短編 ほんのり怖い話

会社にある開かずの間【ゆっくり朗読】3900

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うちの会社には、開かずの間がある。嘘みたいなほんとの話で、確かにある。

756 :2007/09/28(金) 13:29:13 ID:NDrdCohZ0

会社は三階建て。その三階の端に資材倉庫があり、その倉庫の奥に、扉が設置されている。

新人の頃、資材を取りに倉庫に行った際にドアの存在に気付き、当時の先輩に聞いてみたが、「気にすんな」の一言で片付けられた。

会社の外から見てわかったが、そのドアの先には部屋があるようで、窓も付いている。

常にカーテンが閉められていて中は見えないが。

不思議に感じたが、まぁ倉庫の一部だろう、と思っていた。

一ヶ月ほど前、我が部署に新人の小堀が配属された。

四月からの研修を終え、正式に配属されてきたピカピカの一年生。

新人ということで、俺の時と同じように色々と雑用を頼まれることもある。

ある日、その新人の小堀が俺に質問をしてきた。

「八木橋さん、あの、この前資材倉庫に行ったんですけど……」

ピンときた。

「あぁ、あの扉のことか?」

「そう、そうです。何ですかね?あの扉。奥の部屋も倉庫なんですか?」

俺と同じだ。なんだか微笑ましい。

「あれな、俺もよく知らないんだ。昔、俺も先輩に聞いてみたら、気にすんな、って言われたよ」

「そうですか……あれ、カギ掛かってるみたいなんですが、倉庫のカギで開くんですかね?」

「どうだろうな。試したこと無いけど。倉庫なら開くんじゃないか?」

「うーん……今度行ってみるかな」

なかなか好奇心旺盛なヤツだ。

俺も何か気になるので、中に何かあったら教えてくれよ、と言っておいた。

その翌日。また小堀がやってきた。

「八木橋さん、ダメでした。あれ、倉庫のカギじゃ開きませんよ」

どうやら、あの後すぐ開けに行ったらしい。

「そうか、ダメか。じゃあ別のカギがどこかにあるんだろうな」

「いえ、違うんですよ。あの扉、こっちからは開けられないみたいなんです」

「ん……?」

「カギは掛かってるみたいなんですが、こっちからのカギ穴なんて無いんですよ」

「な……?。じゃあ、あれか?内側からカギが掛かってるってことか……?」

「そうなりますかね……」

嫌な悪寒を感じた。

内側から掛かってるカギ。ということはどうなる?

カギを掛けた何者かが、あの部屋に居るってことか。

まぁ、あり得ない構造ではない。でも何か引っ掛かる。

「何ですかねぇ。誰か専用の個室なんですかねぇ」

「まぁ、閉じ込められてるって訳じゃないし、そいつの意思で自由に出入りはできるからな」

と言って、自分で気付いた。

「そうですねぇ。自閉症か引き篭もりの人でも居るんですかね~」

「いや待て、おかしいな」

「何がです?」

「その扉はそいつが開けられるとしても……あの倉庫、内側からカギは開けられないだろ」

全く不可解だ。

奥の扉は内側から開けられるが、倉庫自体の扉は開けられない。

倉庫のカギは、資材を取り出す時以外は、常に閉めることになっている。

つまり、そいつは倉庫に閉じ込められていることになる。

「あ……そうなりますね。そうだ、それに……あの部屋、夜、外から見ても明かり点いてたことないですよね」

そうだ、確かに。残業で夜遅く帰るときでも、あの部屋から明かりが漏れていたことなんてない。カーテンの隙間はあるのに。

「気になりますね……ちょっと調べてみましょうか」

「うーん、まぁほどほどにな」

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翌日から、俺は出張だった。

ユーザーにペコペコ頭下げて、接待しつつマズイ酒を飲んで、本社に戻ってきたのは三日後だった。

帰ってきた俺が聞いた最初のニュースは、小堀が会社に来ない、という話だった。

そしてその翌日聞いたのは、小堀が一人で暮らしてるアパートにも居ない、という話だった。

実家にも帰っておらず、結果、小堀は行方不明となった。

当然、俺はあの倉庫の扉が気になった。

しかし出張から帰りたてで、書類整理に忙しかった。

それで気付くのが遅れた。

出張に行った翌日、小堀からメールが来ていた。

気付いたのは帰ってきてから三日後だった。

出張先でも特定の送信者からのメールは受け取れるようにしているが、小堀は新人であったため、受け取る対象にしていなかった。まぁ……言い訳だ。

メールは一文だけで、こう書かれていた。

『あきました』

あれから数週間経つが、小堀はいまだに見つかっていない。

俺は、もう倉庫には行かないようにしている。

あの扉が原因なのかどうかは分からないが、何か関わっていると、俺は確信している。

先日、昔俺が扉のことを聞いた先輩に会った。

今は支社に勤めているので、会うのは数年ぶりだった。

俺は小堀の話をしてみた。

すると、先輩は扉のことを教えてくれた。

要約するとこんな感じだ。

・十年くらい前にも、扉に関心を持った社員が行方不明になっている(先輩の同期らしい)。

・ここは場所が悪い。霊が集まり易い場所だ、と聞いたことがある。

・会社の設立時、特別な部屋を作り、そこに” 何か” を置き、誰も入れないようにした。

・何が置かれているかは知らない。社長は知ってるかも?(当然聞けない)御神体だとか、怪しげな壷だとか、中には生贄を捧げた、なんて噂もあった。

話を聞いて、俺は疑問に思ったことをぶつけてみた。

「なんで扉を付けたのでしょう?」

「部屋なんだから、扉がないとおかしいだろ?」

最もなことを言われた。確かに”部屋”というものなら、それは必要かも知れない。

更にもう一つ聞いてみた。

「じゃあ、窓は?なくてもいいですよね?」

「……」

先輩はしばらく黙ってしまった。そして、こう答えてくれた。

「誘き寄せるには、必要なんだろ。お前、もうあの窓見るなよ?何か見えても、見なかったようにしろ、な」

俺の頭には、あの窓から小堀が呼んでいる絵が浮かんだ。

窓側の道を通るたび、俺は視線を感じる。

いつか見上げてしまいそうな気がする。

耐え切れず、俺は転勤願いを出すことにした。

先輩と同じように。

(了)

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