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短編 r+ 土着信仰

尻切れ馬 r+3954

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ある年末、帰省した際の奇妙な出来事を語った話。

これは、大学生だった彼が実家のある田舎町で体験した。

夕暮れのコンビニ。代金支払いのためだけに行くのも気が引けて、缶コーヒーをひとつ手に外へ出た。駅周辺はビルが立ち並ぶが、少し離れれば田畑が広がるばかり。日も暮れかけ、薄明りの中でコーヒーを飲んでいると、ふと、刈り取られた稲の中に妙なものが目に入った。

最初は犬か案山子かと目を凝らすが、どうにも形が違う。それは馬のようだった。だが、何かがおかしい。馬の胴体が、下半身から後ろが欠けたように見えるのだ。さらに、頭部からは黒い液体がじわりと垂れている。近くにいたはずなのに、輪郭がぼやけ、何度見ても脳がその形を捉えきれない。立ち尽くすこともできず、飲みかけのコーヒーを捨て、自転車に飛び乗って急いで帰路についた。

夜の食卓で、母に地元の怪談を尋ねてみたが、祭りの音もすっかり止んだ後の冷たいような静けさがただひたすら耳をつく。だが、母が知る話に馬の怪異はないようだった。「自殺のあったマンション」「夜になると気味の悪い木」などの話題ばかりだ。少しの安堵と残る疑念が入り混じりながら、気を紛らわすようにその夜は二階の自室でゲームをしていた。

ふと犬が「クゥーン」と怯えたように鳴く声がした。次いで、聞き覚えのある和太鼓の音が遠くから響いてくる。秋の祭りでもないのに、一体なぜ? 音は徐々に近づき、やがて家が振動するほどの迫力になった。家族は眠っているはずなのに、その音に誰も反応しない。奇妙に思いながらも、カーテンの隙間から外を覗いた。

闇夜の中、紫色の光がぼんやりと庭を照らしていた。そして、その光の中にいたのは、さっきの「後ろ半分が消えた馬」。目のあたりから黒い液体が滲み出たまま、まるで何かを見つめているように佇んでいた。

恐怖に駆られ、急いでカーテンを閉じた。心臓が早鐘のように打ち、耳に残る太鼓の音はますます激しさを増していく。家の周りをあの馬が巡っているかのような錯覚に、部屋の隅で膝を抱え、ただ時間が過ぎ去るのを待つことしかできなかった。

数時間が過ぎ、ようやく音が遠のいた。窓から覗き見る気力もなく、夜明けまでじっと耐えた。翌朝、庭を確認するも、昨夜の光や馬の痕跡など何もない。朝食の際に母に聞いても、太鼓の音など聞こえなかったという。

その後、町の神社の神主にこの出来事を相談してみた。神主の表情は硬く、「貴方の見たものは『尻切れ馬』だ」と教えてくれた。夜道を遊び歩く子供を捕まえる存在で、古くからこの地域に伝わる妖怪だという。ただ、「家まで追ってきたのは異例」と神主は首をかしげ、「お祓いが必要だろう」と幣を振ってくれた。

それ以来、何も起こらなくなった。だが、今でも夜になると、どうしても窓の外を見たくなくなる。太鼓の音が聞こえなくとも、カーテンの向こうであの馬が紫の光の中にいるような気がしてならないのだ。

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