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鬼は決まっていない rw+1,753

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あれは、小学校六年の夏前だった。

寛二という同級生がいた。最初から、教室の空気に馴染まないやつだった。授業中は机に突っ伏し、目を閉じたままほとんど動かない。給食だけは黙々と平らげ、終われば誰とも目を合わせずに帰る。話しかけても、焦点の合わない返事が返るだけだった。

俺たちは面白がって距離を取った。理由は要らなかった。ただ「変だ」という一点で十分だった。

決定的だったのは、低学年の頃の鬼ごっこだ。教室でやる、くだらない遊び。チャイムが鳴るまでに鬼が全員を捕まえられなければ負け。最初の鬼は俺だった。手近な背中に触れた。それが寛二だった。

「あの時、タッチされてない」

六年になってから、掃除当番で二人きりになった会議室で、突然そう言われた。ホウキを片付けようとした俺の前に立ちふさがり、ぽつりと。

低学年の、あの鬼ごっこのことだと気づくまでに数秒かかった。何年も前の話だ。俺は笑ったが、寛二は笑わなかった。言い終えると、急に俺から距離を取るようになった。廊下でも校庭でも、俺を見ると逃げる。席に座れば、勝ち誇ったような顔でこちらを見た。まるで、まだ鬼が確定していないとでも言いたげに。

やがて俺は考えた。終業式の日に最後にタッチして逃げればいい。夏休みの間中、あいつは鬼のままだ。そう思うと、胸の奥が妙に軽くなった。

昇降口で待ち伏せした。荷物を山のように抱えた寛二が靴を脱いだ瞬間、後ろから頭を叩いた。

「タッチ」

振り返った顔は、笑っていなかった。荷物を放り投げ、靴下のまま追ってきた。声を枯らし、言葉にならない叫びを上げながら。

家に駆け込んだとき、確かに俺は勝ったと思った。

夕方、居間でテレビを見ていると、窓の外から低い唸り声が聞こえた。言葉ではない。喉を潰したような、押し出すだけの音。外を見たが誰もいない。耳鳴りのように、奥で震え続けた。

その夜、連絡網が回った。寛二が死んだという。トラックにはねられたらしい。信号を無視して飛び出した、とだけ。

時刻を聞いたとき、あの声を聞いた時間と重なっていた。

布団の中で目を閉じると、追いかけてくる足音が蘇る。靴下のまま、地面を擦るような音。耳元で、あの押し潰れた声が息のように漏れる。

それ以来、俺は椅子から離れられなくなった。座っていれば、鬼ではない気がするからだ。立ち上がった瞬間に何かが確定してしまう。そんな予感がある。

学校でも、家でも、椅子に座り、机に突っ伏して目を閉じる。あの頃の寛二と同じ姿勢で。

半径五メートル以内に誰かが近づくと、体が強張る。振り返ると、必ず誰かが立っている気がする。

まだ、鬼は決まっていない。

そう思っているのは、俺だけなのかもしれない。

[出典:2007/07/25(水) 18:58:57 ID:ixbWg1mQ0]

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