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短編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

来年度の集合写真 rw+11,370-0216

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今はもう状況が違うのだろうと信じたい。

だが、あの学校については、どうしても「終わった」と言い切れない。

記録のように書いておく。

俺が通っていたのは、県内でも有数の荒れた学校だった。校門の前には常に見慣れないバイクが止まり、授業中でも廊下を走る足音が止まらない。荷物検査ではタバコやナイフが出てくる。教師は疲れ切り、生徒はすでに何かを諦めていた。

背後からカッターナイフで制服を裂かれたとき、俺は職員室で報告した。教師は書類から目も上げずに言った。

「そんな事でいちいち驚いてたら、社会生活なんて送れないよ」

その言葉を聞いた瞬間、怒りよりも先に、妙な安心があった。ああ、ここではこれが普通なのだと理解できたからだ。

その頃から、俺は泣かなくなった。

ある日、掃除を終えて教室に戻る途中だった。

「アブナイヨ?」

小学生のような、妙に弾んだ声だった。振り向く間もなく、頭上から植木鉢が落ちてきた。髪をかすめ、足元で粉々になる。四階の窓から笑い声が降ってきた。

「あーっ!ハズレたあぁぁ惜しいぃぃ」

俺は怒らなかった。怖くもなかった。ただ理解した。この場所では、人に向けられる悪意もまた日常なのだと。

だが、それだけではなかった。

図書室で首を絞められたときも、相手の目は焦点が合っていなかった。彼は突然手を離し、「何もかも嫌になった」と繰り返した。その言葉は俺に向けられているようで、誰にも向けられていないようでもあった。

アルバム委員になったのは、その年だ。

過去の卒業アルバムを開くと、どの年度の写真も妙に似ていた。笑顔の形が、ではない。目だ。光の入り方も、黒目の濁り方も、なぜか同じだった。十年前も、二十年前も。

最初は思い込みだと思った。だが、自分たちの撮影が終わり、現像された写真を見たとき、背筋が冷えた。

俺の目も、同じだった。

撮影時、俺は確かに笑っていたはずだ。だが写真の中の俺は、どこも笑っていない。瞳だけが乾き、何かを削られたあとの空洞のように見えた。

夜、アルバム作業をしていたとき、廊下から激しい足音が響いた。誰もいないはずの校舎だ。扉を叩く音が連続する。先生は「見てくるわ」と笑って出ていった。

その間、俺は古いアルバムをめくり続けていた。

気づいたのは、そのときだ。

どの代にも、同じ位置に立つ生徒がいる。毎年、列の端。顔立ちは違うのに、目だけが同じだ。わずかに口角が上がり、だが瞳孔が開ききったまま、何かを見ていない。

俺はページをめくった。

三十年前。四十年前。

そして最後のページ。

そこには、まだ撮影されていないはずの、来年度の集合写真があった。

列の端に立つのは、俺だった。

笑っている。だが目は、完全に空洞だった。

気づけば、廊下の足音は止んでいた。戻ってきた先生は何も言わなかった。だが、その目もまた、同じ濁り方をしていた。

卒業式の日、新任教師が生徒の暴走に驚き、慌てて制止に入った。そのとき、俺は自然に口にしていた。

「そんな事でいちいち驚いてたら、学校生活なんて送れないですよ」

声は冷たかった。あのときの教師と、同じ調子だった。

周囲が静まり返る。俺は笑っていた。どこか遠くで、あの声が重なった。

「アブナイヨ?」

あれは警告だったのか。それとも、誘いだったのか。

卒業後、アルバムは処分したはずだ。燃やした記憶がある。炎の中で、あの目が溶けていくのを確かに見た。

だが数年前、地元の友人と母校の話になったとき、彼は言った。

「お前、まだアルバム持ってるだろ」

そんなはずはない。

けれど帰宅して押し入れを開けると、一冊だけ残っていた。表紙は焼けていない。ページも欠けていない。

最後のページを開く。

来年度の集合写真。

列の端に立つのは、見覚えのない少年だった。

だが目は、俺と同じだった。

その下に、小さく印字されている。

《担任》

名前は、俺だった。

そして今でも、ときどきあの声を思い出す。

「アブナイヨ?」

あれがあの学校のものだったのか、それとも、俺の中に残った何かなのか。

分からない。

ただ一つ言えるのは、あの学校の写真は毎年、きちんと更新され続けているということだ。

[出典:県内有数の不良校/投稿者「NO NAME」2015/01/24]

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