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骨董品の蒐集【ゆっくり朗読】1400

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自分の親父と骨董の話を書きます。

486 :本当にあった怖い名無し:2012/06/06(水) 18:58:45.89 ID:MDvy3SQS0

親父は紡績の工場を経営していましたが、何を思ったか50歳のときにすっぱりとやめてしまい、
経営権から何から一切を売り払ってしまいました。

これは当時で十億近い金になり、
親父は「生活には孫の代まで困らんから、これから好きなことをやらせてもらう」と言い出しました。

しかしそれまで仕事一筋だった父ですから、急に趣味に生きようと思っても、これといってやりたいことも見つからず、
途方に暮れた感じでした。

あれこれ手を出しても長続きせず、最後に残ったのが骨董品の蒐集でした。

最初は小さな物から買い始めました。
ありがちなぐい呑みや煙草の根付けなどです。

「初めから高額の物を買ったりして、騙されちゃいかんからな。小遣い程度でやるよ」
と言って、骨董市で赤いサンゴ玉がいくつか付いた根付けを買ってきました。

「何となく見ていてぴーんとひらめいたんだよ。
このサンゴ玉は元々はかんざしに付いていたのかもしれないね」
などと言って、書斎に準備した大きなガラスケースに綿に乗せて置きました。

これが我が家の異変の始まりです。

まず親父になついていたはずの飼い猫が書斎に入らなくなりました。

親父が抱き上げて連れて行ってもすぐに逃げ出してしまうのです。

さらに家の中の物がなんだか腐りやすくなりました。

梅雨時でもないのに食パンなどは買ってすぐに黴に覆われてしまったりして、
台所は常に饐えた臭いがするようになりました。

それから家には小さいながら庭もあったのですが、
全体的に植木の元気がなくなり、中には立ち枯れるものも出始めました。

また屋根の上の一ヶ所につねに黒い煙いのようなものが溜まり、
何人もの通行人に火事ではないかと言われたりもしました。

しかしはしごをかけて屋根に上ってみてもそこには何もないのです。

その頃、親父は時宝堂という骨董屋の主人と親しくなりました。

その人は小柄な老人で、親父が金があると目をつけたのか、ちょくちょく家に尋ねてくるようになったのです。

ある日、親父は家族に向かって、
「この間から、家の中がちょっと変だったろう。
どうもあのサンゴの根付けが原因らしい。
時宝堂さんから聞いたんだが、ああいうものはお女郎さんの恨みがこもってるかもしれないってね。
だが、そういうのを打ち消す方法もあるって話だ。
それでこれを買うことにしたよ」
と言って、一幅の掛け軸を見せました。

それはよくある寒山拾得(中国唐代の2人の禅僧)を描いた中国製で、それほど高い物には思えませんでした。

そしてそれは和室の床の間に飾られることになりました。

掛け軸が来てから家の中の異変はいったん収まったようでした。

相変わらず猫は書斎へは入らないものの、植木は元気を取り戻し、物が腐りやすいということもなくなったのです。

親父は、
「古い物はほとんどが人間の一生以上の歴史を持っていて、中には悪い気を溜め込んでしまっている物もある。
そういうのの調和を取るのが骨董の醍醐味だと、時宝堂さんから聞いたよ」
と悦に入っていました。

ある日のことです。

当時自分は中学生でしたので和室に入る用などめったになかったのですが、
たまたま家族が留守の時、学校で応援に使ううちわが和室の欄間に挿されていたのを思い出して、取りに行ったのです。

すると家の中には誰もいないはずなのに、なぜか人の話し声が聞こえてきます。

ごく小さな声ですが和室の中からです。

ふすまの前で聞いているとこんな感じです。

「・・・・これで収まったと思うなら浅はかな・・・」

「ただ臭いものに蓋をしたにすぎないだろ・・・今にもっとヒドイことが・・・」

どうも二人の人物が会話をしているようです。

コミカルな声調だったのであまり怖いとも思わず、一気にふすまを開けて見ました。

しかし当然ながらそこには誰もいませんでした。

ただ床の間の絵を見たときに、なんだか2人の僧の立っている位置が前とは違っている気がしました。

そしてそれから2,3日後、夜中に家に小型トラックが突っ込んでくるという事故が起きたのです。

塀と玄関の一部を壊しましたが、幸い家族にケガ人はありませんでした。

親父はこの事故のことでずいぶんと考え込んでいましたが、それからはますます骨董買いに拍車がかかりました。

古めかしい香炉、室町時代といわれる脇差、大正時代のガラス器などなど。

そしてそのたびに家に変事が起こり、また収まり、そしてもっとヒドイことが発生するといったくり返しになりました。

骨董に遣ったお金もそうとうな額にのぼったと思います。

「あっちを収めればこっちの障りが出てくる、考えなきゃいけないことが十も二十もある。
こらたまらんな」
親父はノイローゼのようになっていました。

そして今にして思えば骨董蒐集の最後になったのが、江戸時代の幽霊画でした。

これはずいぶん高価なものだったはずです。

それは白装束の足のない女の幽霊が柳の木の下に浮かんでいる絵柄で、
高名な画家の弟子が描いたものだろうということでした。

親父は、
「この絵はお前たちは不気味に思うかもしれんが、実に力を持った絵だよ。この家の運気を高めてくれる」
と言っていました。

そしてその絵が家に来た晩から、小学校低学年の妹がうなされるようになったのです。

妹は両親と一緒に寝室で寝ていたのですが、決まって夜中の2時過ぎになるとひーっと叫んで飛び起きます。

そして聞いたこともない異国の言葉のようなものを発し、両親に揺さぶられて我に返るのです。

もちろん病院に連れて行きましたが、何の異常も認められないとのことでした。

家の者はまた骨董のせいではないかと疑っていましたが、それを親父に言い出すことはできませんでした。

時宝堂が来ていたときに親父がこの話をしたら、
「おお、それはいよいよ生まれるのですな」
と意味不明のことを言っていたそうです。

そしてその日の夜のことです。

やはり2時過ぎ、妹はうなされていたのが白目をむいて立ち上がり、
「がっ、がっ、あらほれそんがや~」
というような言葉とともに、大人の拳ほどの白い透明感のある石を、大量のよだれとともに口から吐き出しました。

次の日、時宝堂が来て、その白い石をかなり高額で買っていったそうです。

親父はこのことを契機に時宝堂とのつき合いを断ち、骨董の蒐集もすっぱりやめてしまいました。

「家族には迷惑をかけられないからな。みんなの健康が何よりだよ。これからは庭いじりでもやることにする」

そして我が家の異変は完全に収まったのです。

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