短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

【小松左京】お召し【ゆっくり朗読】

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厳重に封印された古文書が発見され、古代文明の謎が解明されるかと思われた。

(「古代人類にそんな知恵があったとは!」)

…書いたのは小学六年生の少年。

「異変」が起きて半年、時が経てばそれを覚えている者もいなくなるからと、記憶が鮮明なうちにこの文書を書き残した。

「異変」前夜、「空とぶ円ばん」がたくさん現れたが、少年は眠かったので寝ぼけまなこで見ていただけ。

翌日、一時間目のチャイムが鳴っても教師が現れない。

各クラスの学級委員が教師や小使いを探したが、登校時にはちゃんといた大人たちが一人もいない。

学校のまわりを調べてみても、大人たちは一人もいない。

台所のお鍋は吹きこぼれているし、ベビーベッドの赤ん坊は泣いているし、ほったらかしのアイロンでアイロン台が焦げている。

12歳未満の子供しかいないと知った少年たちは、大人たちが戻るまで僕ら子供たちだけでちゃんと暮らしていこう、と決める。

市内の他の小学校とも連絡を取り、空いている家になるべくまとまって暮らし、四年生以上の者が小さい子の面倒を見て、(子供に消防車は動かせないので)火事に気をつけようと決まった。

発電所や水源地は自動化されているからしばらくもつし、人口が減ったのだから食料や電気や石油は少なくてすむ。

隣の小学校の、七歳で微分積分をマスターし、兄名義でアマチュア無線の免許を取り来年はアメリカの大学に飛び級で留学するはずだった天才児が、自分たちか大人たちのどちらかがパラレルワールドに飛ばされたのかもしれないと仮説を述べた。

病院では何もない所から赤ん坊が出てくる。

四年生以上の女子は、本で育児法を学んだ。
病気で休学していた一歳上のクラスメートが12歳の誕生日にみんなの目の前で消えた。
チビたちは集団生活に慣れた。

高学年は大人たちの事をはっきり覚えているので寂しかったが、それを隠して働いた。

高学年は寂しさに耐えられなくなると、学校の屋上や無人の街で「お母さーん!」と叫んだ。

四歳のタミコが熱を出して死んだ。

千代紙をきれいに貼ったミカン箱の棺桶にタミコを納め、死ぬって事がどういう事なのかチビにも見せておいた方がいいだろうとお葬式の真似事をした。

棺桶にはみんなが宝物を入れた。ビー玉、キャラメル、長島選手のブロマイド。

棺桶を埋めた上には大きな石を乗せ、野犬に掘り返されないようにした。

…ぼくは明日12才になる。

あちらの世界でお父さんやお母さんに会えるかわからないけど、みんな元気だと会えたら伝えます。

五年生へ、春になったら君たちが六年生です。チビたちをよろしく。

チビたちへ、お兄さんお姉さんの言うことをよく聞いてください。

追伸。
ぼくのプラモデルはタミコちゃんのおはかにおそなえしてください。

…未来の人類は古代人巨人説と古代人長命説について、神がなぜ人類の寿命を12年に定めたもうたのか、なぜ人類だけが醜い死体をさらさず「お召し」により消滅するのか、なぜ人類だけが「清らかに誕生」するのか、なぜ「成年男女」の性愛が虚無感をともなうのかを語り合った。

長官は喉の薬を飲んだ。

「お召し」の前には喉が重くなり、声が変わる者が多いのだ。

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