短編 洒落にならない怖い話

最上階の上に棲む者【ゆっくり朗読】3200

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数年前の話になるんだけどさ。俺がいつものように2ちゃんねるで遊んでたとき、電話がかかってきたんだよ。

うざいな~と思いながらも俺以外家には誰もいなかったから仕方なく受話器をとったんだよ。

「……はい、もしもし」

今になってみるとかなり無愛想な声だったと思う。

そのせいかわかんないけど、しばらく何の反応もなかったんだ。

そのとき早く切りたかったんで、ちょっといらいらしてた。

俺はもう一度、さっきよりも大きな声で言った。

「もしもし!」

一瞬の間があったあと、受話器から小さくてか細い声が聞こえてきた。

「上の者です……」

女の子の声だったと思う。年齢的にも小さい子だろうって印象を受けたのを覚えてる。

そんな子が、上の者ですってのもおかしい話だけどさ。

でも俺はそれとは別のことでカチンときた。

俺は五階建てのマンションの最上階に住んでるんだ。つまりこれ以上は上に部屋なんてないんだよ。

加えて屋上もないマンションだったから、あるのは屋根だけなんだ。

正直これだけひぱって「間違い電話かよ!」って突っ込みたかった。

でも相手は年下の女の子だし、大人気ないなと思ってさ。できる限り優しくこう言ったんだ。

「多分かける番号間違えてると思うよ」

そしたらまた沈黙。

もうこれ以上付き合ってらんないと思って、俺は受話器を置いてPCに向き直った。

さあ仕切りなおしだってところでまた電話のベルが部屋に鳴り響いた。

しばらく無視してたんだけど鳴り止む気配はなかった。

俺はため息をついてまた受話器をとった。

受話器の向こうからは、またあの声が聞こえてきた。

「上の者です……」

温厚な俺もさすがにこれには怒ってしまった。

大人気ないかもしれないけど、キチンと言ったんだからね。

「いや、だからね。上には部屋はないんだよ!」

今まで少し間があってから返ってきていた返事が、すごい直球で帰ってきたんだ。

それに急に声に凄みが出てきたんだよね。

「本当に?」

たずねるというよりはこちらを挑発するようなニュアンスだった。

今になって思えば、ここで電話を切ればよかったと思ってる。

突然の変化に俺はちょっと怯んだ。

「……そっ、そうですが」

部屋にまた長い静寂が訪れた。

相手は押し黙っているし、俺もなんだか言葉が出てこなかった。

蛇に睨まれた蛙と形容しようか、実際睨まれているわけじゃないんだから変な例えだけど本当にそんな感じだった。

二~三分、もしかしたら十分くらいだったかもしれない。

俺は耐え切れなくなって一言呟いた。

「切りますよ」

言うが早いか受話器を耳からはずし置こうとしたときだった。

笑い声が聞こえてきた。

それがとにかく不気味な声で、テレビでモザイクがかかってる声ってあるじゃん? あんな声が聞こえてきたんだよ。

それもだんだん大きくなっていくんだよね。

受話器を置く寸前だったから耳からは結構離れてたんだよ。それがだんだん耳に受話器をつけてるぐらいの声になっていくんだよ。

さすがにぞわっときたね。俺は受話器を叩きつけるようにして置いた。

でもね、消えないんだよ。

受話器から聞こえてきてたはずの声が受話器を置いてからも続いてるんだ。

完全にてんぱった俺は立ち上がってきょろきょろ辺りを見回してた。

背中とわきの下、あと額に冷たい汗をかいていくのが分かったよ。

しばらくそうした後、声の出所が分かった。

ここまで言ったら勘のいい人はもう分かってると思うけど……

そう、上だったんだ。

それに気がついた時、ぴたりと声が止んだ。

俺はもう居てもたってもいられなかった。とにかく家の外に出ようと思ったんだ。

そこいらにある椅子とかにつまづきよろめきながらも玄関に駆け出した。

そしたら上から「ドンッ」って音が聞こえた。

体に電気が流れるような感覚だったよ。

もう俺は振り返らなかった。むしろ振り返ることができなかった。

その後、俺は誰にもそのことは話さなかった。

どうすることもできなかったからさ。

とりあえず一人のときは絶対に電話はとらないようにはしてるけど、今でもたまに聞こえるときがある。

天上から妙な「トントン」ってノックするような音が。

まるで何かがこちら側に出てこようとしてる……

(了)

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