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着信に知らない名前が出る rw+5,174

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これは、ある若い男から直接聞いた話だ。

その日、彼は夕方から映画を観る約束をしていた。相手は大学時代からの友人で、最近は仕事に追われてほとんど顔を合わせていなかった。久しぶりの外出だったらしく、彼は待ち合わせの三十分も前に駅前の広場へ着いていたという。

だが、時間を過ぎても友人は現れなかった。

五分、十分。連絡もない。電車が遅れているのかと思い、彼はスマートフォンを取り出して電話をかけた。呼び出し音が数回鳴ったあと、通話が繋がる。

「もしもし?」

確かに友人の声だった。いつもの少し鼻にかかった声。彼は安心し、「どこだよ、もう着いてるぞ」と笑い混じりに言った。

だが、次の瞬間、通話が唐突に途切れた。ノイズもなく、まるで誰かが線を抜いたかのように。

電波表示は問題ない。周囲もざわつく駅前で、圏外になる理由はなかった。

再度かけ直そうとした、そのときだ。逆に着信が入った。表示は友人の番号。

彼は何の疑いもなく応答した。

「おーい、さっき切れたぞ」

だが、返ってきたのは、まったく別の口調だった。

「お電話代わりました。担当の亀田と申します」

耳が拒絶するような違和感。声質は友人そのものなのに、抑揚も温度も違う。妙に整った、業務的な声音。

冗談だろうと彼は思った。久々の再会に、悪ふざけでもしているのだろうと。

「……ああ、川越商事の川田です。この前はどうも」

彼も適当に名乗り、茶番に付き合う。少しすれば笑い声が返るはずだった。

だが、相手は間を置いて言った。

「……川田さんで宜しいのですね。私は亀田です」

確認するような言い回し。その背後に、呼吸音が混じる。一定で、深い。

彼は一瞬、言葉を失った。

「おい、どこにいるんだよ。もう着いてるぞ」

「何の待ち合わせをしているのですか?」

問いが、こちらの状況を本当に知らない者のそれだった。

「映画だろ。お前が誘ったんじゃないか」

沈黙。

そして、低く抑えた声。

「……川田さん。私は今日、行けそうにありません」

行けない、ではなく、行けそうにない。その言い方が、彼の背筋を冷やした。

次第に呼吸音が大きくなる。

スゥゥゥ……ハァァァ……。

まるで受話口のすぐそばで、誰かが息を吸い、吐いている。

「行けません」

小さく、呟く。

「行けません、行けません、行けません、行けません」

同じ抑揚で、同じ間隔で、正確に繰り返される。

友人の声だ。だが、そこに意思がない。ただ録音を再生しているような、均質な反復。

「おい、ふざけるなよ」

彼は苛立ちと恐怖をごまかすように声を荒げた。

その瞬間、呼吸が止んだ。

無音。

そして。

『エルキキイイイイイイイ』

意味を成さない、擦れた叫びのような音が鼓膜を打ち、直後に通話は強制的に切断された。

彼はその場でしばらく動けなかった。周囲の喧騒が遠くに感じられ、自分だけが薄い膜の内側に取り残されたような感覚だったという。

結局、映画館へは向かわず、そのまま帰宅した。

夜、自室でようやく落ち着きを取り戻し、通知を確認する。メールが二通届いていた。

一通目は友人から。

「ごめん、急に仕事入った。さっき電話かけたけど、誰かと通話中だった?」

送信時刻は、最初に通話が切れた直後。

だが、彼が受けた二度目の通話は、そのあとだった。

二通目は差出人不明。

「いっしょにいきましょうね」

それだけ。句点も署名もない。

タイムスタンプは、あの奇声と同時刻。

彼は震える指でメールの詳細を開いた。差出人アドレスは見覚えがない。だが、どこかで見た気がした。

しばらく考えて、ようやく気づく。

そのアドレスの一部が、自分の電話番号と同じ並びだった。

彼は設定画面を開こうとした。だが、なぜかロックが解除できない。指紋認証が通らない。何度も試すが、拒否される。

画面の上部には、通話履歴の通知が一瞬だけ表示された。

「発信:川田」

彼はそんな名前を登録した覚えはない。

翌日、友人と改めて会った。何事もなかったかのように映画の話をし、仕事の愚痴を言い合った。

あの通話について、彼は何も聞かなかった。

聞いてしまえば、何かが確定してしまう気がしたからだ。

ただ一つ、奇妙なことがあるという。

それ以来、友人から電話がかかってくるとき、必ず一瞬だけ表示が揺らぐ。

友人の名前と、その下にもう一つ、見慣れない名前が重なって表示される。

「亀田」

すぐに消える。通話が始まる頃には、何もなかったように元に戻る。

だが彼は、着信のたびに思い出す。

あの日、電話の向こうで名乗ったのは、誰だったのか。

そして、あのメールは、本当に彼だけに届いたのか。

あなたの携帯にも、同じ番号が保存されていないと、言い切れるだろうか。

[出典:421: 本当にあった怖い名無し:2010/07/20(火) 23:17:23 ID:VD1KLsH80]

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