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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

鳴る数珠 nc+

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お寺生まれのお寺育ちで、近所の家はだいたい檀家だ。

若いくせにいっちょまえに住職などをしているが、自身ではっきり心霊体験と呼べる出来事をして以来、怪談を集めるようになった。
それもなぜか、お寺にまつわる話ばかりだ。

自分の体験もそうだし、親しい先輩僧侶の話を聞いていても思うのだが、お寺の怪談には音に関係するものが妙に多い。
これは先輩の先輩、Hさんという僧侶から聞いた話である。

H先輩は四十手前。関東の大きな寺の次男として生まれ、私たちの宗派が経営する大学で長く事務員を務めていた。
その後、跡取りのいない地方寺院から声がかかり、住職として迎えられた。
私の住む地域から車で一時間ほど、そこそこ発展した場所で、本堂は新築だった。
「若い住職さんが来るなら」と檀家が金を出し合って建てたものだという。
H先輩はその心意気に深く感じ入り、熱心に務めを果たしていた。
近隣の若い僧侶を集めた勉強会を発案したのも、この人だった。

ある勉強会の折、本堂の内陣について解説してもらっているとき、変わったものに気づいた。
維那と呼ばれる、勤行中に鐘や木魚を司る役の席。そのすぐ横に、とぐろを巻いたような巨大な数珠が置かれていた。
維那は儀式全体を見渡し、進行を調整する役目だ。位置も本堂の中心寄りで、どこからでも目につく。
そんな場所に、いわゆる百万遍数珠が鎮座している。

百万遍数珠は、京都のある寺に由来する。疫病退散のため、皆で念仏を唱えたことが始まりだ。
大玉の珠を連ねた数珠を、大勢で輪になって回す。回数を重ねるほど速度が上がり、隣に引っ張られるような錯覚を覚える。
終わったときに残る、妙な一体感。機会があれば一度体験してみるといい。

ただ、その数珠は妙に古びていた。
とぐろを巻くように重ねられ、てっぺんには親玉と呼ばれる一際大きな珠。その下から紐が覗き、舌を出した蛇を思わせる。
「知人からの頂き物でね、普段はこっちしか使わない」
H先輩が指さした先には、ひと回り小さな、無地のツゲの数珠が無造作に置かれていた。

問題の数珠は色が不思議だった。茶とも赤紫ともつかない鈍い光沢で、木かどうか一目では分からない。
触れるとひんやり重く、確かに木らしい感触はある。
大学勤めの頃、海外の僧侶から贈られたものだという。
箱を開けると珠がぎっしりで、一本ずつ自分で通したらしい。想像するだけで骨が折れる作業だ。

珍しいですねと数人で眺めていると、H先輩が苦笑いとも照れ笑いともつかない顔で言った。
「珍しいんだよ」
その言い方が妙に引っかかり、勉強会後の片付けの最中に理由を聞いた。

「あの数珠がさ、泣くんだよ」

最初は意味が分からなかった。
木の珠が鳴るとしても、せいぜいぶつかる音だろう。
「音が鳴るんですか」
H先輩は首を振った。
「鳥に近いかな。最初は子犬とか子猫かと思った」

野良の動物は境内によく来る。最初はそう考えたそうだ。
だが、季節も時間も関係なく聞こえる。夜中、本堂の火の元や電気を確認しに行くと、必ずではないが、聞こえる。
ヒューともピューともつかない、か細く高い音。断続的に、本堂の隅から。
新築の建物で風鳴りとも思えない。電気系統を疑っても止まらない。

「音の出所は分かる。維那席なんだ」
「原因は」
「分からない」

数珠を持ち上げると止まる。元に戻し、しばらくするとまた鳴る。
「ただの木だよ」
そう言い切る声に、どこか無理があった。
被害と呼ぶほどのことはないから放っている、と言いながら、煙草の煙を吐く先輩の顔は疲れて見えた。

それ以上は聞けなかった。
面白半分で確かめる気にもなれず、後味の悪さだけが残った。

帰り際、灯りの落ちた境内を歩き、本堂に向かって手を合わせた。
そのとき、遠くで赤ん坊が泣いているような声が聞こえた。
細く高く、途切れ途切れに鳴っている。
境内に民家はない。夜更けに子どもの声がする理由もない。

耳を澄ましているうちに、その音がどこからともなく、本堂の奥に引き寄せられていく気がした。

[出典:677 :鳴る 1/4@\(^o^)/:2014/11/23(日) 10:41:22.23 ID:s5uUMCFQ0.net]

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