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中編 r+ 山にまつわる怖い話

井戸の目 r+10,813

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オフロードバイクに乗るようになってから、ひとりで遠くへ行くのが癖になっていた。

泥と埃まみれになる林道、誰も通らない尾根道、そういう「地図にない道」を走ることで、自分の輪郭がはっきりするような気がするのだ。

今年の盆休み、四日間あれば九州の南端くらいまでは行けるだろうと、福岡の友人の家を起点に南下ルートを計画した。
もちろん、ただ高速を突っ走って目的地に着くだけじゃ意味がない。

途中にある絶景ポイント、未舗装路、峠道、できるだけ「無駄」を挟んで走るのが、俺にとっての正しいツーリングだ。

一日目は特に問題なし。エンジンは快調、ブレる前輪も「生きてる」感があるとさえ思えた。

二日目。温泉にも浸かり、阿蘇の外輪山をなぞるように写真を撮りながら走ったが、思った以上に時間を食っていたらしい。

太陽が山にかかり始めた頃、熊本と宮崎のちょうど真ん中あたりの峠道にいた。

まだ鹿児島には入っていない。本来なら今日はもう指宿のあたりにいるはずだった。
だが俺は迷わず寄り道を選んだ。スーパー林道。今回のツーリングで最も楽しみにしていたステージだ。

やっぱり走る。走らずに通り過ぎたら後悔する。

アクセルを開けた。
しばらくは最高だった。右に傾け、左へカウンターを当て、砂利を巻き上げながら森の中をすり抜ける。

ああ、これだ。この感覚のために日々働いている。

……と思った次の瞬間。カーブを見誤った。リアが滑り、バイクが真横を向いた。
必死に体を戻すも、もう遅い。跳ねたフロントが路面を噛み、バイクは俺を空に放り出した。

視界の端に、逆さになった愛車が回転しながら飛んできた。次の瞬間、激痛。

――意識を失ってはいなかった。
起き上がると、体中がじんじんと痛んだ。骨は折れていない。
バイクまで這うように歩き、エンジンをキックしてみたが、反応はなし。メーターは砕け、フロントフォークが歪み、前輪を噛み込んでいた。

携帯の電波は死んでいる。空はすっかり暮れていた。

バイクを道の端に引きずって、ハンドルにジャケットを引っ掛けた。リュックを背負い、懐中電灯を手に山道を歩き始めた。

二時間、三時間……足元が朧げにしか見えない。月は雲に隠れ、谷底がどこかわからない。

なぜまだ着かない? あの神社の橋を渡った地点から入った道なのだから、戻るだけでいいはずなのに。

右手にはずっと川の音。左手は山の斜面。それなのに、いつまで経っても景色が変わらない。

おかしい。

疲労と恐怖で手足の感覚が曖昧になる頃、道が突然開けた。

そこに村があった。

いや、正確には「かつて村だった場所」。

街灯はない。家々は朽ち、屋根は落ち、ガラスは割れ、扉には錆が浮いている。

懐中電灯で照らして確認すると、五〜六軒の木造家屋が斜面に沿って点在していた。

集落の中心には、コケの生えた石段と、閉じられた井戸。給水塔もあったが、使えるわけもない。

……どこか安心したのかもしれない。誰もいない確信が逆に落ち着いた。

一番マシな家の玄関前に腰を下ろし、虫除けをかけて寝ることにした。

地べたよりはマシだと思った。

睡魔が、ゆっくりと全身を包みこんでいく。

……ミシッ。

微かな音で目が覚めた。

耳をすます。家の中から……「ミシッ……ミシッ……」

床を踏むような、一定の間隔で鳴る軋み。最初は家鳴りかとも思ったが、明らかにリズムがある。

気配ではなく、存在の音だった。

玄関の上半分のスリガラスを通して中は見えない。
でもそこに、「何か」が居るのはわかった。

耳をガラスに近づける。

ミシッ……ミシッ……

ああ、間違いない。誰かが中を歩いている。

この廃墟に?

そんなはずはない。

緊張で額に汗が滲む。

ゴトッ。

背後、少し離れた家の方から音。慌てて顔を向けるが、何も見えない。

そのときだった。

正面にある斜面下の家の窓を、黒い影が横切った。

すぐまた戻る。往復している。

歩き回っているのか?いや、探しているのか?

背後からの足音も止んでいた。代わりに、スリガラスに何かが張り付いた。

顔。

白い顔が、ガラスに押し当てられ、目だけが俺をじっと見ている。

声を出そうにも出ない。体が金縛りに遭ったように硬直して動かない。

月が雲の切れ間から顔を出し、村全体が仄かに照らされる。

見えた。

井戸。

蓋が外れ、倒れている。そして……その中から、顔。

目だけを出して、俺を見ている。

家の窓にも、スリガラスにも、何人もの顔が張り付き、無数の目が俺を凝視している。

「うわぁっ!」

叫び声が漏れた瞬間、体が動いた。金縛りが解けた。

ヘルメットを抱え、暗闇を無我夢中で走った。

月の光だけを頼りに、来た道を逆に戻る。

何度も転びそうになりながら、脇腹が痛みだすまで走り続けた。

そのまま、夜が明けるまで歩き続け、ようやく人気のある町へとたどり着いた。

バス停に座ったとき、涙が出た。

そのまま始発の高速バスで帰った。

バイクは引き上げてもらい、廃車。俺もあちこち打撲だらけ。

あれは夢じゃない。

後日、撮った写真を確認した。霊らしきものは写っていなかった。

ただ――

何枚かの写真の隅、半壊した家屋の裏。フラッシュに浮かんだものがあった。

墓石。しかも、十柱以上。

村の背中に、墓地があった。

そりゃ、出るよな。

俺が寝てたの、たぶん、その真下だった。

(了)

[出典:27 本当にあった怖い名無し 2009/09/06(日) 19:00:53 ID:rYkHSOAHO]

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