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雨の日の空席 rw+2,425

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雨の日だけ、俺は思い出から抜け落ちている。

自分が通っていた保育園で、昔の友達が働き始めた。久しぶりに会って酒を飲み、「あの頃の担任、まだいるよ」と聞かされた。軽い気持ちで飲み会を開いた。担任も来て、懐かしい顔ぶれが揃った。最初はただの昔話だった。

「お前さ、雨の日だけ変だったよな」

唐突にそう言われた。

外で遊べない日は、部屋の隅で一人、あやとりや人形遊びをしていたらしい。そんな記憶はない。俺はいつも三人組で走り回っていたはずだ。混ざればよかったじゃないかと笑うと、友達は笑わなかった。

「あの時のお前、誰かと遊んでる雰囲気だった。入れなかった」

担任も頷いた。

「雨の日だけ妙に静かだった。近づくと怒るから、放っておいた」

夕方、最後まで迎えが来ない時間になると、俺はおままごとを始める。先生が声をかけると激しく拒んだという。相手は誰だったのかと聞くと、ふたりとも言葉を選んだ。

「ひとりで……でも、何人かと話してるみたいだった」

家に帰って親に聞いた。小学校に上がっても続いていたらしい。雨の日になると突然立ち上がり、校庭に出ていき、誰もいない場所で「お花屋さん」や「鉄棒」を始める。楽しそうに会話しながら。

精神科にも連れていったが、異常はないと言われた。二年の夏まで続き、秋に引っ越した途端、止まった。

俺には何一つ記憶がない。

それを笑い話にしていたのは、最近までだ。

今、三歳の娘がいる。あの日も雨だった。玄関を勝手に開け、庭に出ようとする。声をかけても返事はない。ただ笑っている。

後をつけた。

花壇の前でしゃがみ込み、枯れ草と石を並べている。

「いらっしゃいませー」

花屋ごっこだった。

名前を呼んでも振り返らない。視線は、誰もいない空間に向いている。

その位置が気になった。

俺が立っている場所だった。

俺の足元を見上げるように、娘は笑っている。

「きょうも、いっしょだね」

誰に向かって言ったのか、わからない。

ただ、雨の日になると、俺は庭に出たくなる。

濡れた土の匂いを嗅ぐと、胸の奥が静かに落ち着く。

娘が並べた石のひとつが、いつのまにか俺の足元に置かれていた。

覚えのない配置だった。

気づくと、俺はしゃがみこんでいる。

濡れた地面に指を伸ばし、空いている場所に、もう一つ石を並べていた。

誰のための席かは、思い出せない。

[出典:493 :本当にあった怖い名無し:2020/07/19(日) 19:27:57.97 ID:Cpw61/uO0.net]

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