が持っているとかそんな感じじゃなかったです。

ただ、箱が原因だとしか聞かされていないんです。

共通するのが箱というだけですから、コトリバコとは全く違うと思います。

「外法箱」については、少し調べましたが、昔に実際あった物らしいです。

歩き巫女達が持った御本尊の事です。

ちゃんと史実にあります。

高村が話した、逆さ埋葬が仏説に基づくのも事実ですし、黄泉還りを防ぐ為にした事で石の下敷きになった骨が全国で多数出てきた事があるのも事実です。

中身はククノチ神の人形とか、狐の髑髏本尊など様々らしいですが。

拝み屋は大概の町に一人はいると聞きます。

どんな力を持つかなんてわかりませんし、本当に力があるのかはわかりませんが。

それに、高村自身おかしくなっていたのは間違い無いですから。

(了)

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