これは十年ぶりの同窓会での話だ。
案内状が届いたとき、正直に言えば少し躊躇した。二十歳のときに一度集まって以来、誰ともまともに連絡を取っていない。だが、三十歳という節目に、過去を一度くらい確認しておくのも悪くないと思った。
一次会の会場には、見慣れたはずの顔が並んでいた。だが、誰もが思った以上に変わっている。額の生え際、笑うと刻まれる皺、腹回りの膨らみ。時間は平等に働いていると、妙に納得した。
担任は病気で欠席だという。幹事がそう告げたとき、誰かが「先生も老けたよな」と言って笑いが起きた。だが、十年前の同窓会で先生が来ていたかどうか、はっきり思い出せる者はいなかった。
二次会は近くの居酒屋だった。席替えを繰り返しながら、昔話が酒の肴になった。そのとき、遅れて一人が入ってきた。
Aだった。
中学時代、目立たない男だった。誰の記憶にも薄く残っているような存在だ。だが、姿を見た瞬間、場の空気がわずかに止まった。
変わっていない。
十年前に見たままの顔だった。いや、もっと前だ。中学の卒業写真と同じ顔だった。
「お前、全然老けねえな」
誰かが言い、笑いが起きた。だがAは微笑むだけで、席につかなかった。立ったまま、俺たちを見ている。
飲み物を勧めても、手を伸ばさない。料理も取らない。目だけが、順番に一人ずつをなぞっていく。
その視線が自分に向いたとき、なぜか胸がざわついた。十年前、いや二十年前、Aとまともに話した記憶がない。それなのに、見透かされている気がした。
幹事のBが冗談めかして言った。
「Aってさ、ほんと人間か?」
その瞬間だった。
Aの肩が震え始めた。小刻みに、規則的に。まるで誰かに指示されているような動きだった。俯いたまま、両手の甲を互いに打ち付ける。乾いた音が、一定の間隔で続く。
店内のざわめきが消えた。
「おい、やめろよ」
Bが立ち上がると、Aは顔を上げた。
歪んでいたのは表情ではない。表情がなかった。目も口も、ただ開いているだけだった。
次の瞬間、Aは叫んだ。言葉にならない声だった。そして椅子を倒し、店を飛び出した。
誰も追わなかった。
翌日、BがAの実家に連絡を取った。あの場の空気が悪かったのは自分のせいだと、気にしていたらしい。
電話口で、家族は静かに言った。
「Aは中学を卒業した年に亡くなっていますが」
事故だったという。
俺たちは顔を見合わせた。十年前の同窓会にもAは来ていた。少なくとも、そう思っていた。写真も撮ったはずだ。
その夜、スマホのアルバムを開いた。
十年前の集合写真があった。確かに人数は揃っている。だが、そこにAの姿はなかった。
昨日の写真も確認した。
同じだった。
人数は変わらない。だが、どう数えても一人多い。
何度数えても、足りないのはAではない。
俺の名前が、出席名簿に載っていないと知ったのは、その翌週だった。
幹事が作ったグループチャットにも、俺は最初から参加していなかったらしい。招待を送り忘れたのだろうとBは言った。
だが、案内状は確かに届いた。
封筒の差出人欄には、見覚えのない筆跡でこう書かれていた。
「久しぶりだな」
消印は、二十年前の日付だった。
それ以来、同窓会の話題は誰も口にしない。俺もだ。
ただ、ときどき思う。
あの夜、変わっていなかったのは本当にAだけだったのか。
三十歳になったはずの俺は、いま何歳なのだろうか。
そして次に同窓会の案内が届くとしたら、そこに載っている名前は誰のものなのか。
[出典:771 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2017/07/14(金) 23:13:02.13 ID:nFdYmJkm0.net]