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宗教二世の俺が実家の仏壇を海で壊した結果 rw+1,537-0318

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生まれたときには、もう信じていることになっていた。

何を信じているのか、自分で考えた記憶はない。物心がついた頃には、リビングの隅に黒い仏壇があった。金属みたいに冷たく光るやつで、親はそれを拝む前だけ、少し姿勢がよくなった。

親は学会員だった。どこかで入ったのではなく、最初からそこにいた人間みたいに振る舞っていた。
俺もその中で育った。会館の湿ったにおいも、合唱の前に揃う拍手も、笑顔のまま他人を値踏みする空気も嫌いだったが、嫌うこと自体を口にする雰囲気はなかった。

だから合わせた。
座談会にも出たし、機関紙も配ったし、親の前ではそれらしい顔もした。信じてはいなかったが、逆らうほどの気力もなかった。

変わったのは、大学で付き合った女が、寺の娘だったからだ。

向こうも最初は言わなかった。俺も言わなかった。
結婚の話が出て、初めて彼女の実家に行った日に、全部わかった。

門があった。鐘があった。本堂があった。
住所の先にあったのは家ではなく、寺だった。

俺は駐車場に入る前に車を止めて、携帯で彼女を呼び出した。
出てきた彼女は、門の脇で泣いていた。

「学会の人やって聞いてたから、うち、言われへんかった」

そのとき初めて、自分が空っぽのまま背負っていたものの輪郭が見えた。
信じていないから軽いわけではなかった。自分で選んでいないものほど、他人の前では重い。

その夜、ファミレスで彼女と話して、俺は抜けると決めた。
家も、親も、あの黒い箱も、全部切るつもりだった。

次の週末、両親に言った。

「俺、もうやめる。彼女と結婚したい」

父はしばらく黙っていたが、急に顔つきが変わった。
普段は冗談ばかり言う人だったのに、そのときだけ目の奥が妙に乾いて見えた。

「女に毒されたか」

母は何も言わずに立ち上がった。
玄関から戻ってきたとき、手に箒を持っていた。

その日、俺は彼女を守れなかった。
母は彼女の頬を打って、それから箒で肩や背中を何度も叩いた。彼女は声も上げずに泣いていた。俺は間に入ることもできず、立ち尽くしていた。

それで終わった。
親とも切れたし、もう戻れないこともわかった。

だが、家を出るだけでは足りない気がした。
あの家から自分を持ち出すだけでは、まだ中身が残ると思った。

だから、親に温泉旅行を贈った。
大学に行かせてくれた礼だと言った。泣いて喜んでいた。
その隙に実家へ入り、服と書類と本を軽に積み込んだ。最後に、仏壇を下ろした。

思っていたより重かった。
箱の重さというより、中に誰かが座っているみたいな重さだった。

まだ暗いうちに海へ向かった。
名前も知らない浜だった。人はいなかった。風だけが強かった。

砂の上に仏壇を置いて、持ってきた金属バットで殴った。
一発目は響いただけだった。
二発目で角にへこみが入った。
三発目で、俺の手のひらが痺れた。

ようやく扉が少し開いた。

中にあったはずの紙のご本尊が、風もないのにふわりと浮いた。
紙なのに、落ち方が遅すぎた。
海の近くなのに、あたりは線香みたいなにおいがした。

俺は笑っていた。
笑わないと、その場に立っていられなかった。

ライターで端に火をつけると、紙は一度黒く縮んで、それから急に赤く燃え上がった。
灰が散った。風上に向かって散った。

その灰の向こうに、誰か立っていた。

白いものを着ていた気がする。
女に見えた。
母に見えたのは、その輪郭ではなく、立ち方だった。肩を少しだけ前に入れて、顎を引いて、まっすぐこっちを見る立ち方。遠くて顔は見えないのに、それだけで母だと思った。

「おまえ」

そこまで聞こえた気がした。

次の瞬間には、もういなかった。
波の音しかなかった。

車に戻ったとき、助手席に紙袋があった。
行きにはなかった。
中を見ると、黒い数珠が入っていた。房の切れかけた、母がいつも使っていたやつだった。

捨てようとして、触れた瞬間にやめた。
濡れていたからだ。
海水ではなかった。ぬるくて、少し粘ついていた。

それを最後に、俺は親と完全に切れた。
引っ越して、姓も変えて、彼女と結婚した。
子どももできた。
寺の近くには住まなかった。仏壇も置かなかった。拍手もしなかった。会館にも行かなかった。

それでも、抜けた感じはしなかった。

最初は電話だった。
夜中に鳴る。出ても誰もいない。
留守電には風の音だけが入っている。海の風みたいな、長く引く音だった。

次に、においが出た。
家のどこにも線香なんてないのに、夜になると廊下の角だけ、古い仏間みたいな湿ったにおいがした。
娘がそこを通るときだけ、少し頭を下げるようになった。

誰に教わったわけでもないのに。

妻は一度だけ、娘を叱った。

「そんなことしたらあかん」

娘は不思議そうな顔で言った。

「だって、ここにおるやん」

そのとき妻が見ていたのは、廊下の角だった。
俺が見ていたのも、同じ場所だった。
何もなかった。
なのに、娘だけはそこに向かって、小さく手を合わせていた。

五歳になるころには、娘は玩具の電話でよく誰かと話すようになった。

相手の名前を聞いても言わない。
ただ、話し終えると必ず受話器を俺に渡してくる。

「おとうさん、かわって」

冗談だと思って何度か耳に当てたが、何も聞こえなかった。
それでも娘は、ちゃんと聞かなあかんよと怒った。
その言い方が、母に似ていた。

昨日の夜、また玩具の電話を持ってきた。
娘は眠そうな顔で立っていて、いつもより小さい声で言った。

「おばあちゃん、海の箱、まだ開いたままやって」

喉が詰まって、何も聞き返せなかった。
娘はそのまま受話器を俺の耳に押しつけた。

最初は無音だった。
それから、遠くで波の音がした。
風が鳴っていた。

その奥で、ぱん、ぱん、と二回だけ拍手が聞こえた。

受話器を離そうとしたとき、女の声がした。

母の声ではなかった。
もっと若かった。
もっと近かった。

「次は、この子やから」

今夜、娘が寝室の隅に向かって、ひとりで頭を下げている。
そこには何も置いていない。
それなのに、暗い壁だけが、黒い仏壇みたいに光って見える。

[出典:341:本当にあった怖い名無し:2013/07/23(火) 23:56:36.47 ID:SbAcZn8b0]

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