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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

通り道に立っていた人 nc+

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俺が小学生の頃の話だ。

いつから見ていたのかは、もうはっきりしない。気がついたときには、そこにいた。薄い水色のワンピースを着た女だった。前に小さなボタンが並んでいる、どこか古風な形の服だ。最初に「これはおかしい」と意識したのは、小学三年の春、習字を習い始めた初日の帰り道だった。

夕方の住宅街で、車も人も少なくなる時間帯。曲がり角の先に、その女は立っていた。道を塞ぐように、だが完全には邪魔にならない位置で、こちらを向いていた。距離は十メートルほど。目が合った瞬間、女は口元を横に引き延ばし、笑った。声はない。ただ、歯を見せるでもなく、皮膚だけが不自然に引きつったような、ニタニタという表現が一番近い笑い方だった。

怖くて、その日は遠回りをして帰った。翌日も、その次の日も、同じ場所に立っていた。服も髪型も変わらない。誰かに言おうとしたが、言葉にした途端に嘘みたいに感じてしまって、結局言えなかった。家族にも、友達にも、先生にも言わなかった。言えば消えてしまいそうな気がしたのだ。

どうしてもその道を通らなければならない日は、俯いて全力で走り抜けた。視界の端に水色が残るのがわかる。背中に視線が突き刺さる感覚がして、振り返ると、必ず女もこちらを振り返っていた。そして、同じ笑い方をしていた。

年齢は三十代後半くらいに見えた。化粧は薄く、髪は肩につくくらい。派手さはないが、整った顔立ちだった。なのに、どうしても「人」だと思えなかった。何かを伝えたいようにも、害を加えたいようにも見えない。ただ、そこに立ち、こちらを見て笑っている。それだけだった。

不思議なことに、成長するにつれて、女を見る頻度は減っていった。中学生になる頃には月に一度見るかどうかになり、高校に入ると、ほとんど見なくなった。完全に見なくなったのが、いつだったのかは覚えていない。気づいたら、いなくなっていた。

それから何年も経ち、俺は社会人になり、A子と出会って結婚した。事情があって結婚式は挙げず、両家の身内だけで小さな食事会を開いた。そこで、A子とその母親が、何度も同じ人の名前を口にした。

静子伯母さん、という名前だった。A子の母親の姉で、妹が親の反対を押し切って駆け落ちしたあとも、唯一連絡を取り続けてくれた人らしい。A子の父が亡くなったときも、母親が癌で入院したときも、身の回りの世話をしてくれたという。だが、その静子伯母さん自身も、数年前に癌で亡くなっていた。

後日、アルバムを見せてもらったときのことだ。何気なく差し出された一枚の写真を見て、息が止まった。そこに写っていたのは、あの女だった。顔の輪郭、目の形、口元。記憶の中の姿と、寸分違わなかった。

「どうしたの?」とA子が聞いた。俺はしばらく声が出なかった。ようやく、子供の頃に見ていた女の話をすると、A子は少し考えてから、アルバムをめくった。

「もしかして、こういう服?」

差し出された写真には、薄い水色のワンピースを着た静子伯母さんが写っていた。前に並んだボタン。見覚えのある形だった。その服は、伯母さんが自分で縫った、お気に入りの一着だったらしい。

計算してみると、どうにも合わない点があった。俺が小学三年生の頃、伯母さんはまだ二十代後半のはずだ。亡くなったのは四十代後半。だが、俺が見ていた女は、明らかに三十代後半の姿だった。写真を見比べると、その年代に撮られた一枚が、記憶と完全に一致した。髪型も、表情も、まさにあのとき見ていた姿だった。

夜、ひとりでその写真を見返した。昼間見たときと、印象が違う気がした。口元が、わずかに歪んで見える。笑っているようにも、耐えているようにも見える。別の角度から見ると、普通の穏やかな表情に戻る。

何度も見返すうちに、あることに気づいた。写真の表情が変わるのではない。見るたびに、俺が思い出す「笑い方」が違っているのだ。道に立っていたときの、あの気持ち悪いニタニタした笑い。それを思い浮かべながら見ると、写真もそう見える。ただの記念写真として眺めると、優しそうな伯母さんの顔に戻る。

それ以来、アルバムを開くのが怖くなった。見なければいいと思っても、なぜか気になってしまう。開くたびに、写真の中の伯母さんが、あのときと同じ距離で、同じ位置に立っている気がする。

理由はわからない。なぜ俺だったのか。なぜあの年齢の姿だったのか。なぜ、笑っていたのか。意味を考えようとすると、頭の中で、あの夕方の道の光景が蘇る。

水色のワンピースの女が、道の先に立っている。こちらを見ている。笑っている。声はない。ただ、通り過ぎるのを、ずっと待っている。

[出典:866 :1/2@\(^o^)/:2017/07/18(火) 09:59:00.27 ID:CBMOcW530.net]

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