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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

叩いていたのは n+

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今年の黄金週間、家族は二泊三日の旅行に出た。俺ひとりを置いて。

二階建ての家は、古びているくせにやけに広い。
もとは他人の家だったのを親父が買い取り、柱や壁には、前の住人の暮らしの痕がそのまま沁みついている。
階段の手すりを撫でると、薄い油膜のように誰かの手のぬめりが残る気がする。
トイレは一階と二階に一つずつ。俺の部屋は二階だから、普段は上のトイレしか使わない。

あの日は、学校の特別補習が長引いた。
夕方七時半、ようやく校門を出る。
人気の消えた道を自転車で帰る途中、いつもより空気が重く感じられた。
それはただの疲労だと思っていた。

ところが、突然、腹の奥がねじれるような痛みが走った。
嫌な汗がこめかみを滑る。
膝まで痺れるような痛みに、もう立ち寄っている余裕などなかった。
公園もコンビニも、このあたりにはない。
選択肢はただひとつ──全力で家にたどり着くこと。

ペダルを踏み込むたび、腹の中で何かが押し出される感覚があった。
帰宅して靴を蹴飛ばし、一階のトイレへ駆け込み、内鍵をかけ、便座に腰を下ろした……その瞬間。

ドンドン!!
ドンドン!!

鼓膜を突き破るような音が、扉越しに響いた。
拳ではない、もっと平べったい何かで叩いているような乾いた衝撃音。
驚きで呼吸が止まる。
なぜか恐怖よりも、理解不能な感覚のほうが先にきた。
知らない……こんな音は。

しかし音は止まらない。
規則的でも不規則でもなく、叩き方が途中で変わる。
急に沈黙──と思った途端、耳元で怒鳴られたような声が響いた。

「〇×△□#$★▽~!!」

意味は分からない。言葉ですらない。
だがその瞬間、背骨に氷の刃を差し込まれたような恐怖が襲った。
頭を抱え、ガタガタと震える。
なぜか必死に心の中で祈っていた。
「ここは俺が使ってます……二階のトイレに行ってください」

すると、祈りが通じたのか、音が消えた。
次いで階段を駆け上がる足音。
腹の痛みは跡形もなく消えていた。
俺はしばらく便座に座ったまま動けなかった。

その晩は、家を出て友人宅に泊まった。
事情を話すと笑いながらも泊めてくれたが、翌日から友人一家も出かけるらしい。
明日はどうしても自分の家に戻らなければならない。

翌日、昼の三時ごろ帰宅した。
真昼の光の中なら、昨夜の出来事も馬鹿らしく思える──はずだった。
玄関に投げ捨てられたようなバッグがあった。
俺は無意識に目を逸らし、階段の下で立ち止まった。
二階の部屋に行かなければ、明日の補習に必要な物が取れない。

階段に足をかけた瞬間、昨日の何倍もの腹痛が襲ってきた。
「もうダメだ」
反射的に一階のトイレへ。
ドアノブを捻る──開かない。内側から鍵がかかっている。

「開けろ!」
声が勝手に出た。
誰もいるはずがないのに、扉を叩き続ける。
その音は──昨日の、あの音とまったく同じだった。

頭が真っ白になる。
昨日、扉を叩いていたのは……俺だったのか。
ならば、昨日の中にいたのは誰だ。
わけが分からないまま、二階のトイレに向かおうとしたが、階段の上から、静かに見下ろされている気配がした。

ぞわりと全身が総毛立つ。
俺は踵を返し、隣家のチャイムを押した。
顔を見た瞬間、お隣さんが眉を寄せる。
「どうしたの?」
「トイレ、貸してください」
それだけ言って中に入れてもらい、用を足した。
水を流す音がやけに大きく聞こえた。

礼を言って外に出たが、家には戻らなかった。
その夜はファミレスで過ごした。
窓に映る自分の姿が、どうにも自分のように見えなかったからだ。

三日目、家族が帰宅するのを家の前で待ち、出来事を話した。
誰も信じなかった。
笑いながら玄関に入っていく背中を見ていると、ふと気づく。
あの一階のトイレ──鍵は、外からではなく、中からしか開けられないはずだ。

……じゃあ、あの時、中にいたのは──

[出典:900 :本当にあった怖い名無し:2005/06/08(水) 21:13:32 ID:90Cs7FxW0]

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