短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

朝帰りの母【ゆっくり朗読】

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八年前の今頃、母が体験したちょっと不思議な話。

489 :本当にあった怖い名無し:2016/06/27(月) 21:00:24.30 ID:HXjDqC9k0.net

お酒が絡んでたから怪しい話ではあるけど、書いてみる。

職場の飲み会から歩いて自宅に帰っていたら、いつの間にか地面に倒れていた母。

そこは大きな家の前庭みたいなところで、母は塀に囲われた大きな木の側に倒れていたらしい。

飲み会は十時にお開きだったんだが、母は暗いとこで倒れてたことにびっくりして、

「酔っ払って寝てしまったのか?早く帰らなきゃ!明日も仕事だ」と慌てて起き上がった。

で、しばらく街灯が少ない田舎道をさまよった。

とにかく大きな通りに出て、車を見つけようとしたらしい。

すると道中、飲んでいた店を発見。

扉を叩くが、人はいないようで灯りもついていない。

ここで、鞄や靴がなく、手ぶらであることに気付く。携帯もない。

近いから自宅まで歩いて帰ろうとしてた。

シラフなら、その店からの帰り道はわかるはずなんだけど、酔っ払ってたせいか帰り道が分からなくて、だんだん不安になったそう。

またしばらく歩いてから、今度は電柱の住所を見た。

知らない地名。少なくとも自宅近くの地名ではなかった。

また歩いて行くと、ようやく民家を見つけた。

山沿いにある集落みたいなところだったらしい。

家の引き戸を叩いて「すいません!すいません!」と助けを求めた。電話を借りようとしたのかね。

でも、どれだけ叫んでも人は出てこない。灯りすらつかない。

まあ、住人からしたら、怖くて様子をうかがってたのかもしれない。

周りの家からも人が出てくる気配はない。

空き家か?と思い、しばらく叩いても出てこないので、また田舎道を歩くことに。

やがて広めの農道に出た。もちろん街灯はない。

歩きながら「誰か通らないか…」と考えていた。

少しして、後ろから静かに車が走ってきた。

暗かったから色はよく分からなかったらしいが、黒っぽいワンボックスカーだったという。

その車はウィンカーも出さず、スーッと母を10mほど静かに通り過ぎ、左側に止まった。

「助かった!」と思った母は、その車に駆け寄った。

でも、車からは誰も出てこない。

普通、母のために止まったなら、大丈夫ですかとか言って人が出てくると思わない?でも、出てこない。

変に思って、近寄るのをやめて車の中を覗いたけど、車内は真っ暗で人が居るかどうかもわからなかったそうだ。

 

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母は小さい頃から霊感があったらしい。

登校途中に見えたり、寝てるときに見えたり。

自分は霊感ないからわからんのだが、母はその黒いワンボックスカーに『何かおかしい、乗らないほうがいい』という、直感?第六感?みたいなものが働いたそう。

で、一分くらい、ワンボックスカーから離れて、違う車が来ないかと待っていた。

この間も、ワンボックスカーから人は出てこなかった。

運良くすぐ次の車が来た。田舎だし夜中農道を走ってるのは珍しい。本当に母は運が良かった。

その車からはすぐ男の人が出てきて、「大丈夫ですか?どうしたんですか」と声をかけてくれた。

母はホッとして全身の力が抜けたらしい。

その男の人に家まで送ってもらうんだけど、その人の車に乗った母は、前に止まってた車を通り過ぎるとき、もう一度覗いてみた。

やっぱり車内は真っ暗だった。

男の人もそのワンボックスカーを胡散臭そうに見て、「あれあなたの車ですか」と聞いてきたらしい。

幻覚とかじゃなく、ワンボックスカーは実際に道に止まってたということだ。

自宅に到着。時刻は朝の四時。

母がインターホン鳴らしまくって、家に一人で寝てた自分は跳ね起きた。

ちなみにこの日、世界史と英語のテストだった。

最初、ヤバイ奴が来たのかと思って無視しようと思ったんだけど、「ヤス!開けて!」っていう母の声を聞いて、急いで階段を降りた。

鍵を開けると、母が倒れこむように玄関に入ってきた。

酒と嘔吐物と血の匂いがして、「うっ」てなった。

母は口を切ってて、顔に血が結構付いてたのだ。

翌日分かったことだけど、母は左の鎖骨が折れてた。

飲み会だったことは知ってたけど、朝帰りする母なんて初めて見たから、めちゃくちゃ驚いた。

後ろから来た男の人にもビビった。

男の人から「道に迷ったらしくて」と色々説明を受けて、すいませんでした、ありがとうございましたと、とにかく頭を下げた。

母がお名前を教えてくださいって言ってたけど、いいですよって言って、男の人はすぐ帰ってしまった。

話はここで終わり。

ところどころが酒による幻覚だったとしても、ちょっと気になるのは、送ってくれた男の人は、結構ボロボロだった母を見ても特段驚いた様子はなく、終始落ち着いてたって母が話してたこと。

すごい人だ。自分だったらめちゃくちゃ慌てる。

初めは暴漢に会ったのかと心配したし、霊感のある母のこんな体験談を聞いて、高校生だった自分は、「もしかして、ワンボックスカーは”お迎えの車”だったんじゃ…?」とかビビってた。

まあ、母はその後も元気に暮らしてる。

後日談

靴も鞄も、後日ちゃんと見つかったんだ。

鞄には給与明細が入ってたらしくて、書かれてた職場の電話番号に電話かかってきたんだと。

でもメガネが無くなってたらしい。転んだ拍子に落としたのかな。

そうそう。見た目普通の三十代後半の男の人だったけど、名前は教えず、さーっと帰っちゃって。

確かに、自分だったら警察に連絡するな……

考えれば考えるほど不思議な人だ。

(了)

[出典:http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1465654961/]

 

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