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短編 r+ 集落・田舎の怖い話

謎の集落 r+10,623

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 四国の大学で地質学の卒論を書いた。

テーマは、特定地域の地層構造の調査と地質図の作成だった。そのため、何度も山に入り、フィールドワークを行う必要があった。

フィールドワークでは、一人で山に入る。基本的に道路から外れ、本当の山中を歩くことになる。山道を進み、川の上流まで上がってから、川べりを下りながら「露頭」という地層が露出した場所を探しつつ、車を止めたスタート地点へ戻るのが基本だ。

露頭を見つけたら、フィールド帳に記録し、地図と照らし合わせながら地質図を作成する。そんな作業を繰り返していた。

その日も一人で調査のために山へ入った。コンパスと歩数でルートマップを作り、時々GPSで補正をかける。国土地理院の地図が間違っていてひどい目に遭うこともあると聞くが、こちらは自分でマップを作りながら歩いているため、まず迷うことはない。

獣道を進み、朝の八時から歩き始めて二時間ほど経った頃、盆地に広がる小さな集落に出た。しかし、持っていた地図には載っていない。

集落があるということは、どこかから車で入れるはずだ。そう思うと、随分と山道を歩いたのが無駄に感じられたが、砂利道でも道があるなら歩きやすい。そう考えながら村の中へ入っていった。

だが、近づくにつれて何か嫌な感じがした。風はなく、空気が妙に湿っぽい。多少古びてはいるが、田んぼには稲があり、家々はきちんと戸締まりされている。廃村というわけではなさそうだ。それなのに、人の気配がまるでない。どこかで誰かに見られているような、背筋がざわつく感覚があった。

これまでにも無人の集落を見たことはある。朝の時間帯は人が出ていないことも珍しくない。しかし、犬の鳴き声すらしない静けさは、どこか異様だった。

どうしたものかと思っていると、押し車を押したばあさんが前からやってきた。挨拶をすると、驚いたような顔をして、ぷいと振り返り、そのまま引っ込んでしまった。

なんだか嫌な気配を感じつつも、集落の真ん中を通る道を山手へ向かって歩いていく。すると、道端の家に取り付けられた電気メーターが目に入った。ふと気になり、覗いてみて愕然とした。

外側のケースこそあるものの、中の機械がない。慌てて向かいの家のメーターを確認すると、やはり中身がなかった。その隣の家も、またその隣も同じだった。

どうやら、この集落には数十軒の家があるが、かなりの割合で人が住んでいないらしい。急に怖くなり、足早に砂利道を山手へと向かった。

行き着いた先には、公民館のような建物があり、中から人の話し声がわさわさと聞こえてくる。ちょっとビビりながらも建物の横を覗くと、そこには大きな盛り土があり、無数の白い紙人形のようなものが、割り箸に刺さる形で立てられていた。

「これは……本当にまずいぞ」

そう直感し、回れ右をして元来た道を一目散に下った。だが、T字路にぶつかり行き止まり。目の前には田んぼが広がっている。

一般道へ出るために北へ向かおうとするも、なぜか元の場所に戻ってしまい、再び公民館の前に出てしまった。

どうしたものかと迷っていると、公民館から人がぞろぞろと出てくる気配がした。これは道を尋ねるしかないと思い、意を決して公民館の前に立つ。

しかし、出てきたのは小学生くらいの子供たち。彼らは無表情で、一様にこちらをじっと見つめていた。誰一人として声を発さず、ただそこに立っているだけだった。しかも、平日のはずなのに学校へ行っている様子がない。

何をしているのだろうと不思議に思っていると、大人の男性が数人出てきて、突然「なにしてる!」と怒鳴りながらこちらへ走ってきた。

驚きと恐怖で、無我夢中になって山の方へと逃げた。田んぼをかき分け、全速力で駆け上る。後ろから叫び声は聞こえるが、どうやら追ってきてはいないようだった。

やがて高台にたどり着き、集落を見下ろす。すると、驚くべきことに外へ抜ける道が一本もない。そして、公民館の裏手には無数の十字架のようなものが立ち並んでいた。

盆地を迂回し、どうにか車まで戻ると、その足で役場へ向かった。最新の地図を確認しながら、集落のことを尋ねたが、そんな場所はないと言われてしまった。

結局、何が何だか分からなかったが、あれは臨海学校か何かのキャンプ場だったと思うことにした。

それからしばらく経ち、大学の後輩から連絡があった。同じフィールドで卒論を書くため、相談に乗ってほしいという。

卒論以上の情報はなかったものの、ふと気になり、あの場所で何か奇妙なことはなかったかと尋ねてみた。

すると後輩は、「一ヶ所、かなり広い盆地があったんですが、一面が掘り返されたばかりのような更地になっていて、その上に大量の便器が捨てられていたんです」と言う。しかも、それはすべてトルコ式便器だったらしい。

昔のフィールド帳と照らし合わせると、間違いなくあの場所だった。

「いや、本当に、山の上から見ると、更地に無数の白い便器が散らばっているんですよ。あたり一面に点々と並んでいて、まるで誰かが意図的に配置したように見えるんです。しかも、車も入れない場所に……」

後輩の言葉を聞きながら、あの日の出来事を思い出していた。

(了)

[出典:303 本当にあった怖い名無し 2006/12/30(土) 05:22:55 ID:KBX3g9GS0]

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