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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

三人目は、どこから来たのか n+

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年に一度しか会わない友人が、二人いる。

AとB。高校の同級生……だったと思う。

正直に言えば、彼らが本当に「同級生だったかどうか」すら、今となっては確信が持てない。

再会するのは、いつも決まって七月の末、土曜日の午前中。
連絡をしてくるのはAだ。昔からそうだった。計画を立てるのはいつもA。
俺は指示された集合場所に車で向かい、Bはその次に合流する。
三人で食料と酒を買い、長野の森へ入っていく。未整備の原生林。川の水は冷たく、焚き火の音だけが夜を満たす。

二泊三日、都会の喧噪を忘れ、焚き火の前で語り合う。くだらない冗談や、若かったころの話。
まるで小学生が秘密基地に集うような、そんな馬鹿らしいノリで、もう十年も続いている。

ことしのキャンプは、いつになく盛り上がっていた。
焚き火を囲み、俺たちはしみじみと語り合った。
「最初のキャンプ、懐かしいな」
「そうだな……あれ、いつだったっけ?」
話は自然と、第一回のことに及んだ。

「俺は、大学院卒業してすぐだったから……二十五だな」Aが断言した。

「ちがうちがう、俺が東京から地元に戻ったのが二十七だよ。その年が最初だった」俺ははっきりと覚えていた。戻った年の夏、地元で久々に顔を合わせ、再会を祝してキャンプした……そのはずだった。

すると、Bがにやけながらビールを煽り、「いやいや、俺が結婚したときの式にお前ら呼んだろ?あの年だよ。俺、二十九だったから」
言い切った。

思い出せば、その年もキャンプはやった。だが、それが最初だったか?
だんだん空気がおかしくなってきた。

何かがズレている。記憶が噛み合わない。
だが、エピソード自体は妙に一致していた。
文化祭前夜、徹夜で準備したこと。Bが初詣で酒を飲みすぎて倒れたこと。
ゲーム『ポピュラス』にハマってAの家がたまり場になったこと。
笑いながら思い出す。再確認し合うように話す。懐かしさに満たされて……いるはずだった。

「ねえ、お前ら、何年生まれだったっけ?」
突然、Aが言った。空気を変えようとした軽口だったのかもしれない。
だが、俺が「昭和四十七年」と答えた瞬間、場が凍りついた。
Aは昭和四十三年、Bは四十九年。
四つ違い。高校の同級生というには、あまりにも年が合わない。

「いやいや、ちょっと待てよ。高校、○○高校だろ?水○会ってのもあったし……」Bが慌てて言い訳のように続けると、Aが食い気味に被せてきた。
「お前、○○高校じゃなくて、△△高校だったろ?なんだよそれ」

俺は財布から免許証を出した。AもBも同時に免許証を差し出した。
そこには、確かに、それぞれ異なる生年と違う高校名が書かれていた。
だが、俺は、たしかにこの二人と、あの教室で、同じ時間を過ごした記憶がある。文化祭で作ったお化け屋敷、校庭でやったバーベキュー。あれは何だった?

「共通の友人とか、いたっけ……?」
誰かのつぶやきに、三人とも黙り込んだ。
いない。ひとりも思い浮かばない。俺たちは、三人だけで過ごしていた。
昼休みも、放課後も、週末も。三人だけだった。

不安がじわじわと込み上げてくる。
何かを確かめたくて、Bが言った。「高校の卒業アルバム……家にあるから、確認してみるよ」
Aは乾いた声で笑った。「あったら、見せてくれ。俺の顔、写ってるかな」
何か冗談めかしたその口ぶりに、俺は笑えなかった。

思い出せば思い出すほど、足元が崩れていく。
記憶が濃密であるほど、恐ろしい。
これは作られた記憶なのか?それとも……誰かの記憶に、俺が引きずり込まれたのか?
Bが、俺たちの誰とも同級生でなかったとしたら。Aは、俺のことを俺ではない誰かと勘違いしていたとしたら。

この十年間、三人で過ごしてきた時間は、いったい何だったのか。
なぜ、何の疑いもなく、Aの電話に応じて、ここへ来ていたのか。

キャンプ最終日の朝、少し頭が重かった。
深酒のせいだと思っていたが、起き上がった瞬間、猛烈な違和感に襲われた。
Bが、いなかった。
荷物も、寝袋も消えていた。まるで最初から存在していなかったように。

「B、先に帰ったんじゃね?」
Aが言った。俺もそう思おうとした。
だが、Bの姿は、焚き火の煙の中にかすかに残っていた気がする。
なにか、視界の端に映る「痕跡」のようなものが、俺の記憶を否応なく掻きむしった。

家に帰ってからも、Bのことが頭から離れなかった。
あいつは、俺たちの記憶にどう入り込んだ?どこから来て、どこへ消えた?
考えれば考えるほど、脳の奥がじくじくと痛む。

Aから、今朝、メールが来た。
「来年もキャンプやるからな。十一周年」
当たり前のように書かれていた。Bの話には、一言も触れていなかった。

……本当に、来年もAから連絡が来るのか?
十一年目のキャンプは、三人でできるのか?
そもそも俺は、Aと本当に、友達だったのか?

ふと、鏡を見る。
俺の顔が、思い出の中の「俺」と、少し違って見えた。

[出典:571 :本当にあった怖い名無し:2009/10/04(日) 00:39:26 ID:CGPgCMkW0]

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