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先に着いていた後ろ姿 rw+3,125-0422

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出張の帰りだったそうだ。

Aさんが三重に住んでいた頃、大阪での用事を終えて、昼過ぎの電車で戻ってきた。途中の駅で一度乗り換えがあり、そこで降りたとき、妙な感じがしたという。

駅が妙に暗かった。夕方にはまだ早い時間なのに、構内の空気がくすんでいて、古いというより、古いまま時間が止まったような薄暗さだった。改札の前に立っている駅員の制服も、見慣れたものと少し違う。型が古いのか、生地の色味が違うのか、自分でもうまく言えないのに、見た瞬間に「今のものじゃない」と感じたらしい。

客の服装も同じだった。地味とか古風とかいう話ではなく、そこを通っていく人間だけが、別の時代の駅からそのまま歩いてきたように見えた。放送も妙だった。聞き取れないわけではないのに、内容より先に声の低さだけが耳に残る。構内放送というより、遠くの部屋から壁越しに呼ばれているような、こもった声だった。

ただ、乗るべき電車は普通に来た。遅れもなく、乗り込めば車内はいつものままで、Aさんはそのまま深く考えずに帰路についたという。

宇治山田駅に着いたときは、少し安心したそうだ。駅の中は明るく、売店も開いていて、人の気配もある。さっきの乗り換え駅だけがおかしかったのだろうと思ったらしい。

ところが、改札を出た瞬間、その感覚が消えた。

外が真っ暗だった。

夜というより、もう店じまいを終えたあとの深夜の暗さだった。駅前の商店街に明かりがない。車もいない。人もいない。いつもなら何台か並んでいるタクシーも見当たらない。風の音だけがしていて、駅から出たばかりなのに、背後の建物さえ営業を終えた施設のように見えた。

時計を見ると、まだ夕方のはずだった。外が暗くなるには早すぎる。おかしいと思って携帯を開き、時間表示を見たAさんは、その場で動けなくなった。

午前三時前だった。

見間違いかと思って何度か画面を点け直したが、表示は変わらない。嫌な感じがして振り返ると、ついさっき自分が出てきたはずの駅の改札が閉まっていた。中は暗く、照明も落ちている。人の出入りがあった気配すらない。ほんの数十秒前まで明るい駅舎の中にいたはずなのに、目の前にあるのは、夜中に完全に閉じた無人駅の姿だった。

その場に立っているのがまずい気がして、Aさんはタクシー会社に電話をかけた。呼び出しには普通に応じてもらえた。しばらくして一台来て、乗り込むと、運転手は何でもないような口調で言った。

「こんな時間まで、飲み会ですか」

Aさんは否定できなかったという。今が何時なのか、自分がどこから来たのか、その説明を口に出した瞬間に、何かが決定してしまう気がしたそうだ。

その出来事のあと、Aさんは駅での話を誰にもしていなかった。ただ、自分の中で片づかないまま残っていたらしい。あの乗り換え駅で何を見たのか、宇治山田駅で何時に降りたのか、考えようとすると、そのたびに駅員の制服と放送の声だけが先に浮かんでくるのだという。

それからしばらくして、もう一つのことが起きた。

Aさんの勤めていた会社は、同じビルの六階と九階に部署が分かれていた。Aさん自身の席は六階にある。ある日、定時後に九階で用事を済ませ、六階に置いた荷物を取りに戻ろうとして、一人でエレベーターに乗った。

何階で降りたのかは覚えている。ちゃんと六の表示を見た。扉が開いたのも確かにその階だった。

だが、降りた先が真っ暗だった。

照明が落ちている、という暗さではなかった。廊下の先が見えないだけでなく、エレベーターの中の光が外へこぼれていかない。扉の向こうに空間があるはずなのに、そこだけが光を受けつけないように見えたという。

停電かと思ったが、非常灯すら見えない。人の話し声もしない。いつもなら、どこかの部署で残業している物音がしている時間だった。それなのに、その階だけ、息を殺しているように静まり返っていた。

恐怖より先に、見えないという不快さが勝ったらしい。Aさんは扉が閉まる前に出て、記憶を頼りに廊下を進んだ。壁に触れながら、自分の部署の方向へ向かい、机の位置を探り、上着と鞄をつかんで引き返した。そのあいだ、誰ともぶつからなかった。気配もしなかった。フロア全体が、そこだけ抜かれていたようだったという。

そのままエレベーターで一階に降り、ビルを出た。

翌朝、Aさんは同僚に何気なく聞いた。

「昨日、みんな早く上がったんですか」

すると相手は怪訝な顔をした。そんなはずはないと言う。大事なプレゼンの準備があって、複数人が遅くまで残っていた。チーフが戻るのを待っていたから、少なくともAさんが帰った時間に無人になることはありえない、と。

Aさんは、六階が真っ暗で、誰もいなかったと話した。だが同僚は一様に否定した。照明が落ちることはあっても、非常灯まで消えることはない。しかも昨夜は実際に何人も残っていて、会議室も使っていたという。

その場では、見間違いではないか、別の階に降りたのではないか、という話になった。Aさん自身もそう思おうとした。だが、そう考えるほどおかしな点が増えた。

別の階なら、自分の机から荷物を取れるはずがない。

誰もいないなら、残っていた同僚たちはどこにいたのか。

残っていたなら、自分は何の気配も聞かずに、どうやってその中を歩いたのか。

そして何より、Aさんが荷物をつかんで戻るまでのあいだ、誰もエレベーターを呼ばなかった。六階に何人もいたのなら、一度も扉が開かないのは不自然だった。

その話をしたとき、一人の同僚が変なことを言った。

「昨日、Aさん、一回戻ってきましたよね」

戻ってきていない、とAさんは答えた。九階から六階に下り、そのまま帰っただけだと言った。だが同僚は首をかしげて、いや、廊下の奥を歩いていく後ろ姿を見た気がすると言う。暗くて顔までは分からなかったが、背格好も上着もAさんに見えた、と。

その言葉で、Aさんはあの乗り換え駅のことを思い出したという。

顔ははっきり見えないのに、今のものではないと分かる制服。聞き取れるのに、内容が頭に入ってこない放送。あのとき感じた違和感と、六階の暗闇の中で自分の席にたどり着けた感覚が、同じ種類のものだったことに気づいたらしい。

つまり、自分は見えていないのに、向こうは見えていたのではないか。

それ以来、Aさんはエレベーターに一人で乗るのが苦手になった。特に夜のビルでは、扉が開く瞬間に、ちゃんと自分のいる時間へ降りることができるのか、不安になるという。

一度だけ、その後に確かめたことがあるそうだ。

問題の六階で、自分の席からエレベーターホールまで歩いてみた。廊下の角度、柱の位置、部署の並び。その感覚を思い出しながら逆算していくと、あの夜、自分が暗闇の中でまっすぐ机まで行けたのは不自然だった。初めて目を閉じて歩いた人間なら、途中で柱か棚にぶつかるはずの動線だったらしい。

けれど、ぶつかった記憶はない。

まるで前にも同じ暗さの中を歩いたことがあるように、何も見えないまま、自分の席まで行って、荷物を取って、戻ってきている。

Aさんは今でも、ときどきあの夜のことを考えるそうだ。

六階が暗かったのではなく、自分のほうが、あのときだけ別の側にいたのではないかと。

そう思うようになってから、もっと嫌になったという。

宇治山田駅でタクシーを待っていたのが、自分だったのかどうか、少し自信がなくなったからだ。

[出典:http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1468334761/]

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