短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

未曾有の案山子【ゆっくり朗読】

投稿日:

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数年前に、妻ともうすぐ1歳になる息子を連れて、妻の郷里へいった時の話です。

316 :303:2022/12/20(火) 00:00:09.81 ID:kWXo2/8d0.net

基本的に実際に体験した話ですが、話の本筋に影響しない程度の、身バレ防止フェイクを入れる事をお許し下さい。

私達は義父母と義弟に歓迎されて楽しく過ごさせてもらっていました。

何日か滞在していたのですが、その何日目かに折角なので皆で温泉に行こうという話になりました。

良い感じの日帰り入浴のできる温泉までは車で1時間程の距離があります。

私達は息子がいるので、チャイルドシートのある自分達の車での移動となりますが、シートは意外に幅を取るので、全員を乗せる事はできません。加えて義弟は帰りに寄り道をしてから帰りたいということで、車3台で移動することになりました。

出発前にナビを設定し、目的地を確認したところで、義父母の車と義弟の車についていく形で出発しました。

出発してから30分ほど走ったころ、信号のタイミングではぐれてしまい、先導する2台を見失ってしまいました。

しかし、ナビを設定して確認したのを知っているので先に進むことにしたようです。

程なくして、ナビが左折を指示してきました。

そこで左折をしたのですが、大きな道路から外れ、住宅地へと進むやけに細い道だったので、妻に「この道でいいの?」等と確認をしたのですが、
日が暮れていた事もあり「分からない」との事、目的地をきちんと設定したことは間違いないので、そのままナビに従って進むことにしました。

それから10分程走ると、車は山道というには大げさですが、ナビが案内するような道ではないとは断言できるような道へと到達しました。

ナビに目をやると、この先で右方向へ行けば再び大きな道路へとつながり、
信号を避けたショートカットルートだったのかもと考えていたのですが、その交差点でナビは左斜め方向へ進むように指示を出してきました。

私はとりあえずナビに従えば最後には着くだろうと考えナビの通りに信号もない林の中の交差点を進みました。

その道へ進んで数分も経ったかどうかの頃、ナビが「ポンッ」と音を出しました。

しかし、カーブの連続で、ナビに目線を落とすことができなかった私は、何かあれば音声で知らせてくるだろうとそのまま走っていたのですが、

立て続けに「ポンッ」数秒して「ポンッ」また数秒して「ポンッ」とおかしな動作をしているのが明らかだったので、ハザードを出して車を停めナビを見てみました。

ナビは右へ左へと地図をスライドさせては「ポンッ」と音を出し、ルート再検索と表示して、また右へ左へと地図をスライドさせて「ポンッ」を繰り返しています。

ナビには目的地への直線が表示されて方角がわかるようになっているのですが、
「ポンッ」という音と共に出てきたルートは線の示す方角どころか明後日の方向へと向かっています。

地図を縮小してみても、目的地とは全く違うところへと続き、途中で途切れている状態に。

土地勘のない私はお手上げ状態でした。

とりあえずUターンできるとこを探すことにした私達は、そのまま道を進みました。

車のすれ違いもできない細い道にカーブ、外灯もない道を進むと、大きく右へとカーブした先に未舗装の空きスペースらしきものが見えました。

この頃には妻はすっかりびびってしまって無言になっていましたので
「ここでUターンして戻るよ」と声をかけて少しでも安心させようとしました。

カーブは狭く急なので、かなり速度を落とし徐行に近いスピードで曲がり、曲がり終えるぐらいのところで左へとハンドルをきって空き地へと車の頭を入れました。

暗すぎて目視が全く役に立たず、バックモニターを見ながら、ゆっくりと右にハンドルを回しながらバックし、感覚的にこれでいけるかなというところで目線を上げました。

私が目線を上げるのと、妻が悲鳴を上げるのは同時でした。

ヘッドライトに照らされた空き地には無数の案山子が不気味に並んでいたんです。

私は一瞬ぎょっとしましたが、案山子であることがすぐに分かったので
「案山子だよ」と笑って、来た道を戻り始めました。

妻はいつの間にか寝てしまっていた息子に覆いかぶさるようにして震えて下を向いています。

再びナビが「ポンッ」と音を出したのは、先の交差点でした。

ナビに目をやると、ルート再検索の後、左方向、つまり最初にこっちにいけば大きい道につながると言っていた方向へと案内していました。

先の交差点から大きな道へと出て間もなく、義母から電話がかかってきました。

ハンズフリー設定をしているので車のスピーカーから義母の声が聞こえます。

「今どこにいるの?あんまり遅いから心配して電話したのよ」といいますが、時間的には、義父母達がそろそろ目的地についたかな?ぐらいの時間のはずです。

とりあえず、「すいません。ナビがちょっと。もう大丈夫です、先に入っていて下さい」といった返事をして電話を切りました。

勘違いかもしれませんが、時間は思っていたよりも30分ほど経過していました。
それから目的地までは何事もありませんでした。

目的地に着くと、とてもいい感じの造りの温泉でした。

妻は、到着するなり車を降り、義母のところへ行って何やら話をしています。

「怖かった」という声が聞こえてきたので、先ほどの事を報告しているんだなと思いながら、
荷物を持ち眠そうな息子を抱っこしました。

「すいません、おまたせしてしまいまして」
と言いながら妻の近くへ行くと、義母も妻も真剣な顔をしています。

長らく待たせて更に立ち話で時間をとらせてしまうのもなんなので、その場では何も触れずに温泉を満喫しました。

帰りは、ナビを設定しているにも関わらず、ちょっと離れるとすぐに義父は車を寄せて待ってくれました。

加えて義弟は私達の車を挟む形で私たちの後ろを走ってくれました。

そして寄り道をしないまま、義実家まで私達の後ろについてくれ、義実家に到着したのを確認してから単身寄り道へと戻っていきました。

どうやらこの後書く事を知っていての行動だったのだと思います。

その後、妻が息子を寝かしつけにいき、私と義父母は居間にいました。

「実はね、たかしくん」

義母が話し始めました。

「えみちゃんから聞いたけど、初めてじゃないのよ」

私はそういう話なんだろうなという予感があったので、詳しく話を聞くことにしました。
妻は里帰り出産をしたのですが、義母と出産を控えた妻が産院へ行った後、
少し気分転換にドライブをしたらしいのですが、
その時に、義母の車のナビがおかしな動作をしだして、目的地とは全く違うところへ行こうとしたそうです。

義母は土地勘がありましたので、割と早い段階でおかしい事に気づき自分の知る情報を頼りに走り、暫くしてナビは正常に戻ったということです。

そして、そのナビがおかしくなった場所というのが、例の交差点から程近い所だったようです。

先に「そういう話なんだろう」という予感があったと書いたのには理由がありました。

妻を怖がらせまいとして、その時には何も言いませんでしたが、あの案山子は明らかに変だったのです。

私は土地勘もない身で外灯もない狭く暗い道を走っていたので、カーブの際も徐行に近い速度で進入しています。

ですから、ヘッドライトの明かりで時間をかけて空き地があることを把握することができました。

空き地に車の頭を入れ、バックして、いざ戻ろうとするその瞬間まで、実は私は案山子を見ていません。

カーブを曲がりながら、Uターンをしながら慎重に慎重を重ね確認を幾重にも行っているわけですから、当然案山子はすでに見ていないといけないはずなんですが、見ていなかったんです。

妻はそのまま息子と一緒に寝てしまい、起きてきてから話を聞くことができました。

妻がビビッてしまっていたのも、悲鳴と共に息子に覆いかぶさるようにした理由もそこで明らかになりました。

以前、義母と共に遭遇した時は、何となく「子をくれ」と言われたような気がしたのだとか。

その時はまだその程度であったのが、今回、頭の中に直接響くような声ではっきりと「くれ!」と言われたようです。

目的が子供だと確信して、息子をとられまいと覆いかぶさるようにしたのだそう。

次の日だったかまたその次の日だったかに、義母と妻が以前から一緒に行こうと約束をしていたところへいった帰り、授乳の為、駐車場のあるコンビニへ立ち寄りました。

妻が授乳をしている間、車のブラインド等はしていても不審者が覗いたりしないように、
私は車の前に立って授乳が終わるまで見張りをしていました。

すると、交差点の向こう側から一人の男性が歩いてきました。

別に服がちょっと派手なだけの普通の男性でしたが、私の近くまでくると「失礼ですが、何をされている方ですか?」と尋ねられました。

私が不審な者を見る目をしていたのか
「いえね、あなたのオーラはとても珍しい色をしているんですよ。それで気になって」

ますます不審者だなと思いながら
「ちなみに何色なんですか?」と尋ね返してみたところ
「金色です。どうも…」
と言いながら去って行きました。

コンビニに用事あったんじゃないのかい!と思いながら去る男性を見ていますと
「守られてますね」と呟いてそのまま行ってしまいました。

車に戻り、妻に「変な人に絡まれたわ」と笑いながら言うと、妻は不思議そうな顔をしています。

「いつ?」

「今そこで」

「ずっと一人だったよ?」

私は男性が歩いていった方を見ました。

時間的に交差点あたりにまだいるはずだと思っての確認行動でしたが、男性の姿は確認できませんでした。

そのコンビニは、最初に大きな道から外れるようにナビされた交差点のすぐ近くでした。
私達は婚前の約束もあって、コロナ禍にあっても毎年最低でも一度だけは万全の対策を取って顔を見せに行っています。

その際、今回の温泉にも何度か行きましたが、あれ以来ナビは一度もおかしな動作をしていません。

長文駄文失礼しました。

324 :本当にあった怖い名無し:2022/12/20(火) 00:43:46.61 ID:iiPWSCt40.net
その案山子と近づいてきた男とは似ていなかったかい?

325 :303:2022/12/20(火) 00:45:15.89 ID:kWXo2/8d0.net[9/11]

>>324
案山子は、日本手ぬぐいに目口を描いたようないかにもな案山子だったので、似ているとは感じませんでした。

326 :本当にあった怖い名無し:2022/12/20(火) 00:48:14.72 ID:iiPWSCt40.net
外見はそのようでも…雰囲気とか特徴とか…。
実は案山子が関わる話しで似たような話しを聞いた事があって…それは女なんだが…。

327 :303:2022/12/20(火) 00:56:18.86 ID:kWXo2/8d0.net
>>326
案山子は本当に何十体とあって、衣装もばらばらだったので、似たような格好だったりがいなかったという断言はできませんが、少なくとも直感的に似てる等結びつくような、そういう感じはなかったです。

男性はどちらかというと、芸能スカウトマンですと言われたら納得してしまいそうな感じでしたよw

335 :303:2022/12/20(火) 01:44:59.08 ID:kWXo2/8d0.net
原因が何かとかそういうのは、解明されるような後日談もないので分からないですが、そのナビがおかしくなった町は、時折不可解なことが起こる土地なんだという話は義母だったかに聞いたことがあります。

何か聞いたことがある不思議な話がいくつかあるのでしょうね。

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