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中編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

いいって言ったでしょう rw+11,483-0114

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「彼女」は、笑っていた。

部屋の電気をつけた覚えはない。それなのに、帰宅した自分のアパートの一室から、柔らかい光が漏れていた。三階の端、毎日見ているはずの窓の明るさが、その夜だけは妙に現実味を失って見えた。

鍵は、確かに掛けて出た。
そう思いながらドアに近づくと、内側から人の気配がした。

震える手で鍵を回した瞬間、ドアチェーンが内側から引かれ、金属音が鳴った。
中にいたのは、知らない女子中学生が四人。どこかの家のリビングにいるかのように、床に座り、菓子袋を散らし、テレビを眺めていた。

「……ここ、私の部屋なんだけど」

眼鏡の子がきょとんと顔を上げて言った。
「あれ、さっちん?」

知らない。
誰の名前だ、それは。

彼女たちは悪びれもしなかった。「チャットで友達になったじゃないですか」「泊めていいって言ってたし」と、口々に言う。その最後に、全員が同じ言葉を添えた。

「みぽりんさんが、いいって」

その名前を聞いた瞬間、心臓が一拍遅れて強く打った。

彼女は、チャットで知り合った社会人だった。落ち着いていて、礼儀正しく、公務員だと言っていた。自分の拙い文章を丁寧に褒め、心配してくれる、いわゆる「いい人」だった。

その夜、彼女は女子中学生たちを連れて現れた。

「困ってる子たちだったから。少し泊めてあげただけよ」

まるで当然のことのように言った。
実家にも話しておいたとも言った。後で母に電話すると、母は安心しきった声で言った。「ちゃんとしたお友達ができてよかったわね」

その「ちゃんとした人」が、台所にスーパーの袋を広げたとき、背中に冷たいものが走った。
袋の中には、牛、豚、鶏。量だけで言えば、鍋一杯どころではなかった。

その晩、鍋で肉を煮込みながら、背後で咀嚼音が重なっていた。
彼女は一リットルの牛乳をラッパ飲みしながら、鍋の中身の大半を食べた。早くも遅くもない、一定の速度で。

人間の食事に見えなかった。

皿を洗っていると、玄関の向こうで音がした。
外に追い出したはずの中学生たちが、泣きながらドアを引っかいていた。

「……寒い……」

彼女は振り返りもせずに言った。
「今はだめ」

それだけで、泣き声は遠ざかった。

警察を呼んだ。
事情を説明しようとしたが、彼女が間に入った。

「私が保護者です。行き場がなくて」

穏やかな声だった。警官は頷き、こちらを一度も見ずに言った。
「最近多いんですよ。善意のケース」

善意。
その言葉だけが、部屋に残った。

翌朝、冷蔵庫を開けると、見覚えのない肉が増えていた。
ラップに包まれ、きれいに整えられている。

「足りなかったから」

彼女はそう言って微笑んだ。

その日の夜も、鍋は火にかけられた。
彼女はまた牛乳を飲み、肉を食べた。噛む音が規則正しく、まるで時計のようだった。

「……なんで、こんなことするの」

思わず聞いてしまった。

彼女は少し考えるように首を傾げてから言った。
「あなた、いい人でしょう」

それが理由だと言わんばかりに。

「いい人って、信じられやすいのよ。だから安心する。疑わない」

その言葉が、刃物のように静かだった。

夜、友人が来ると言って電話をくれた。
合図のノックも決めた。

その音がしたとき、ほっとしてチェーンを外した。

ドアの向こうにいたのは、彼女だった。

「教えてくれたのよ。あなたの友達」

床に置かれたスーパー袋から、また肉の匂いが広がった。

「今夜も、いてあげる」

逃げ場はなかった。

鍋に肉を入れながら、吐き気がこみ上げた。
彼女は牛乳のパックを破り、口をつけた。

「誰も、あなたの話なんて信じないわ」

そう言って、生肉を顔に押し当てた。
冷たく、ぬるりとしていた。

そのとき、再びドアが叩かれた。
今度こそ、友人だった。

叫び声と同時にドアが開き、友人が飛び込んできた。
彼女は一瞬だけ、無表情になった。

「……人が、せっかく遠ざけたのに」

そう言って、床に骨の残骸を投げ捨て、去っていった。

それ以来、彼女は来ていない。

けれど、冷蔵庫を開けると、肉がある。
買った覚えはない。

鍋の底に、洗っても落ちない脂が残っている。
チャットの履歴に、短い一文が増えていた。

「いいって言ったでしょう」

今日も、どこかの部屋で、
彼女はきっと笑っている。

[出典:58 :えすじい ◆AC/DC78UDA :2010/01/23(土) 13:48:40.43 ID:+aKZqCMO0]

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