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目を縛り、歯を縛り r+2,296-2,705

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今でもあの書き込みを読んだ夜のことを思い出すと、胸の奥がざらつく。

指先に残るキーの感触、画面の光に照らされた顔の影、それらすべてが不気味に蘇るのだ。

最初に掲示板を覗いた時、彼女の投稿はごくありふれた愚痴のように見えた。恋人に裏切られ、友人に見捨てられ、孤立した女性が行き場のない憎悪を吐き出している。誰にでも起こり得る出来事であり、決して珍しい話ではないはずだった。

だが、読み進めるうちに、その言葉の端々に潜むねっとりとした感情に、私は引きずり込まれていった。怒りと絶望が濃密に混じり合い、読む者の胸を重たく圧迫する。彼女の書き込みは一度読み始めたら最後まで目を離せない、異様な引力を帯びていた。

彼女が口にしたのは「呪い」だった。ほんの遊び半分で見つけた呪文を、憎しみと共に唱えたのだという。

「目を縛り、歯を縛り……」

その言葉を心の中で反芻した瞬間、私は得体の知れない寒気に襲われた。古びた井戸の底から吹き上がってくるような冷たい風が、画面越しにまとわりつく感覚。彼女がその言葉を唱えた時も、きっと似たような寒さを感じたのではないだろうか。

だが、彼女の願いは思わぬ形で返ってきた。元恋人やその女ではなく、真っ先に命を奪われたのは、彼女の大切な飼い猫だった。愛情を注いできた存在が、目の前で苦しみ、息絶える。その衝撃は彼女の心を深く抉り、後悔の念が呪いよりも強く胸を支配した。

それで終わりではなかった。むしろそこからが始まりだった。
職を失い、見知らぬ男に付きまとわれ、母親が病に倒れる。彼女は夢遊病に悩まされ、気づけば夜ごと布団の外に立ち尽くし、壁に手を当てながら「目を縛り、歯を縛り」と口の中でつぶやいていたと書き込んでいた。

掲示板にはさまざまな反応が寄せられた。「人を呪わば穴二つ」「反動が返るだけだ」と諭す者もいれば、「それは呪いではなく悪霊を呼び込む儀式だ」と冷笑する者もいた。彼女はそのどれを読んでも救われることなく、むしろ深い闇に沈んでいった。

何よりも皮肉なのは、呪ったはずの元恋人と元カノが、何の不幸もなく幸せな生活を送っているという事実だった。結婚、出産、安定した暮らし。彼女の呪いは届かず、逆に彼女だけが破滅へと追い込まれていく。彼女は掲示板に嘆きを綴った。
「どうして私ばかりが苦しまなければならないのか」

ある夜、彼女はふと告白した。
「夢の中で、猫の声を聞いた。あの子が枕元に立っていて、苦しげに『どうして呼んだの』と問いかけてきた。私は叫びながら目を覚ましたけれど、胸の奥にずっとその声が残っている。あの呪文を唱えた瞬間、私だけでなく、あの子まで縛ってしまったのかもしれない」

その投稿を最後に、彼女の書き込みは途絶えた。しばらくの間、誰かが「続報を知っているか」と尋ねていたが、やがて話題にする者はいなくなった。

ただ一つ、奇妙なことがある。彼女が最後に残したスレッドを読み返すと、いくつかのレス番号が飛んでいるのだ。消されたのか、最初から存在しなかったのか分からない。ただ、不自然な空白だけが残されている。

私は何度も読み返し、その空白部分を凝視してしまう。そしてある夜、深夜二時を回った頃、画面の中に一行の文字が浮かび上がった気がした。
「目を縛り、歯を縛り」

慌てて更新すると、そこには何も表示されていない。ただの見間違いだと自分に言い聞かせた。だが、その夜から私は夢を見るようになった。暗闇の中、誰かが歯を食いしばる音。目を布で覆われた人影がうごめき、私の耳元で呟く声がする。
「彼らも苦しんでいるよ……お前が望んだとおりにな」

目を覚ましても、その声は耳に残り、消えない。気がつけば私もまた、口の中であの呪文を唱えている。指先が勝手に動き、キーボードの上で同じ言葉を刻もうとする。

私はまだ生きている。だが、それが「生きているだけでまし」なのかどうか、もう分からなくなっている。


そして今も、この文章を書きながら思うのだ。誰かがまた読んでしまったなら、その瞬間に呪文は受け継がれてしまうのではないかと。

あなたが今、胸の奥にひやりとした影を感じているのなら……それは、もう始まっている証拠かもしれない。

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