被害者の親友から聞いた、ストーカー殺人事件が起こるまでの被害者の子の話。
地元の会社に勤める被害者の女子は後に加害者になる新人の教育係になった。
相手は彼女の父親くらい年の離れた独身男性で、そいつが彼女に教わって一週間もしないうちにプロポーズしてきた。
もちろん彼女は断ったんだけど男はしつこく迫ったらしく、親友に相談していたらしい。
職場に隠れて付き合ってた彼氏にも相談していたんだけど、そいつは「モテるなお前(笑)」とかいって全然助けようとせず使えない。
セクハラ受けていると上司に相談しても笑って流され、上司はセクハラの話を歪曲して、パートさんとか他の社員に面白おかしく吹聴して二人の事を夫婦だとかアベックだとか、からかいの対象にした。
飲み会の場とかでも男に「女は照れ屋だから断ってても嬉しがってる」って言って二人を盛り上げさせようとする輩もいたのに彼氏は依然知らん顔。
その辺から男は調子にのって帰り道は待ち伏せるし、家にラブレターやらプレゼントやら送りつけたりして、やがて彼女は鬱になり会社に行けなくなった。
その頃には彼氏とは自然消滅したらしい。
後で発覚したことだけど、ストーカー男は会社の連中には、自分と彼女は正式に付き合ってて、彼女が落ち込んでいるからはげましに行ってる、と言って上司もそれを信じて、男に皆からのはげましの伝言を頼んでたらしい。
その時にずっと相談を受けていた子も警察に行こうと説得して彼女も承諾した。
でもやっぱり気が引けたのか警察に行く前に会社に警告するって話になったんだ。
会社のトップにこれまでの事は全て男の虚言で付き合ってもいないし、男がやっていることはストーカーだ、と何度も直属の上司に相談しても話を取り合ってもらえなかった、と。
これ以上この会社にいられない、しかるべき場に報告させてもらうって。
そしてやっと会社も動き始めて、上司は格下げ、ストーカー男は上層部から詰め寄られると、誤解をされたとかなんだとか騒いで彼女の家にきたり、彼女が逃げ込んだ実家にも、花束を持ってきて門前払い。
しばらく会社と男との騒ぎは続いたけれど、男は突然来なくなった。
それから彼女は訴えを取り下げて退社する。
長いこと鬱とパニック障害に悩まされながらも、色んな人に助けられて回復し、別れた彼氏ともちょくちょく会うようにもなった。
その彼氏も、聞いた話によると彼女に対して結構ひどい事を行ってたらしい。
早く言ってしまえばモラハラっていうのか。
俺も地元で二人を見かけた事があって声をかけたが、あまり良い印象ではなかった。
彼女は楽しげに俺と話していたけど、彼氏は始終彼女の事をバカにするような発言をしていたのを覚えてる。
それから働けるようになるくらいまで元気になって、親友の紹介もあって同じ会社に勤めるようになった。
何かの節目に友人何人かと集まって飲みに行く事になって、すっかり回復した彼女も来ていて、ストーカー男の話もぎこちないながらに笑い話にしていた。
彼氏の事も愚痴ったりしながらも凄く好きなんだとも言っていたりして、色々つらいこともあるけれど、ちゃんと生きているようだった。
それから一年たつかたたない頃に、通勤途中に待ち伏せしていた男に襲われ、数日後、自宅から少し離れた国道沿いの林で死体となって発見された。
犯人は聴き込みからすぐに見つかり連行された。
世間に報道されたのはこの部分だけ。
告別式に行ったが、誰もが泣いていた。
俺もその一人だ。
ちょっとひかえめ過ぎる所があったけれど笑った顔が可愛くて、困っている人がいたらすぐに助けに来てくれるような子だったって、最後のお別れの言葉で誰かが言っていたけれど、本当にその通りの子だった。
式が終わって帰りがけに、彼氏が顔出したけれど被害者の子の親友が怒鳴って殴って男何人かで止めに入ったりしたっけな。
後からこの話を聞いてどうしようもないやるせない気持ちになったよ。
困っている彼女を助けなかった奴らは今も普通に生きてるし、それどころか自分達は助けようとしたとか心配していたとか言っているようで。
話のネタにでもしているのか地元じゃかなり有名な話だ。
何年もたってるけど今でも現場付近を通ると花が添えてある。
もしも近くの人に困っている人がいたら笑い飛ばしたりせずに本人の立場になって考えるようにして欲しい。
それだけで防げる事件もあると思うんだ。
(了)