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短編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

残業恐怖体験 r+5,985

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職場の同僚から聞いた話。

年末の追い込みで、深夜の残業をしていたという。規則で電灯は自席のみ、広い事務室の大半は闇に沈んでいた。商店街の一角とはいえ、二十三時を過ぎると人通りは途絶え、不気味な静寂が支配する。

そんなとき、奥の課の電話が鳴り出した。

「こんな時間に……? ろくな話じゃないな」

誰もいないはずの事務室に響くコール音は、不自然に長く続いた。五分、いや十分ほども鳴り続け、苛立ちを覚えた彼はついに受話器を取った。

「す……すいません! こんな時間に! お約束の見積書を今からお持ちしたいんですが!」

はぁはぁと息を切らした若い男の声。

「いや、もう誰もいません。明日にしてもらえますか?」

しかし男は食い下がる。

「申し訳ありません! 予定が大幅に狂ってしまって……でも、最寄りの駅には今着いたんです。明日は別件があって、お伺いできなくて……なんとか受け取るだけでも!」

彼はきっぱりと断った。しかし、通話は一方的に切れた。

「失礼な奴だな……」

だが、それから十五分経っても誰も来ない。駅から会社までは徒歩十五分ほどの距離のはずだ。

「もう三十分経ったぞ? 何やってんだ……」

苛立ちが募ったその時、また奥の課の電話が鳴った。受話器を取ると、先ほどの男が再び詫びる。

「すいません……道に迷ってしまって……もう少しで着きます……」

「もう終電がなくなるので、本当に困るんですよ!」

しかし、また電話が切れた。

事務所は四階にある。窓の外を覗くと、人影はない。それなのに、また電話。

「今、近くまで来ました! 保安の方に話して、中に入れてもらえますか?」

外を見たが、やはり人の気配はない。

保安に確認すると、「誰も来ていない」とのこと。ぞわりと寒気が這い上がる。

また電話が鳴る。

「ありがとうございます! 今、中に入れてもらいました! エレベーターで今、上がります!」

ぞくりとする。保安が誰も通していないというのに?

凝視する事務室の暗闇。

通常、来客は受付の簡易電話から担当者を呼ぶ。直接事務所には入れない仕組みだ。だが男は確かに「今、受付におります」と告げた。

「おい……?」

受話器越しの沈黙。

不意に、暗闇の奥から微かな気配を感じた。

思わず電話を切ると、すぐまた鳴り出した。

もはや出る気にはなれなかった。

鳴り続ける電話を背に、逃げるように事務所を飛び出した。

外の冷たい空気に触れた途端、全身に鳥肌が立った。

あの執拗な電話は何だったのか。

誰の仕業だったのか。

今も、その答えはわからない。

(了)

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