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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

コーイチ君からの伝言 n+

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あの夜を境に、俺は知らない番号からの着信にいまだ怯えている。

長い話になるが、これは俺の身に確かに起きた出来事だ。落ちもなく、理屈もつかない。ただ気味が悪くて、どうにも忘れられない。

当時十九歳。俺はまだ携帯を持っていなかった。友達からは不便だと散々文句を言われていたが、頑なに持たずにいた。そんな頃、俺の部屋で彼女とくつろいでいた時、彼女の携帯が鳴った。何の変哲もない日常の一コマだった。

「もしもーし」と彼女は出る。最初は普通の表情だったのに、段々と眉をひそめ、不思議そうに俺の方を見てきた。首を傾げ、口をすぼめる。俺が「どうした?」と聞くと、彼女はマイク部分を手で隠し、「よくわかんないから代わって」と言った。

代わる? 俺が? 半信半疑で受け取って耳に当てた。

「もしもし?」

受話口から弾むような若い女の声が聞こえた。

『あ、代わってくれた! コーイチ君? 私、ちゃんと電話したよ! よかったー! 代わってくれて。女の人が出たからビックリしちゃった!』

声は明るく、弾んでいた。だが俺はコーイチという名前ではない。全く関係がない。間違い電話だと思い、「誰にかけました?」と聞いた。

『え、コーイチ君でしょ? いつもと同じ声だもんね!』

ぞわっとした。だが気味の悪さよりも先に、単なる勘違いだと頭が処理した。「違います」とだけ言って電話を切った。

「間違い電話だったよ」と彼女に告げる。だがその直後、再び携帯が鳴った。同じ番号だった。

嫌な予感がしたが、説明して終わらせるつもりで出る。

「もしもし」

『何で切っちゃうんですか?』

女は拗ねたように言った。

「いや、俺はコーイチじゃない。しかもこの携帯、俺のじゃなくて彼女のだから」

『え? でも昨日夢で教えてくれたよね、この番号』

一瞬、心臓が強く跳ねた。夢? 知らない人間の夢に自分が出てきたというのか。馬鹿げている。だが声は真剣味を帯びていて、冗談を言っているようには思えなかった。

俺は「知らない」と突っぱねた。だが女は食い下がる。

『声は同じだよ? 昨日夢で聞いてすぐメモしたんだよ?』

背筋に冷たいものが走った。まるで見られていたような錯覚。だが飲み込まれてはいけないと思い、強く言った。

「だから俺はコーイチじゃない!」

その瞬間、女は少し黙り、やがてこう言った。

『じゃあ……友達になってください』

頭の中が一瞬真っ白になった。思考が止まり、言葉が出なかった。横で聞いていた彼女も目を丸くしていた。結局俺は「無理」と言って電話を切った。

それが最初の「コーイチ女」との遭遇だった。

――一年後。二十歳になり、周囲からの苦情に折れてついに自分の携帯を持った。彼女とも付き合いは続いていたが、あの奇妙な電話のことは忘れかけていた。ある日のドライブ中、俺の携帯が鳴った。見知らぬ番号。何も疑わずに出た。

「もしもーし」

受話口から流れた声に、血が凍った。

『コーイチ君?』

助手席の彼女を見る。口パクで「コーイチ」と伝えると、彼女も怯えた表情を浮かべた。俺は震える声で「違います」とだけ言って切った。だがすぐに着信が再び鳴る。同じ番号。無視しても鳴り止まない。仕方なく出る。

「……もしもし」

『やーっと出ましたね』

楽しげな声。異様に明るいその調子が余計に不気味だった。

「……何の用だ」

『コーイチ君がね、また電話番号教えてくれたんです。夢で』

また夢。しかも「また」という言葉。俺はもう否定する気力もなく、「そうか、で?」と応じた。女は夢の中でコーイチ君と話していると言い張った。俺の声がそのコーイチにそっくりだと。

恐怖は次第に苛立ちに変わり、強引に会話を切り上げた。

それから二年。俺は彼女とも別れ、携帯も別会社に変えた。就職が決まらず焦りながら、酒屋で配達のバイトをしていた頃だ。夕方、また知らない番号からの着信。ドキリとしたが、仕事中なので客かもしれないと思って出た。

『お久しぶりです。覚えてますか?』

あの声だった。胃の底がざわめき、冷たい汗が流れた。女は初めて名を名乗った。「ミナ」と。地元に同名の知人はいたが、声は全く違った。

「……何の用だ」

『やっぱりコーイチ君が教えてくれたんです。番号を』

三度目だ。執拗さに吐き気がした。彼女は謝りながらも「仲良くなりたい」と繰り返す。俺は拒絶し、電話を切った。しかしその夜、また着信。出るとミナは必死に語り始めた。

夢の中で、コーイチ君と家族のこと、友達のことを話していると。助けてもらっていると。ある夜、コーイチ君が「この人と話せば僕に会える」と番号を教えてきたのだと。

声は落ち着いていて、理路整然としていた。だからこそ狂気を孕んでいた。俺は最後まで聞き、そして言った。

「無理だ」

『……無理ですか』

落胆した声。だが彼女は「これで最後にします」と言い、電話を切った。

あれから七年。二度と着信はない。だが今でも知らない番号が光るたび、心臓が掴まれる。あの女が再び「コーイチ君?」と問いかけてくる気がしてならない。

――結局、コーイチとは誰だったのか。なぜ俺の番号を知り続けたのか。答えは出ない。ただ、夢の中で「次はこの番号に」と誰かが囁いているのだとしたら。俺の声で、別の誰かを導いているのだとしたら。そう思うと夜眠れなくなる。

[出典:597 :本当にあった怖い名無し:2009/04/04(土) 20:43:06 ID:i2Gv4ZvD0]

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