幼い頃に天狗らしきものに遭遇した事がある。
当時、鎌倉に住んでて、当時の鎌倉はだいーぶ未開発の田舎風味だったんだ。
それで家すぐ近くにデッカイ山があって、そこに入り込んでドングリを良く集めて遊んでた。
で、ある日いつも通り友達とドングリ集めしてて、ドングリを追ってひたすら拾い歩いてたら友達と逸れて、正しい道からも逸れちゃって、ガチで遭難した。
それでその辺りが暗くなって、誰の声も聞こえないし見えない。月明かり程度しか無いしね。
足元は不安定だから、幼心に滑り落ちたら死ぬって確信があった。
それでビニール袋一杯のドングリ抱えて、ワンワンとうずくまって、ずっと泣いてたんだ。
そしたら、目の前に誰かが立った。
すげえデカイ脚。それだけは判った。
あとはナンも判らん。
今思うと、男の脚だってぐらいか。ごつかったし。
で、何も言わないから、親に言われた迷子の作法として、自分の名前を言って、「迷子になった」と言った。
それでも向こうは黙ってる。
おうちに帰りたい。集めたドングリをあげるから、一緒に来てくれませんか?ぐらいは言ったと思う。
こっからが本当に俺の記憶が正しいのか、今思うと不思議なんだが……
俺の前の人は、「む」だか、「ん」だか判らないが少し唸って俺からビニール袋を受け取った。
すると、ひょいと馬鹿でかい手に尻を掬われた。
猫を片手で抱く感じか。そんな調子。
当時四歳児とはいえ、尻を鷲掴みにする手だぜ?恐ろしくデカイ。
それで、感触として、父親の肩車よりずっと高い位置に移動するのを感じたら、一回それが下がって急にまた上がった。
気が付いたら眼下に鎌倉全景が見えた。
驚いたけど、俺の家は駅の近くにあったから、駅の方をみて、「あっち」とか言った。
するとまた、天狗は唸った。
で、木々の上を跳ねてるのか飛んでるのか判らない様な感じで、あっという間に山の入り口あたりに。
街灯が見えた。
そこで下ろされて、ありがとうを言おうと思って頭を下げて上げたら、もう何もいなかった。
家に帰ると警察は来てるわ親は泣いてるわで大騒ぎ。
その後、俺は山への出入りを禁止されたんだけど、しばらくはこっそり山に入って、お菓子とかを目印になりやすい木の所にお供えしてた。
(了)