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天狗と会った話【ゆっくり朗読】3203-0107

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幼い頃に天狗らしきものに遭遇した事がある。

当時、鎌倉に住んでて、当時の鎌倉はだいーぶ未開発の田舎風味だったんだ。

それで家すぐ近くにデッカイ山があって、そこに入り込んでドングリを良く集めて遊んでた。

で、ある日いつも通り友達とドングリ集めしてて、ドングリを追ってひたすら拾い歩いてたら友達と逸れて、正しい道からも逸れちゃって、ガチで遭難した。

それでその辺りが暗くなって、誰の声も聞こえないし見えない。月明かり程度しか無いしね。

足元は不安定だから、幼心に滑り落ちたら死ぬって確信があった。

それでビニール袋一杯のドングリ抱えて、ワンワンとうずくまって、ずっと泣いてたんだ。

そしたら、目の前に誰かが立った。

すげえデカイ脚。それだけは判った。

あとはナンも判らん。

今思うと、男の脚だってぐらいか。ごつかったし。

で、何も言わないから、親に言われた迷子の作法として、自分の名前を言って、「迷子になった」と言った。

それでも向こうは黙ってる。

おうちに帰りたい。集めたドングリをあげるから、一緒に来てくれませんか?ぐらいは言ったと思う。

こっからが本当に俺の記憶が正しいのか、今思うと不思議なんだが……

俺の前の人は、「む」だか、「ん」だか判らないが少し唸って俺からビニール袋を受け取った。

すると、ひょいと馬鹿でかい手に尻を掬われた。

猫を片手で抱く感じか。そんな調子。

当時四歳児とはいえ、尻を鷲掴みにする手だぜ?恐ろしくデカイ。

それで、感触として、父親の肩車よりずっと高い位置に移動するのを感じたら、一回それが下がって急にまた上がった。

気が付いたら眼下に鎌倉全景が見えた。

驚いたけど、俺の家は駅の近くにあったから、駅の方をみて、「あっち」とか言った。

するとまた、天狗は唸った。

で、木々の上を跳ねてるのか飛んでるのか判らない様な感じで、あっという間に山の入り口あたりに。

街灯が見えた。

そこで下ろされて、ありがとうを言おうと思って頭を下げて上げたら、もう何もいなかった。

家に帰ると警察は来てるわ親は泣いてるわで大騒ぎ。

その後、俺は山への出入りを禁止されたんだけど、しばらくはこっそり山に入って、お菓子とかを目印になりやすい木の所にお供えしてた。

(了)

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