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ヒトラー・ナチを欺いた死体!世紀の戦略~ミンスミート作戦とは#740-0122

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死体を使ってヒトラーをダマす!?世にも奇妙な作戦

第2次世界大戦中、イギリスがドイツを欺くためために、ウソのようなトリックを使った作戦を実行。

ミンスミート作戦とは

第2次世界大戦真っ只中の1943年、ロンドンの倉庫の片隅で、1人の男が自殺しました。

貧しさでどうにもならなくなった末の死。

しかし、人知れず孤独な死を遂げたこの男は、突然、表舞台に引っ張り出されることに。

第2次大戦の勝敗を左右した作戦の主役となったのです。

そんな死体が大活躍した世にも奇妙な作戦、それが”ミンスミート作戦”

イタリア・シチリア島への侵攻

ヒトラー率いるナチス・ドイツは、イタリアと同盟、1943年当時、ヨーロッパの大部分を事実上支配していました。

そんなドイツに対抗するため、イギリスとアメリカの連合軍が考えたのが、敵の同盟国であるイタリア・シチリア島への侵攻。

シチリア島は、地中海の交通の拠点。

さらに、イタリア本土に侵攻するための強力な足掛かりともなります。

しかし、シチリア島が狙われていることはドイツ軍もわかっていました。

そこで、万全の防衛体制を整えていたのです。

シチリア島は、数万人のドイツ兵と数十万人のイタリア兵が守っていました。

そこへ攻め入っても、大苦戦は間違いありませんでした。

ある変わったアイディア

そこで、イギリスの情報部は、ドイツ軍をだまそうとしました。

攻撃しようとしているのはシチリア島ではなく、当時ドイツの支配下にあったギリシャだと、ドイツ軍に思わせようとしたのです。

そうすれば、ドイツ兵の多くはギリシャに移動、その隙にシチリア島に攻め入ることができる。

しかし、一体どうすればドイツは騙されるのか?その任務に当たったのが、空軍大尉のチャールズ・チャムリーと海軍少佐のユーエン・モンタギュー。

2人は、情報部の棚に眠っていたある変わったアイディアを実行してみようと考えました。

それは、死体にイギリス軍の軍服を着せ、シチリア島ではなく、ギリシャを攻めるという偽の作戦書類を持たせる。そしてその死体を、どこかの海岸に漂着させる。

ドイツ軍が見つけ、ヒトラーが偽の作戦を信じれば、シチリア島からギリシャに軍隊を異動させるに違いない。

そのアイディアを提出していたのは、情報部で働いていた、若き日のイアン・フレミングでした。

あの「007」シリーズの作者です。

ウィリアム・マーティン

必要な死体の条件は、海岸に漂着するため、溺れて死んだと言ってもおかしくない状態であること。

作戦に使用しても遺族から苦情が出ないこと。

戦時中とはいえ、そんな死体はなかなか見つかりませんでした。

しかし、そんなとき、ロンドンのさびれた倉庫の中で、1人の男性が息を引き取りました。
グリンドゥール・マイケル、34歳でした。

マイケルは、田舎からロンドンに出てきたが、仕事を見つけられず、失意の中で死にました。

すでに両親も亡くし、身寄りもない状態。

悲しむ遺族もいない、体に目立った外傷もない、作戦に必要な条件を全て備えていたのです。

暗い倉庫で死んだ男が、いきなり国際政治の表舞台に………マイケルが、ドイツ軍に偽の将校だとバレないように、彼の具体的な人物像を作っていきます。

2人はマイケルに、ウィリアム・マーティンという新しい名前を用意しました。

イギリス海兵隊の少佐で、重要な作戦が書かれた秘密書類を託される有能な軍人ということにしました。

マーティン少佐の人物像

まず、マーティン少佐に持たせる身分証明書用の写真を撮影、しかし、どうしたものか、何回撮っても、その顔は死人にしか見えない。

そこでモンタギューは、マーティン少佐に似ている人を探し回り、そっくりな男性を見つけ写真を撮らせてもらいました。

さらに、マーティン少佐の人物像をよりはっきりさせるため、銀行に借金の督促状を書いてもらい、死体に持たせることにしました。

加えて、買い物のレシートや、バスの乗車券なども持たせ、生活感を演出したのです。
すると、モンタギューとチャムリーは、だんだんと悪ノリしてきました。

2人は、マーティン少佐に、恋人の写真を持たせることにしました。

そこで、ひそかに関係各所から女性たちの写真を集め、秘密の美人コンテストを開きました。

そこで選ばれたのは、陸軍の秘書だったジーン・レズリーの写真でした。

2人の悪ノリはさらにエスカレート、彼女にパムという名前をつけ、マーティン少佐にパムからのラブレターを持たせました。

「いとしいあなたを駅で見送った時はとても落ち込んだ気分になって、時間がほんの少しの間だけでも止まってくれたらいいのにと思った。心から愛を込めて……パム」

この切ないラブレターは、情報部で1番のベテラン秘書が書きました。

厳しいお局様と恐れられていた彼女が精一杯、恋する乙女になりきって書いたのでした。
こうして、マーティン少佐の人物像が完成。

これまで揃えたものたちを、軍服のポケットや財布に入れました。

そして最後に、連合軍にシチリア島と見せかけてギリシャへ上陸せよと指示したニセ文書を持たせたのです。

いよいよ作戦開始

マーティン少佐をどこに漂着させるか?2人が選んだのは、中立国だったスペインの沿岸。

当時のスペインは軍事政権で、中立国と言いながらも、軍や政府にドイツに親しい関係者が多く、ドイツ軍のスパイも数多く潜伏、彼らがニセ文書の情報を知れば、きっとヒトラーに伝わるに違いないと考えたのです。

1943年4月19日、マーティン少佐は特別な容器に入れられ、潜水艦に乗せられました。
いよいよ作戦開始。

4月30日の明け方、スペイン南岸に到着。ここでマーティン少佐は海へ。

ニセ書類を入れたブリーフケースは、防犯用のチェーンで体につながれていました。

あとは、スペイン沿岸に無事漂着し、ドイツにニセの情報が伝わるのを待つだけ。

果たして、ヒトラーをだますことは出来るのでしょうか?

カール=エーリヒ・キューレンタール

数時間後、マーティン少佐の遺体は、地元漁師の手で引き上げられました。

そして、医師たちによって、身元や死因を探る検死が行われました。

ポケットの中のものや財布の中のもの全て調べられました。

すると、医師たちはマーティン少佐の死因を溺死と診断、またブリーフケースは、中を開けられることなくスペイン軍に預けられました。

しかし、ここで思わぬ大誤算が!ナチス・ドイツに、あっさり情報を流すと考えられていたスペイン軍が、何故かこの時に限って、律儀にブリーフケースをそのままイギリスに返そうとしました。

そうなれば作戦は大失敗。

万全の態勢で待ち構えるドイツ軍とまともにぶつからなくてはならなくなる。

しかしここで、ドイツの大物スパイが動き始めました。

その男の名は、カール=エーリヒ・キューレンタール。

キューレンタールはあらゆるつてを駆使して、ブリーフケースの中のニセ機密文書を手に入れました。

そして、その内容を全く疑いもせず、信じたのです。

優秀なスパイだったキューレンタールがなぜあっさりとニセ文書に飛びついたのか?実は、彼の祖母はユダヤ人で、手柄を上げ続けなければ、一族もろとも収容所送りになりかねなかったのです。

そのため彼は、連合軍がギリシャを狙っているという大ウソに飛びついてしまったのです。

キューレンタールは、本物の情報だと太鼓判を押したうえで、ニセ機密文書の写真をドイツ本国に送りました。

果たしてヒトラーは、この情報を信じるのか?

作戦はどうなった?

1943年7月10日、連合軍は、16万人もの兵力をもってシチリア侵攻を開始。

手薄になっていたシチリア島は、わずか1ヶ月ほどで陥落。

これをきっかけに、ドイツ軍は各地で不利な状況に追い込まれていきました。

全ては、マーティン少佐が運んだニセ文書から始まったのです。

スペイン南岸の街、ウェルバの墓地にマーティン少佐が眠っています。

刻まれた生年月日も、亡くなった日付も全て架空のものですが、1998年に一つだけ、本当のことが書き加えられました。

”ウィリアム・マーティン少佐として国に奉仕したグリンドゥール・マイケル安らかに眠れ”と。

(了)

[出典:ライターズラボ]

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