学校であったこと、ちゃんと書きます。
変だったらごめんなさい。
最近、少しだけ、頭の中の順番が入れ替わっている感じがします。
今日も放課後、図書室に残りました。
友達は部活で、私は帰る理由がなかったからです。家に帰っても、あの温室の匂いがする気がして。だから、まだ明るい校舎の中にいるほうが安全だと思いました。
でも、夕方の学校はだめですね。
廊下の先が長くなって、階段の踊り場が深くなって、全部が少しだけ、夢の中みたいになります。
図書室の奥の棚。
誰も触らない古い本の列。
そこで、ぱらぱら、と音がしました。
紙がめくれる、乾いた音。
でも、足音はありません。
司書の先生はもう帰っているし、私しかいないはずでした。
音は止まらなくて、でも近づくと、すっと消えました。
空気だけが残っていました。
誰かが立っていた場所の、体温みたいな、濃い空気。
甘い匂いがしました。
花みたいで、でも鉄みたいで、少しだけ舌にざらつく匂い。
棚の一番下に、茶色いノートがありました。
角が丸くて、使い込まれた感じ。
見たことないのに、知っている気がしました。
表紙の裏に、小さい字で「月うさぎ」と書いてありました。
私のハンドルネームです。
誰にも言っていません。家族も、友達も、学校の人も。
なのに、ここにあります。
心臓が速くなって、でもなぜか、少しうれしかったです。
見つけてもらえた、みたいで。
開いたらだめな気がしました。
でも、開かないと、もっとだめな気がしました。
少しだけ、開きました。
知らない字でした。
でも途中から、私の文章が混ざっていました。
温室のこと。
匂いのこと。
丸いものが増えること。
そして、私がまだ書いていないはずの続き。
「学校でも、もう見られている」
その下に、丸がたくさん描いてありました。
小さい丸。
びっしり。
目みたいでした。
無意識に数えようとして、やめました。
数えたら増えると、書いてあったから。
そのとき、後ろで椅子が引く音がしました。
ギィ、と。
振り向くと、閲覧席の椅子が一つだけ、机から少し離れていました。
誰かが立ち上がったみたいに。
さっきまで、全部きちんと並んでいたのに。
喉が渇いて、声が出ませんでした。
ノートを閉じようとしたら、丸が一つ、増えていました。
数えていません。
見ただけです。
でも、確実に増えていました。
ページの端に、私の字で、
「もう、見ないで」
と書き足されていました。
私、書いていません。
でも、その字は、私です。
少しだけ震えていて、でも、間違いなく私の癖です。
背中の後ろに、息が当たりました。
あたたかくて、湿っていて、耳の奥に入りました。
「数えたら、増えるよ」
ささやきました。
振り向きませんでした。
振り向いたら、増える気がしたから。
ノートを棚に戻しました。
でも、手が離れませんでした。
指が、表紙に吸いついているみたいで。
やっと離して、机に戻ると、カバンのチャックが少し開いていました。
中に、茶色い紙の切れ端が入っていました。
丸が、三つ。
増えています。
家に帰ってから、手を何度も洗いました。
匂いが取れません。
甘くて、鉄みたいで、少しだけ、花みたい。
頭の中がきらきらします。
きれいで、でも、刺さります。
今、これを書いています。
ノートは持って帰っていません。
でも、机の上に、茶色い紙が一枚あります。
丸が、増えています。
さっきは三つでした。
今は、いくつあるか、分かりません。
数えていないから。
画面の端に、小さい丸が見える気がします。
瞬きすると、少しずれて、でも消えません。
もしかして、読んでいますか。
数えていませんよね。
私は数えていません。
でも、たぶん、もう学校だけじゃないです。
見られているのは。
見ているのは。
どっちが先だったのか、分からなくなってきました。
明日、図書室に行きます。
棚が空になっていたら、どうしよう。
でも、もしノートがなくなっていたら、
今あるこの丸は、どこから来たんでしょう。
まだ、増えていませんよね。
ちゃんと、見ていないですよね。
お願いします。
数えないでください。
[出典:356 :月うさぎ ◆x7J8mY2Q:2004/04/03(土) 23:18:05 ID:Ls2vZpKe]
[投稿者:志那羽岩子 ◆PL8v3nQx6A]