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短編 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間 n+2026

この子がいるから大丈夫 nc+

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昔、深夜に何気なくつけたテレビで見た番組の内容が、いまでも頭から離れない。

再現ドラマだったのか、ドキュメンタリーだったのかははっきりしない。ただ、妙に現実感があり、途中でチャンネルを変えることができなかった。

舞台は古いアパートの一室だった。

肢体に障害のある妻と、内臓に障害があり、ほとんど寝たきりで聾唖の夫。その夫婦が二人で暮らしている。
そして、そこには小学校低学年の娘が一人いた。

朝になると、その子は一番に起きる。
台所に立ち、慣れた手つきで朝食を作る。両親の分だ。
食事を終えた両親の世話を済ませると、ランドセルを背負って学校へ行く。

放課後、友達と寄り道することはない。
まっすぐスーパーへ向かい、夕飯の材料を選ぶ。
家に帰ると洗濯機を回し、干し、料理を作り、食後の後片付けまで済ませる。

それが日常だった。

番組では、夫婦の生活方針が丁寧に紹介されていた。
「障害があっても、他人の手を借りずに自活する」
それが二人の揺るぎない信念だという。

公的な金銭的支援は受けているが、ヘルパーなどの介助は一切拒否している。
親戚からは結婚そのものを反対され、押し切って結婚した結果、ほぼ絶縁状態になっているとも語られた。

誰も手伝いに来ない部屋は、正直に言えばかなり荒れていた。
床には物が散乱し、埃が溜まり、掃除が行き届いているとは言い難い。

インタビューで、母親は笑顔でこう言っていた。

「私たちは障害がありますが、誰にも迷惑はかけていません。
働けないからお金は受け取っていますが、贅沢もしていません」

その言葉だけを聞けば、立派にも聞こえる。
自立心の強い、誇り高い夫婦。
番組も、最初はその姿勢を肯定的に描いているように見えた。

だが、画面の端に映り込む娘の姿が、どうしても気になった。

洗濯物を畳んでいる小さな手。
俯きがちな顔。
年齢に似合わない、張りついたような疲労の表情。

その違和感が、番組の後半で決定的になる。

母親が、二人目の妊娠を告げたのだ。

「この子が何でもしてくれるから安心なんです」
「生まれてくる赤ちゃんの面倒も、この子がきちんと見てくれると思います」
「兄弟ができたら、この子も楽しくなると思うんですよ」

そう言って、屈託なく笑う母親。

「あと、この子、掃除がもう少し上手になってくれればいいんですけど」
「ほら、部屋、汚いでしょ。この子、そこがちょっとね」

冗談めかした口調だった。

その横で、娘は黙ったまま洗濯物を畳み続けていた。
笑顔はなかった。
カメラを意識している様子もなかった。

ただ、疲れ切った顔をしていた。

その瞬間、胸の奥に冷たいものが落ちた。

両親は「自立」を語る。
だが、その生活を支えているのは、明らかに子供だった。
他人の手を借りない代わりに、逃げ場のない役割を一人の小学生に背負わせている。

殴られているわけではない。
怒鳴られているわけでもない。
だから、外からは分かりにくい。

期待され、頼られ、「できる子」として扱われる。
それは一見、愛情のようにも見える。

けれど、その期待は選択肢を奪う。
断る権利も、休む権利も、子供には与えられていない。

二人目の子供は「希望」ではなく、「計算」の上に置かれていた。
この子がいるから大丈夫。
この子が何とかしてくれるから安心。

そう言い切れる時点で、もう何かが壊れている。

番組の最後、ナレーションは穏やかだった。
「子供を産むなとは言えませんが……」
そんな言葉で締めくくられていた。

その曖昧さが、かえって後味を悪くした。

誰も明確に悪者にならない。
理念も、善意も、建前としては正しい。
だからこそ、否定しきれない。

画面が暗転したあとも、あの小学生の顔だけが残った。

将来、彼女はどうなるのか。
自分の人生を、自分のために使える日が来るのか。

答えは示されない。
救いも用意されていない。

ただ、黙って洗濯物を畳む子供の姿だけが、現実として残る。

それが、この話の一番怖いところだった。

[出典:878 :本当にあった怖い名無し:2006/01/20(金) 02:59:45 ID:VjycxRUy0]

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