これは、ある大学の友人たちが経験した奇妙な出来事だ。
大学は田舎にあり、遊び場が少ないため、彼らはよく車で夜のドライブに出かけていた。その日も同様に、友人たちは隣町の峠へ向かい、景色を楽しんだ後、帰り道で小休止をすることにした。
帰路の途中で一行は自動販売機を見つけ、飲み物を買うため車を停めた。そこで、彼らは道端にさりげなく置かれた花束とジュースの缶に気づく。
車を降りて改めて見ると、それがただの花束ではなく、どこか不吉な空気をまとっているように見えた。来た時には気づかなかったことも、薄気味悪さを増す理由だった。彼らは一応手を合わせることにしたが、全員が拝むわけではなく、特に一人の友人はその行為を半ば馬鹿にしていた。
そんなことを気にせず車を出発させた一行だが、そこで奇妙な会話が始まった。運転手が唐突に「不気味だな」と言い出したのだ。「不気味って、ただの花束だろ?」と他の者が尋ねると、運転手は不意に声を潜めてこう言ったのだ。
「いや、俺が言ってるのは、花束の隣にあったランドセルのことだ」
その言葉に全員が凍りつく。誰もランドセルを見ていなかったし、そんな物は置いてなかったと主張するが、運転手は譲らなかった。「赤いランドセルが、ポツンと花の横に置いてあった」と、まるでそれを確信しているかのように言い張るのだ。
空気が一気に重くなり、彼らは自然と溜まり場にしている友人のアパートへ戻ることにした。しかし、アパートの駐車場に差し掛かると、運転手は駐車せずにそのまま通り過ぎようとした。焦った友人たちが「どうした?」と尋ねると、彼はハンドルを握る手を震わせながらこう呟いた。
「駐車場に……赤いランドセルを背負った女の子がいる」
その場にいた全員が背筋を凍らせた。先ほど花束の隣でランドセルを見たと主張していたのは運転手だったが、今度はそのランドセルを背負った「女の子」まで見えているという。気味が悪くなり、別の場所で夜を明かそうと相談し始めるが、彼らの中には既に恐怖の色が見え隠れしていた。
ファミレスに避難する案や大学に戻る案も出たが、もしファミレスの窓からランドセルが見えたらどうしようか、エレベーターが開いた瞬間に目の前にいたらどうしようかと想像するだけで恐怖が増していく。結局、別の友人の家に避難することを決めたが、心配な彼らは到着後、駐車場に何度も目をやり、不安げな表情で確認し続けた。
彼らは一晩中眠れず、麻雀で気を紛らわせていたが、うち心の奥にまで恐怖が染み渡っている様子だった。そうこうするうちに夜が明け、ようやく皆の顔に安堵の色が浮かび始めた。しかし、最初に赤いランドセルを見たという友人が、他の友人たちと別れて以降、部屋から出てこなくなったのだ。
数日後、彼の部屋を訪れると、彼は異様に怯えた様子でドアを開けた。顔色が悪く、何度も何度も背後を振り返る。「駐車場で……ランドセルがこっちを見上げてた」と彼は呟き、それ以来部屋から出られないと言った。
さらに、彼の部屋の一角を覗き込んだ他の友人たちは凍りついた。部屋の隅に、赤いランドセルが置かれていたのだ。いや、彼らには見えなかったが、彼だけがそれを見ているという。恐怖が彼の体を縛り、動けないまま震えていたのだという。
事態を重く見た友人たちは、全員でお祓いを受けに行くことにした。しかし、祈祷師からは「霊はついていない」と言われ、彼らは安堵するどころか肩透かしを食ったような気分になったという。それでも彼らは慎重に生活し、再び赤いランドセルを目にすることはなかった。
時間が経ち、やがて彼らの周囲でそのランドセルを見たという話も消え去った。しかし、一つだけ誰にもわからない疑問が残っていたのだ。
あの赤いランドセルの持ち主が、事故に遭った子供だったのか、それとも全く別の何かだったのか。ランドセルを目にした時、その奥に何かを見たと感じたのは彼だけではなかったはずだ。
今でも、友人たちはその話題を避けているが、最初に見た友人だけは、今でもときどき赤いランドセルのことを夢に見ると言う。そして夢の中では必ず、ランドセルの中に何かが潜んでいるような気がするのだと。あの夜、一体何が彼らに現れたのか、その真相を知る者はいない。
(了)