短編 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

産んでやる【ゆっくり朗読】6264-0106

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妻が妊娠していたときの話です

439 :あなたのうしろに名無しさんが……:03/09/10 13:59

妻は、妊娠中期頃から異常な眠気を感じていたらしく、常にうとうとしていました。

定期健診などで医者に相談すると特に異常なしで、

「そういった症状を訴える方も少なくないので心配ないでしょう。ただし、生活のリズムを崩さず、適度な運動もしてくださいね」

ということでした。

しかし、妊娠後期に差し掛かると、妻は殆ど一日中寝て過ごしていました。

適度な運動をしないと子供が下に降りて来ず、健康な出産&体を保てないということを聞いていたので、休みの日には散歩や水泳に誘っていたのですが、「今眠いから寝させて」といわれるだけです。

出産予定日に近づくにつれ、妻が恐ろしくなっていきました。

理由を箇条書きにさせていただきます。

1、常に寝ている。(出勤前後ともに寝ている)
2、食事を取らない。(食べているとは言うものの、顔手足が見る見るやせてゆく)
3、寝ているときに生活音以上の物音を立てると怒り狂う。

以上のことから、私は出勤日は、そっと家から出てそっと家に戻り、寝顔を確認して、ちょっと酒を煽り寝てる。

休日は、家が臭くならない程度の家事をし、妻を外に連れ出そうと画策する繰り返しを、数週間続けていました。

そんなある日、いつものように帰宅し酒をちびちびやってたのですが、とあるニュースの続報が気になりテレビをつけた途端、

「ちょっと、うるさいんだけど」

と、青白い顔をした妻が、隣室から憤怒の形相で覗いていました。

その後、妻は勢いに乗ったのか、結婚する以前のことまで遡り、私に怒鳴り散らします。

なだめようとするのですが逆効果で、自らのコレクションであるガラスのオブジェを、私にぶつけ粉々にしてゆきます。

どういった経緯でそうなったか覚えていませんが、

「もう産んでやるから!」

と怒鳴った後、妻は寝室へ通じるドアを閉め、静寂が残りました。

私は呆然としたまま、多分二〇分経ったぐらいでしょうか。

苦しそうなうめき声が聞こえます。

寝室に入ると、ますます呆然としました。

妻だと思っていた人が獣でした。

この時は本当に茫然自失だったのですが、気付くと子機を手にしていたので119に電話し、

「今にも生まれそうなんです」と言っていました。

きった途端、「あたまが」と妻が言うので、見ると出ていました。

妻が泣きそうな顔で私を見るので、

「もっと力んで、首が絞まっちゃうよ」と言うと、ごろっと胎盤とともに出てきました。

……死んでいるようです。

私はその死体のようなものをつかみました。

温かいので何とかならないかと、肋骨の辺りを優しく間隔を置いて押しました。

すると、「ひゃーー」と泣き声を出し始めたので、腰が砕けました。

気付くと、家のチャイムが絶え間なく鳴らされ、電話が変な呼び出し音を鳴らしているので、玄関のドアを開けると救急隊員がいました。

「生まれました」と言うと、子供と胎盤を銀色のシートでくるみ、妻を救急車に乗せようとしました。

妻は「寒い寒い」と言うので、手近にあったのが私のジーンズしかなく、それで肩の辺りを巻きました。

その後、わが子は未熟児でしたが、今のところすこやかにそだっています。

妻も毎朝私を六時(私の出社時刻は十時)に起こすような、教科書で見る模範的な生活を送っています。

この話の何処が人に言えないかというと、

妻が「もう産んでやるから」といったあと、私はドア越しに、

「勝手に生めよボケ。だらだらしやがってよー。一人で苦労してるような顔しやがって。誰が金稼いでると思ってんだ。おめーなんか畑の腐葉土だよ」

と言ったような気がするんです。

妻は出産後、以前よりも生き生きとしていて、出産直前の喧嘩のことなんておくびにも出さないんです。

ドア越しに言った言葉が、妻に届いていたかどうかもわからないし、もし聞いていたなら、何かしらリアクションがあったほうが気が楽なのです。

私は妻の笑顔が怖い……

(了)

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