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水を流したのは誰か rw+4,084

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私が昔、体験した話だ。

当時、あるビルに入っていたコールセンターで社員として働いていた。そこは夜遅くまで稼働しており、夜勤が必須だった。夜勤の体制は、正社員一人にパート数人だけ。人手不足をそのまま形にしたような配置で、新人だった私は「何かあったら携帯に連絡して」と言われただけで夜を任されていた。

夜勤にも慣れてきた数ヶ月後のある日、いつも通り業務を終え、「お疲れ様でした」とパートの人たちを見送った。フロアに残ったのは私一人。昼間は電話と声で満ちている場所が、夜になると音を吸い込んだように静まり返る。必要最低限の照明だけが点いていて、机と椅子の影が床に不規則に伸びていた。視線の端で、何かが動いてもおかしくない空気だった。

早く帰ろうと思い、黙々と片付けを進めた。全て終え、時計を見ると午後十時を少し回っていた。入口のドアに向かい、ロックキーを入力しようとした、その瞬間だった。

背後から、ザァー……という水音が聞こえた。

振り向くと、フロア奥にあるその階唯一のトイレの方向だった。洗面台ではない。はっきりと、トイレを流す音だった。だが、あり得ない。パートの人たちを見送ってから、すでに一時間以上が経っている。このフロアには待機場所も仮眠室もない。

さらにおかしかったのは、トイレの電気が消えたままだったことだ。暗闇の奥から、水の流れる音だけが聞こえている。

そのトイレはセンサー式で、手をかざさなければ流れない。つまり、誰かが中にいなければ、あの音はしない。

そう理解した瞬間、体が勝手に動いていた。振り返らずに階段へ走り、転びそうになりながら一気に下まで駆け下りた。外に出るまで、後ろで何が起きているのか確かめる余裕はなかった。

後日、体調を崩してその会社を辞めることになり、ささやかな送別会が開かれた。その場で、何気なくあの夜の話をした。

すると、先輩たちは顔を見合わせ、「そんな噂、聞いたことないよ」と首をかしげた。夜勤中に何か出たとか、トイレがおかしいとか、そういう話自体がないらしい。

あの日、確かに私は一人だった。
それでも、あの暗いトイレの中で、水を流した何かがいたことだけは、今でもはっきり覚えている。

(了)

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