夏は茶色く、冬になると真白に変わるその鳥は、本来はもっと高い山にいるはずの生きものだ。
それが、ときおり標高の低いこの山に現れる。
冬、白い羽毛をまとった姿を見かけた者は、その場所まで足を運ぶ。
里ではそれを「運試し」と呼んでいる。
鳥のいた場所には、何かが落ちていることがある。
透きとおった水晶、見慣れない鉱物、玉虫の羽、琥珀、あるいは実のなる木の種。
拾って庭に蒔けば、芽が出る。
植えれば、よく育つ。
そうした落ち物を、里の人間はまとめて「不思議」と呼ぶ。
誰が最初に拾い始めたのかは分からない。
ただ、拾った家は少しずつ豊かになった。
豊かになった家は、山に入る回数を増やした。
山に入る回数が増えた家は、やがて山から戻るのが遅くなった。
猟師もやって来る。
白い姿が美しい冬を狙って、罠を担いで山を駆け回る。
だが猟師が山に入ると、鳥は決まって姿を消す。
猟師は戻る。
鳥を捕らえられないまま。
ただし、何も持たずに戻るわけではない。
猟師の背嚢には、いつの間にか何かが入っている。
石、種、羽。
それが自分で拾ったものなのか、もとから入っていたのか、誰にも分からない。
里は二十世代続いている。
山の外へ出た家はほとんどない。
出ても、ほどなく戻ってくる。
山を離れた家は、どういうわけか、実りが止まるからだと皆が言う。
言うだけで、確かめた者はいない。
春が来て、夏が来る。
鳥は茶色い羽毛に戻る。
地味で目立たない色だ。
今は夏。
鳥は山を歩き回っている。
何かを探しているのではない。
落とす場所を選んでいる。
[出典:601 :全裸隊 ◆CH99uyNUDE :2005/07/01(金) 23:41:14 ID:BaqH7U7X0]