あの山には、もう入るなと言われている。
理由は誰も説明しない。ただ「行くな」とだけ言われる。大人たちは、そこに触れると話が長くなることを知っているからだと思う。
俺は一度だけ、その山に入ったことがある。
小学生の頃、四人でつるんでいた。俺と、兄貴分のS、その弟のM、従兄弟のK。遊び場は決まっていた。立ち入り禁止の神社だ。
吊るし神社、と呼ばれていた。
境内の奥にある木で、首を吊るやつが出るからだと聞かされていたが、俺たちの頃はもう何年もそんな話はなかった。
それよりも、賽銭が落ちていることの方が重要だった。
誰が置くのか分からない。五百円玉や千円札が、誰もいないはずの場所にある。Sがそれを見つけては拾い、駄菓子に変えて分けた。
ある日、それがなくなった。
Sは言った。
「あのおっさんのせいや」
神社の裏手、山の反対側から登ってくる男を見たという。神社には入らず、ただそこに立っていた。

その話を聞いた次の日、探しに行くはずだった。
雨が続いて、行けなかった。
その間に、Sが来なくなった。
熱も咳もないのに、体中に赤い斑点が出ているとMが言った。見舞いに行くと、Sは普通だった。むしろ機嫌がよく、持っていった菓子をすぐに食べた。
帰るとき、Sが言った。
「チクったやろ」
Mが何も言わなかった。
それから四人は分かれた。
しばらくして、学校に呼び出された。
「空き家に入ったな」
誰も答えなかった。Mだけが泣いた。
「俺君は関係ない。Kも……直接は……」
そのあと、Kに聞いた。
Sは一人で山に入っていた。雨の日だったという。神社の裏から回って、空き家を見つけた。
その家の奥の部屋に、砂利が敷き詰められていた。
Sはそれを拾っていた。
「宝石や」
Mの手にも握らせて、笑っていたという。
連れ戻されたあと、Sはそれを机に並べていた。
「金持ちのおっさんとバイオリン習う」
そう言っていたらしい。
そのあとから、母親が始めた。
風呂場で水をかけ、火を当てる。
「落とす」
そう言いながら、毎晩やっていたという。
Kの家にも来た。
「Kも祟られている」
そう言って、玄関で叫んだ。
そのとき、Kは言われたらしい。
「俺の名前は出すな」
Sがそう言ったと。
理由は聞かなかった。
聞いても答えは出ないと思ったからだ。
しばらくして、SとMはいなくなった。祖母の家に引き取られたと聞いた。
その家が燃えた。
原因は火の不始末だと言われた。
誰も信じていなかった。
最後に見た人の話では、母親は油揚げを咥えて歩いていたという。
笑いながら、「お狐様の化身じゃ」と言っていたらしい。
それから、あの山には誰も入らなくなった。
理由は聞かない。
ただ一つだけ、最近になって思い出したことがある。
あのとき、Sの机に並んでいた砂利。
あれと同じものを、俺は知っている。
いつからか分からない。
部屋の隅に、少しずつ増えている。
掃いてもなくならない。
踏むと、乾いた音がする。
[出典:542 :本当にあった怖い名無し:2022/02/06(日) 15:37:48.71 ID:Zy5GsjIa0.net]