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その名前で大丈夫ですか rw+2,453-0204

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同僚の田村さんから、ある飲み会の帰り道にぽつりと打ち明けられた話がある。

冗談めかした口調だったが、笑い話として処理するには、どうにも引っかかる内容だった。奇妙な“名前”の話だ。

田村さんの家には、代々守られてきた一風変わった掟があるという。男子の名は、必ず決まった法則に従って付けなければならない。その法則は、本家にだけ伝わる古い帳面に記されている。田村さんはそれを、半ば自嘲気味に「法則の本」と呼んでいた。

帳面には題名がない。煤けた黒い表紙で、角は欠け、紙も脆くなっている。中を開くと、びっしりと手書きの文字が並び、筆跡は一様ではない。代ごとに書き足されてきたものらしい。内容は姓名判断などという生易しいものではなかった。

画数や音の響きだけでなく、生まれた日時や方角、両親の本籍、母親の祖父の誕生日まで絡めた計算が延々と続く。その結果、使える文字は毎回ごくわずかに絞られる。名前を選ぶというより、最初から決められた一本の細い通路を通される感覚だと、田村さんは言った。

不思議なのは、そこに祈りや儀式の類が一切ないことだ。紙と鉛筆があれば、誰でも計算できる。ただし、その結果を無視した者には、決まってよくないことが起きるという。

田村さんの兄が、その掟を無視したのは十数年前だった。第一子が生まれたとき、「迷信だ」と言って帳面を見ることすらせず、自分の好きな名前を届け出た。祖母は泣きながら「名は命だよ」と縋ったが、兄は聞き入れなかった。

田村さん自身は当時、大学で家を離れており、そのやり取りを直接は知らない。ただ、五年後のある夜、母親からの電話で状況が一変した。

兄の息子は、五歳の誕生日を迎えてしばらくしてから、高熱を出した。薬は効かず、原因も分からないまま、数日で息を引き取った。医師は曖昧な病名を口にしたが、結局、何も特定できなかったという。

葬儀で見た祖母は、別人のようだった。泣き叫び、兄の胸を叩き続けながら、「だから言ったのに」と繰り返していた姿が、今でも忘れられないと田村さんは言う。

後日、田村さんは祖父に尋ねた。本当に、名前のせいなのかと。祖父はしばらく黙り込み、やがて、昔の話を一つだけ語った。

祖父の弟が若い頃に家を出ていたことがあり、数年後、三人の息子を連れて戻ってきた。名付けはすべて妻に任せていたらしい。その子供たちは、皆、似た年頃で亡くなったという。それ以上のことは、祖父は語らなかった。

ただ、ぽつりとこう付け加えた。

「昔も、同じくらいの歳だった」

それだけだった。

祖母はその出来事のあと、長く体調を崩し、子供たちの名前や遺品については、ほとんど口にしなくなったという。ただ、毎年同じ時期になると、決まって出かけていく場所があったらしい。田村さんは、そこがどこなのか知らない。

田村さん自身の名前も、その帳面によって決められた一文字だという。特別好きでも嫌いでもなかったが、今では時折、自分の名を口にするとき、妙な感覚に襲われるそうだ。守られているのか、ただ見逃されているだけなのか、判断がつかない、と。

最後に、田村さんはこんなことを言った。

「兄の子が亡くなる少し前、一度だけ、名前を変える話が出たんです。でも、そのときはもう……」

言葉は続かなかった。

帳面の最後のページは、まだ白紙だという。そこに次に何が書かれるのか、あるいはもう、書かれる準備だけは整っているのか。それは、誰にも分からない。

あなたの名前は、誰が、どんな基準で付けただろうか。
もしそれが、何かを外れていたとしたら。
もう、数えられているのは、年齢だけなのかもしれない。

(了)

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