ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 洒落にならない怖い話

貧困の国 r+4,880

更新日:

Sponsord Link

これはオカルトではない。しかし、私にとっては本当に洒落にならない話だ。

私は昨年まで外資系企業に勤めていた。ある日、「C国へ出向しないか」と打診を受けた。会社が所有する工場で、現地の技術者に日本のシステムを教えるのが目的だった。待遇は良かったし、期間も限定されていた。少し考えたが、最終的に承諾した。

C国の工場での引継ぎを終えた夜、前任者(仮に田中氏としておく)と食事をした。彼は赴任半年後に健康上の理由で帰国を希望したという。確かに頬はこけ、顔色も悪かった。

「倉庫の裏の丘には決して近づくな」

田中氏はその一点をやけに強調した。理由を尋ねても、彼は口を噤んだ。

田中氏が帰国し、私のC国での生活が始まった。

C国は長く内戦が続き、その爪痕は深かった。工場の周辺は農村地帯だったが、ゲリラによる虐殺や略奪の話は至る所に残っていた。働き手を失った家庭も多く、子供たちは物乞いをしていた。

工場では夫を亡くした女性が優先的に雇われ、彼女たちの子供は工場周辺で遊んでいた。私は彼らと親しくなり、昼休みにはよく遊んだ。

ある日、K君という少年が「面白い場所がある」と誘ってきた。彼の妹のMちゃんと一緒に、工場脇の林へ向かった。

しばらく歩くと、視界が開けた。広い空き地だった。K君とMちゃんはボール遊びを始め、私も加わった。K君のボールさばきはなかなかのものだった。

それから何日か後、また同じ場所へ行った。私は木陰で二人の遊ぶ姿を眺めていた。ふと工場の方を見ると、倉庫があった。田中氏の警告を思い出す。

『倉庫の裏にある丘には決して近づくな』

この地形……確かに丘のようだ。

そろそろ戻ろうとK君を呼んだ。その時、Mちゃんが木立の近くで何かを見つめていた。黄色いオモチャのようなものが落ちている。しゃがみ込むMちゃん。

「帰るよ」と声をかけようとした瞬間、K君が私の袖を引いた。

ドンッ!

腹に響くような爆音。振り向くと、Mちゃんが倒れていた。

駆け寄ったが、ダメだった。足や手が不自然に折れ曲がり、体の下には血の池。

しばらく呆然と立ち尽くした。やがて、黄色い物体が地雷だったことに気づいた。

C国に来る前から対人地雷の話は聞いていた。子供が興味を持つ形や色をしていることも知っていた。しかし、それは知識にすぎなかった。目の前で幼い命が奪われるまで、実感はなかった。

K君は顔をくしゃくしゃにして泣いていた。

Mちゃんが死んだ丘は、法的には工場の敷地だった。地雷があるため立入禁止だったが、有刺鉄線は盗まれていた。

私はMちゃんの家族に謝罪しようとしたが、工場長らは止めた。「事故だ。あなたの責任ではない」と。

後に、会社が遺族へ見舞金を支払ったと聞いた。

私はしばらく休養をとった。工場に戻っても、もう子供たちと遊ぶ気にはなれなかった。K君とも二度と会わなかった。

やがて出向の期間が終わり、日本に帰国した。

帰国後、田中氏に連絡を取り、会った。

私を見るなり、田中氏は深いため息をついた。

「ご愁傷様だな」

私は静かに尋ねた。

「あなたも、あの丘で同じ経験をしたんですね」

「ああ。私の時は男の子だった。赤い地雷だったよ」

「……その後は?」

「たぶん君と同じだ。一月もすると別の子供が誘いに来た。有刺鉄線はなかった」

田中氏はひどく悲しい目をしていた。

「それからは、ひっきりなしだ。兄弟連れで、何人も何人も……」

沈黙。

Mちゃんの家族に渡った見舞金。我々にははした金でも、C国では家族を数年養える額。そして、養う口は一つ減る。

田中氏と私は、子供たちの運命を呪うように黙って俯いた。

(了)

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 洒落にならない怖い話
-

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2025 All Rights Reserved.