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腹の上の手 rw+3,786

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これは幽霊の話ではない。怪奇現象でもない。おそらく、ただの夢の話だ。

けれど夢というものが、どこまでを内側と呼べるのかは、今もはっきりしない。

幼い頃、毎晩のように悪夢を見ていた。

怖さそのものよりも、逃げ場のなさがつらかった。眠れば必ず、あちらに連れていかれる。布団に入る行為が、底の見えない穴に横たわることと同じ意味を持っていた。

二段ベッドの上段は、とくにいけなかった。天井が近く、空間が狭い。その密閉された暗さの中で目を閉じると、現実の部屋よりも先に、夢の部屋が立ち上がってくる。

最初の夢は、和人形だった。

薄暗い室内。豆電球だけが点いている。私は布団に横たわっている。動けない。横を向くと、人形が立っている。さっきまで棚の上にあったはずのそれが、床に下りている。

足音はしない。

歩いているのに、音がない。

それが何よりもおかしかった。

人形はゆっくりと近づいてくる。周囲はぼやけているのに、人形だけが鮮明だった。まるで夢の背景に貼りついた異物のように。

枕元に立った瞬間、目が覚める。だが、心臓の鼓動だけが夢の静寂を引きずっていた。

別の夜、廊下に立っていたことがある。

奥に黒い塊があった。人の形をしているが、輪郭が溶けている。粘土のようにぐずぐずと崩れながら、それでも立っている。

逃げようとする。体が重い。声が出ない。

階段の方へ後退する。

塊は動かない。ただ、そこにいる。

逃げ切った、と思った瞬間、現実に戻る。汗で濡れた枕。喉の奥に残る呻き声。

顔のない女もいた。

窓の外に浮かんでいる。体はある。顔だけが真っ白だ。目も口もない。それでも視線があるとわかる。

腕が伸びる。ガラスを通り抜ける。冷気が指先に触れる。

叫んだ。

そのとき、自分を見下ろしている感覚があった。布団の中で泣いている自分を、少し高い位置から眺めている。

夢の中で見ているのか。夢から外れて見ているのか。

区別はつかなかった。

祖母に相談したことがある。

「お腹に手を置いて寝ると、怖い夢を見るよ」

それだけだった。

確かに私は、両手を腹の上に重ねて寝ていた。死人のような姿勢だと、あとで思った。

やめてみると、悪夢は減った。

ぴたりと止んだわけではない。けれど、頻度は明らかに落ちた。

私は成長し、一人で眠れるようになった。

中学に上がった頃、試してみた。

もう大丈夫だろうと思ったのだ。

両手を腹の上に重ねる。ただそれだけのこと。

その夜、黒い塊が出てきた。

廊下ではなかった。部屋でもなかった。

暗い空間に、私と塊が立っていた。

いや、もう一人いた。

幼い頃の私だ。

布団に横たわったまま、こちらを見ている。

塊は動かない。子どもの私も動かない。

ただ、私を見る。

その視線に、非難も怒りもない。

あるのは、待機だ。

何かが起こるのを、待っている。

目が覚めたとき、両手は腹の上にあった。

自分で置いたのに、置かれたような感覚が残っていた。

この話を何人かにした。

「試してみる」と言った人はいなかった。

賢明だと思う。

夢は主観の産物だ。科学的に説明もつくだろう。金縛りや睡眠麻痺という言葉もある。

ただ一つだけ、気になることがある。

あの夜以降、腹の上に手を置いて眠らなくても、まれに視線を感じる。

目を閉じる直前、暗闇の向こうに、誰かがいる気配。

幼い私かもしれない。

あるいは、別の何かかもしれない。

もし確かめたいなら、方法は簡単だ。

布団に入り、両手を腹の上に重ねる。

動かさない。

目を閉じる。

沈んでいく。

そのとき、あなたが一人で眠っていると、どうして言い切れるのか。

[出典:536:本当にあった怖い名無し:2013/11/21(木) 01:16:28.11 ID:DdQwFsQF0]

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