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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

名簿にない文字 nc+

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職場に来る取引先の担当者から聞いた話だ。

製造業の工場で、毎朝、必ずどこかに同じ職員の名前が書いてあるという。

壁、床、作業台。場所は一定しない。誰かの悪戯にしては雑で、しかし毎日欠かさず現れる。ひらがなで、筆でも指でもない不自然な線。正しい書き順でもない。例えば「い」が、下から引き上げるように書かれている。子供の字とも違う。文字の練習途中で投げ出したような、落ち着きのない形だった。

最初は冗談として処理された。誰かがふざけているのだろうと。だが、誰がやったのかを特定しようと監視を強めても、書かれるのは止まらなかった。出勤前の清掃後、誰も入らないはずの時間帯に現れている。

決定的だったのは、塗装工程での出来事だ。
乾燥中の製品がライン上に何十個も並んでいる。動かすには手間がかかり、責任者の許可もいる。その全てをどかした床に、同じ名前が書かれていた。乾いた塗料の下から浮き出るように。

写真を見せてもらった。
確かにそこにあった。加工のしようがない位置で、製品の影になる場所に、例のひらがなが残っていた。

さらにおかしな現象が続く。
棚に片付けてあったネジが、落下では説明できない速度で飛んでくる。目の前を横切る。机に置いた刷毛や工具が、弾かれたように跳ねる。動画もあった。編集の形跡はなかった。撮影している側の息遣いだけが荒い。

さすがに空気が変わった。
盛り塩をした。翌朝、皿が真っ二つに割れていた。倒れた形跡はなく、真上から力がかかったような割れ方だった。

工場には、霊的なものが視えるという職員が一人いた。半信半疑ながらも、その人に相談した。名前を書かれている職員の写真を見せた瞬間、その人は顔を背けたという。
「無理。憑いてる」
それだけ言って、それ以上は何も語らなかった。

問題の職員本人にも話は伝えられた。
お祓いに行くよう勧められたが、本人は頑なに拒否した。怖がってはいるが、「原因は自分じゃない」と繰り返す。自分のせいで職場に異変が起きているとは認めない。

性格に難がある人物だという話も出た。
ペットを十匹ほど飼っているが、世話が雑だという噂もあった。だが、それ以上の確証はない。結局、職員全体でお祓いに行く案も出たが、話は立ち消えになった。

それからしばらくして、変化が起きた。
名前が書かれなくなった。

正確には、以前と同じように文字は現れる。ただし、誰の名前なのか分からなくなった。
ひらがなは相変わらず不揃いで、書き順もおかしい。だが、職員名簿と照らし合わせても一致しない。似ているが違う。読めそうで読めない。

その頃、例の職員は退職していた。
理由は体調不良。突然来なくなり、そのまま辞めた。連絡は取れず、私生活についても分からない。

にもかかわらず、文字は毎朝あった。
以前と同じ場所ではない。壁、床、作業台。塗装ラインの下。
誰の名前でもない文字列が、確かに「名前を書く」という行為だけを繰り返していた。

視えるという職員が、もう一度それを見た。
今度は顔を背けなかった。ただ、首を傾げてこう言った。
「これ、もう人じゃない」

それ以上は聞けなかった。
工場では、その話題を口にする者はいなくなった。動画も写真も残っているが、誰も見返さない。

毎朝、どこかに文字はある。
消しても、塗り直しても、翌日には現れる。
それが誰の名前なのか、もう誰も知らない。

それでも書かれ続けているという事実だけが、職場に残っている。

[出典:677 :可愛い奥様@\(^o^)/:2017/05/11(木) 19:24:27.26 ID:ZrsBEb9B0.net]

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