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短編 r+ 山にまつわる怖い話

焚き火をしながら魚を焼いている男 r+5053

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大学3年生の春、これは大学2年生になって間もない頃の話だ。

久しぶりに地元に帰省し、家族に近況を報告し終えると、ふと昔よく遊んだ近所の山に行ってみたくなった。外は少し肌寒く、ウイスキーのボトルを片手に軽く飲みながら山へ向かった。少し酔いが回る中、懐かしい山道を歩くと、景色は昔と何ひとつ変わっておらず、何とも言えない安堵感を覚えた。

そんな中、遠くの茂みから「こっちに来て飲まないか」と声が聞こえた。焚き火の揺れる光が見え、その方向に男がいるらしいとわかる。酔いも手伝って警戒心は薄れ、特に怪しいとも思わず茂みに足を向けた。そこには男がひとりで焚き火を囲みながら魚を焼いていた。

「これ、どうだ?」とウイスキーを差し出すと、男は珍しがり、「こんなもん見たことない」と満面の笑みで喜んだ。それが嬉しかったのか、男は焼き魚を勧めながら、昔の話を語り始めた。内容は昔の山とその周辺での人々の生活。たとえば山菜を採りに来た親子の話や、転んだ子供を必死にあやす親の姿など、何気ない日常の話が多かった。しかし彼の語り口が妙に鮮やかで、親や子供の仕草まで演じ分けるその芸達者ぶりに引き込まれた。

魚は美味しく、話も面白い。すっかり時間を忘れて楽しんでいると、ふと男が「そろそろ帰りな」と告げた。別れ際にウイスキーの残りを渡そうとすると、男は魚や山菜をどっさり渡してきた。その笑顔を見て、ようやく私は男の顔を真正面から見た。そこには目がひとつだけ、ぽつりとあった。

普通なら恐怖を感じるはずだが、なぜか不思議と怖くなかった。それどころか、どうして今まで気づかなかったのかとさえ思った。山を後にし、家に帰って祖母にその話をすると、祖母は笑いながら「それは山神だ。善いものに出会ったな」と言った。その言葉を聞いて妙に納得した。ウイスキーをあんなに気に入ったのも、異国のものに触れるのが珍しかったのだろう。そう考えると、なんだかおかしくて私も笑った。

男の話の内容を改めて思い返すと、どれも特別なものではない。昔、その山で暮らしていた人々の何気ない日常が中心だった。親子連れの話では、子供が転んで泣き出した際に「着物が破れた」と言っていたのが印象に残っている。そんな古めかしい表現もあって、彼が本当に神様なのではないかと思うこともある。もちろん、ただの酔いによる見間違いという可能性も否定できない。光の加減でそう見えただけかもしれないし、普通のおっさんだったのかもしれない。

でも、もしあれが本当に神様だったのなら、それはそれで素敵な体験だと思う。そう考えるとまたウイスキーを持って、あの山を訪れてみたくなる。あの男、いや山神ともう一度会える気がするからだ。

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