放課後の教室に、わたしはひとりで残っていました。
たぶん、ひとりだったと思います。
みんなはもう帰ったはずです。
でも、さっきから変な感じがしています。教室がいつもより少し広いというか、音があまり響かないというか、うまく言えません。
黒板には今日の日付が残っています。
だれも消していません。
わたしは、なぜか出席簿を開きました。
自分の名前をちゃんと見ておきたくなったのです。理由はわかりません。
一番上から、順番に見ていきました。
……ありません。
わたしの名前だけ、ありません。
見落としたのかと思って、もう一度最初から指でなぞりました。
同じ名字の子はいるのに、わたしだけいません。
先生のミスだと思いました。
そう思おうとしました。
そのとき、廊下の奥で足音がしました。
コツ、コツ、とゆっくり近づいてきます。
わたしの教室の前で止まりました。
でも、ノブは回りません。
黒板を見ると、右のすみっこに、さっきまでなかった字が書いてありました。
「欠席 一名」
わたしは、教室にいます。
だから、だれのことかわかりません。
もう一度、出席簿を見ました。
さっきはなかった空白の行が、ひとつ増えています。
そこには、わたしの字で、こう書いてありました。
「記入者」
わたしは、万年筆を握っていました。
インクが、まだ少し指についています。
黒板を見ると、
「欠席 二名」
になっていました。
足音は、もうしません。
でも、わたしの机が、いつのまにか教室のいちばん後ろに移動していました。
壁にぴったりくっついています。最初からそこにあったみたいに。
明日、ここに来たとき。
この席に座るのは、わたしでしょうか。
それとも。
出席簿のいちばん下には、まだ空白があります。
ページを閉じたとき、廊下でまた足音がしました。
[月うさぎ ◆x7J8mY2Q]
[投稿者:志那羽岩子 ◆PL8v3nQx6A]