その崖は、石を産む。
斜面のあちこちから、最初からそこに埋まっていたとは思えない角度で石が顔を出す。それらは何年もかけて少しずつ露出し、ある時、重さに耐えきれなくなったように、ごろんと音を立てて転がり落ちる。斜面が削れるわけではない。土が流れるわけでもない。地中の奥から、内側に溜まった何かに押し出されるように現れるのだと、村の者は言う。
石の大きさは、両手で抱えられる程度。山から運び降ろすのは、決まって村の娘たちだった。数人がかりで抱え、息を合わせて山道を下り、広場まで運ぶ。
広場に石が据えられると、焚き火が起こされる。炎は石を包み、しばらくすると乾いた音を立てて表面が割れる。弾けて飛び散った破片を村人たちは拾い集め、皮で作った小袋に入れる。それが御守になる。
この御守には、昔からの言い伝えがあった。持ち主に迫る危険を察知し、身代わりになって袋の中の石が粉々に砕けるのだという。
事故や大病で人が死ぬと、村では必ず御守を確かめる。だが、ほとんどの場合、石は砕けていない。大きな事故に遭って助かった時も、大手術を乗り越えた時も、袋の中身は変わらないままだった。
代わりに、何も起きていない日々の途中で、ある日ふと気づくと石が砂のようになっていることがあるらしい。本人には心当たりがない。村では、それこそが御守の働きだと考えられていた。持ち主が察知できない災厄や、起きていれば人生が決定的に変わっていたかもしれない何かを、先回りして引き受けて砕けたのだと。
俺は村の人間じゃない。仕事の都合で、しばらく滞在しているだけだ。
だからなのか、俺の御守を確かめても、石はいつも同じだった。小指の先ほどの平たい破片が一つ。欠けもせず、粉にもなっていない。
ご利益がないのか。
それとも、まだ何も引き受けていないだけなのか。
袋を握るたびに考える。
この石が砕ける時、俺はそれに気づけるのだろうか。
あるいは、何も知らないまま、ただ無事に生き延びているだけなのだろうか。
[出典:104 :全裸隊 ◆CH99uyNUDE :2005/06/17(金) 22:41:11 ID:WJ4r3mS70]