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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

ペダルの感触が消えた夜 nc+

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高校生の頃の話だ。

部活が終わって、だいたいいつも二十一時前後に家へ帰っていた。場所は秋田のかなり田舎で、街灯はあるにはあるが、等間隔というには心許なく、田んぼと用水路と空き家が交互に続くような道だ。夜になると音が消える。車もほとんど通らないし、虫の声さえ途切れる時間帯がある。

その日もいつも通り、自転車で同じ道を走っていた。空気が少し冷えてきて、秋が近いのを感じる頃だった。
道の先、二、三十メートルくらい前方に、人影が見えた。ぼんやりと黄色っぽい上着を着ている。最初は反射材かと思ったが、街灯の下に入っても光り方が違う。セーターだと分かった。

小学生くらいの子供だった。
こんな時間に、こんな場所を、子供が一人で歩いている。それだけで異様だった。周囲に民家はあるが、どこも真っ暗で、人の気配がない。帰りが遅くなったにしても遅すぎる。

自転車の速度を落とした。
後ろ姿しか見えなかったが、頭を少し下げて、両手を胸の前でこすり合わせるように動かしている。泣いているようにも見えた。寒いのか、怖いのか、理由は分からないが、とにかく放っておいていい状況には思えなかった。

声をかけるかどうか迷いながら、さらにブレーキをかけた。
「大丈夫か」と言うべきか、「どうした」と聞くべきか。知らない子供に声をかけること自体、少し気恥ずかしさもあったが、それ以上に放置する後味の悪さの方が勝った。

自転車が、ほとんど惰性で転がる速度になった。
並走できる距離まで近づいた、その瞬間だった。

前方の空気が、急に欠けた。

黒い布が落ちてきた、という表現が一番近い。
実際には、何かが落ちたわけではない。ただ、その子供の前に、黒いものが一瞬だけ広がったように見えた。影とも布ともつかない、輪郭のはっきりしない黒。音はなかった。

次の瞬間、黄色いセーターの後ろ姿は、そこになかった。

消えた、というより、最初からいなかったかのように、道だけが続いていた。
自転車のライトは同じ位置を照らしている。街灯の明るさも変わらない。何かが起きた証拠は、何ひとつ残っていなかった。

そのとき、自分がペダルを踏んでいないことに気づいた。
いつから踏んでいなかったのか分からない。止まっていたのか、惰性で進んでいたのかも曖昧だった。足の裏に、ペダルの感触がなかった。

音も消えていた。
虫の声も、遠くの風の音も、自分の呼吸音さえ、聞こえなかった気がする。耳がおかしくなったのかと思ったが、考える余裕もなかった。

声を出そうとして、何も出なかった。
驚いた、怖い、意味が分からない。そういう感情が湧く前に、頭の中が空っぽになった。無感情という言葉が一番近い。

次の瞬間、反射的にペダルを踏み込んでいた。
力任せに、息が切れるほど、家までの道をひたすら漕いだ。後ろを振り返ることはできなかった。何かが追ってくる気配はなかったが、止まったら終わる気がした。

家に着いたとき、どれくらい時間が経っていたのか分からない。
自転車を止めた瞬間、ようやく音が戻ってきた。犬の鳴き声、テレビの音、風の音。全部が一気に押し寄せてきて、その場にしゃがみ込んだ。

その夜のことは、家族に話した。
親にも兄弟にも話したが、当然のように信じてもらえなかった。暗くて見間違えたんだろう、疲れてたんだろう、夢でも見たんじゃないか。そう言われて終わった。自分でも、説明しようとすると、どんどん現実味が薄れていく感覚があった。

それからしばらくして、その話を口に出すのをやめた。
忘れたわけではない。ただ、思い出そうとすると、あの瞬間の「欠けた感じ」だけが残って、他がぼやけるのが気味悪かった。

最近になって、地元の知人から聞いた話で、妙なことを知った。
近くの小学校で、その道の怪談が広まっているという。

夜、声をかけると、黄色い傘を持った女の子が近づいてきて、いきなり目を突いてくる。
名前も付いているらしいが、そこまでは覚えていない。細部は人によって違うし、尾ひれがつきまくっている典型的な学校怪談だ。

ただ、共通している点がひとつあった。
黄色い、ということ。

自分が見たのは傘ではなく、セーターだった。
刺されたわけでも、追いかけられたわけでもない。ただ、黒い何かに覆われるように消えただけだ。

それでも、あの道で「黄色い子供」を見たという話の起点が、自分の体験と無関係だとは思えなかった。
誰かが見た。誰かが話した。形を変えて広まった。その過程で、危険な存在に仕立て上げられた。

今でも、あの道を夜に通ることがある。
何も出ない。黄色い影も、黒い布も、何も見えない。

ただ、あの地点を通過するときだけ、ペダルの感触が一瞬だけ曖昧になる。
ちゃんと踏んでいるはずなのに、足の裏が空を踏む感じがする。

そのたびに思う。
あれは、まだ終わっていないのかもしれない。

[出典:762 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2017/09/22(金) 20:52:09.19 ID:60+mvEg50.net]

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