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廃病院からの着信 r+3,480

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まだ俺が大学にいた頃のことだ。二、三年前になるだろうか。

ある夜、実家から婆ちゃんが倒れたと連絡があった。小さい頃からずっと面倒を見てくれていた婆ちゃんだ。いてもたってもいられず、すぐに帰省して病院に駆けつけた。幸い大事には至らなかったが、俺は一週間ほど大学とバイトを休むことにした。

久々の実家はどこか薄暗く、かつて自分の部屋だった場所は弟に奪われていて居場所がなかった。居間で寝転がっても落ち着かない。時間を持て余して、結局は県内に残っていた友人に連絡をとった。みんな就職したり専門学校に行ったりで忙しかったが、三人ほど暇を持て余している奴がいて、翌日からつるむことになった。

しかし、田舎というものはとことん退屈だ。カラオケ、ボウリング、三十分もかけて行くネットカフェ。飲みに行く金も惜しかったから、俺たちはほとんどファミレスでドリンクバーを頼んでだべるだけだった。

帰省から六日目、火曜の夜。俺と庄司、富樫の三人でまたファミレスにいた時のことだ。
「相変わらずマジでなんもねぇな」
俺がぼやくと、庄司が「東京に比べたらそりゃな」と笑った。
そのとき富樫が言った。
「じゃあさ、あそこ行ってみねぇ?」

あそこ、とは地元で有名な廃病院のことだった。
昔から噂は絶えない。手術室には機材やメスが残されたまま。地下には死体。看護婦の幽霊。どこにでもある怪談のテンプレートだが、俺は昔からそういう場所に近づきたくなかった。けれど、庄司と富樫が盛り上がって、ついには小山田にも声をかけて現地集合になった。

その病院は、町外れのさらに先、田んぼと畑に囲まれた村にある。三階建てで、当時は立派だったはずの建物。けれど今はガラス扉が鎖で縛られ、窓ガラスは割られ落書きまみれ。周囲に街灯は少なく、月明かりがやけに冷たく見えた。

庄司は先輩から聞いたという奇妙な話を披露した。
「ここで煙草を捨てたら急に変になって、『○○町に帰る』って繰り返した奴がいたんだってよ」
その人はもともと○○町に住んでいるのに。

嫌な話を聞かされて気分は最悪だったが、ビビってると思われるのも嫌で、俺は軽く流してついていった。

コンビニで買った安物の懐中電灯を片手に窓から侵入すると、足元でガラスがパキパキ鳴った瞬間、全身が凍るように寒くなった。鳥肌が立ち、逃げ出したくて仕方がなかったが、庄司が車の鍵を持っているため置いていかれるわけにはいかなかった。

受付の広間は荒れ果てていた。土にまみれたファイル、ひしゃげた棚、割れた窓口。光に照らされたそれらが妙に生々しく見えた。
庄司がわざと大声を出すと、声が建物の奥で反響して消えていった。

地下へ行こうとする二人を必死に説得して、俺たちは二階へ上った。……その途中、振り返った時だった。壁の角から、下へと続く階段に“足”が見えた。人間の足首から下。薄暗がりに確かにあった。

息が止まり、全身が金縛りに遭ったように動かなくなった。富樫の「どうした?」という声で我に返り、無理やり自分に“見間違いだ”と言い聞かせた。

二階、三階では特に異常はなかった。ただ古いテレビが壊されて放置されているくらいだ。庄司は「これ先輩が壊したやつだな」と笑っていたが、俺には笑えなかった。

やがて俺たちは一階に戻り、結局地下に下りることになった。ここからが地獄だった。

地下は異様に整っていた。散乱物が少なく、まるで誰かが手入れしているように片付いていた。消毒液の瓶や車椅子がそのまま並んでいて、空気はひどく淀んでいた。

奥に「手術室」と書かれたプレートが見えたとき、富樫ははしゃいで駆け出した。
その瞬間から、俺の頭の中は水に沈められたみたいにぼんやりし、耳の奥が詰まったようになった。

富樫が突然転んだ。庄司は大笑いしたが、すぐに異常に気づいた。富樫は呻き声を上げ、脛を押さえて震えていた。手をどけると、そこには肉が抉れ、白い骨が覗いていた。

頭が真っ白になった。庄司と必死に富樫を抱え起こそうとしたとき、ライトの光が手術室の扉を照らした。
扉は、開いていた。

その隙間から、何かがこちらを覗いていた。
輪郭がぼやけ、目だけがぎらりと光を返す。太った肉の塊のような体が、左右に揺れながら近付いてくる。俺は叫び、庄司も絶叫し、富樫を引きずって逃げた。

しかし、背後からカラカラカラと車椅子の音が迫る。振り向いたとき、無人の車椅子が猛スピードで突っ込んできて、富樫と庄司にぶつかった。庄司は完全に錯乱し、叫びながら廊下の奥へ走り去った。

俺は必死で富樫を引きずったが、足元に“顔”が現れた。
子供の顔だった。
俺の足の間から真上を見上げ、無表情のまま見つめてくる。怒っているようにしか見えない無表情。その光景を見て、俺は富樫を置き去りにして逃げた。

鎖で塞がれた玄関を必死に揺さぶったとき、バイクのライトが目に飛び込んだ。小山田だった。彼の姿を見たとき、初めて助かったと思った。

しかし、その後の出来事はさらに理解不能だった。
庄司も富樫も戻ってこなかった。警察は信じてくれず、俺は疑われた。富樫は地下で死体で見つかった。庄司はいまだ行方不明だ。

携帯電話には富樫から三十件を超える不在着信。しかも、小山田の携帯にまで“富樫”から電話がかかってきていた。電話の向こうの声は「いる」「手術してる」と繰り返していたという。

俺はあの日以来、いまだに眠れない夜がある。
警察の取り調べで、富樫の傷は「人に噛まれたようなもの」と言われた。
思い返せば、俺の足元に現れた子供の顔――。あれが富樫の脚に噛みついたのだろうか。

……もし今、俺の携帯に庄司や富樫からの着信があったら。
考えるだけで胸が詰まり、眠ることができない。

(了)

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