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中編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

言っとるじゃろが nw+

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中学生のころ、オカルト雑誌を読んで、心のどこかで鼻で笑いながらも、ページをめくる手は止まらなかった。

「誰もいない部屋でテープを回すと、向こう側から声が録れることがある」
そう書いてあった。

その晩、親が寝静まったリビングで、古いラジカセをテーブルに置き、「誰かいませんか」と小さな声で問いかけながら、三十分だけ録音してみることにした。

雑誌の表紙は毒々しい原色で彩られていた。
コンビニの白い蛍光灯の下、雑誌棚の片隅で異様な存在感を放っていた。
特集の見出しが、妙に目に焼き付いて離れなかった。

記事を読み進めるうち、背中の産毛が逆立つような感覚と、奇妙な高揚感が同時にこみ上げてきた。
怖いのに、やめられない。
退屈な日常に小さな穴が開く感覚だった。

私が住んでいたのは、関東近郊の木造アパートの二階だった。
築年数の古い建物で、住人の生活音よりも、柱や梁の軋みの方がよく喋った。
湿気を含んだ畳の匂い。隣室から漏れるテレビのノイズ。窓の外を走る車の音。
それらが混ざり合って、この部屋独特の静けさを作っていた。

深夜二時を回っていたと思う。
押入れの奥から、学生時代に使っていたカセットレコーダーを引っ張り出す。
黄ばんだプラスチックの筐体。角に染みついた黒ずみ。
単二電池を二本入れ、蓋を閉めると、機械は鈍い重さを取り戻した。

新しい六十分テープの封を切る。
乾いた音が、湿った空気を裂いた。
何も書かれていないラベル。黒い磁気テープが、これからの時間を待ち構えている。

窓を閉め、換気扇を止めた。
冷蔵庫の低い振動だけが床を伝ってくる。
椅子に座り直し、部屋の四隅に目をやる。
天井の隅の蜘蛛の巣。本棚の影。カーテンの隙間。
普段は気にも留めない空間が、意味ありげな顔をし始める。

赤い録音ボタンと再生ボタンを同時に押し込んだ。

ガシャッ。
テープが回り始め、スピーカーから白いノイズが流れ出す。
無音ではないが、意味もない音。
時間だけが、確実に進んでいく。

咳払いを一つして、マイクに向かって言った。

「誰か、いませんか」

思ったより低く、掠れた声だった。
返事はない。
それでいい。
質問のあとに続く沈黙こそが重要だと、記事には書いてあった。

「返事を、してください」
「ここに、誰かいるのですか」

言葉を重ねるほど、自分の声が他人のもののように聞こえてくる。
深夜の密室で、虚空に話しかける自分の姿が滑稽に思えた。
それでも、テープを止める気にはなれなかった。

十分ほど経ったころ、耐えきれなくなって停止ボタンを押した。
回転が止まり、部屋に重たい静けさが落ちる。
何も起きなかったことが、妙に怖かった。

巻き戻す。
時間が逆流する音。

再生ボタンを押す。

ノイズの中から、自分の声が聞こえてくる。
『誰か、いませんか』
緊張した、若い声。

沈黙。
ノイズ。
質問。
沈黙。

退屈しかけた、その時だった。
ノイズの奥に、別の音が混じった気がした。
低く、湿った、喉の奥から出てくるような音。

『ここに、誰かいるのですか』
その直後。

『……言っとるじゃろが』

心臓が跳ね上がった。
聞き間違いだと思い、少し巻き戻す。
もう一度再生する。

『……言っとるじゃろが』

間違いない。
男の声だった。
痰が絡んだような、苛立ちを含んだ老人の声。
この部屋に、こんな声の主はいない。

頭のどこかで、あの記事の言葉が浮かんだ。
だが、名前を思い出そうとするほど、恐怖が現実味を帯びる気がして、考えるのをやめた。

私はテープをケースに戻し、机の引き出しの奥に押し込んだ。
その夜は一睡もできなかった。

それから怪異は起きなかった。
季節が変わり、引っ越し、仕事に追われ、あの夜の記憶は薄れていった。

そして、三十年が過ぎた。

還暦を過ぎ、妻に先立たれ、北関東の古い家で一人暮らしをしている。
耳は遠くなり、喉を患い、声は濁って出る。
自分の声を聞くたび、どこかで聞いたことがある気がして、不快だった。

ある蒸し暑い夜、物置を整理していて、あのテープを見つけた。
迷った末、古いラジカセに入れる。

再生する。

『誰か、いませんか……』

若い自分の声。
無知で、甘ったるく、腹立たしい。

『ここに、誰かいるのですか』

しつこい。
何度言わせる気だ。
ここには誰もいない。
いるのは、こうなった自分だけだ。

私は堪えきれず、スピーカーに向かって怒鳴った。

「言っとるじゃろが!」

その瞬間、スピーカーから、数秒遅れて音が返ってきた。

『……言っとるじゃろが』

全身が冷えた。
理解したくなかったが、理解してしまった。

あの夜、聞いた声は、未来の自分の声だった。
自分が、自分に向かって吐いた言葉だった。

ラジカセは回り続ける。
私の人生を巻き取り、過去へ送り続けるように。

止めることはできなかった。

[出典:711 :本当にあった怖い名無し:2018/10/21(日) 23:37:47.48 ID:rWDy0NtT0.net]

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