短編 洒落にならない怖い話

骸送り(むくろくり)#1132

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僕が社会人になってからの話です。

親友の収蔵と、肇、和子さんの男三人、女一人で、長野の爺ちゃんの家に遊びに行きました。

久しぶりの旅行ということもあり、みんな浮かれていました。

今でも、本当に、行かなければ良かったと後悔しています。

二泊三日で出かけ、いよいよ明日帰るという、二日目の晩です。

僕らは、肝試しに出かけようという話になりました。

僕はあまり気が進まなかったのですが、みんなの勢いに負けてしまいました。

爺ちゃんの家からちょっと山に入って行ったとこに、地元の人が『むくろくり』と呼んでいる川岸があります。

昔は『むくろ送り』と呼んでいたのが、『むくろくり』になったと言われていました。

その岸より上で川に落ちた死体は、必ずその岸に着くという話です。

そこは地元でも有名な霊の出る場所で、前にその話を僕から聞いていた収蔵が、場所はそこにしようと決めてしまいました。

僕らは爺ちゃんには内緒で、こっそりと出かけました。

田舎の闇は深く、二本の懐中電灯だけが頼りです。

馬鹿話をしたり、仕事の話をしたりしている内に、『むくろくり』に着きました。

なんの変収蔵もない川辺でした。

多少、霊感のようなものがある僕にも、何も感じません。

僕がほっとしていると、肇が何か見つけたようでした。

「お~い!こっち来て見ろ!なんかあるぞ!」

行ってみると、洞穴がありました。

割と大きな穴で、180センチある肇でもしゃがまずに入れそうです。

僕は何かイヤな感じがしました。

「おい、帰ろうぜ!」

僕が言うのも聞かず、肇は中に入っていってしまいました。

仕方なく、僕と収蔵、和子さんも後に続きました。

しばらく歩くと、割と大きな空間に出ました。

大人が十人は入れそうな感じです。

「昔の防空壕の跡かなあ?」

肇が言いました。

「見て!」

和子さんが、懐中電灯で奥を照らしました。

そこにはお堂がありました。

お堂といっても、小さな30センチほどのお堂で、とても人は入れません。

薄汚れて、あちこち傷んでおり、何かイヤな雰囲気をもっていました。

僕らは気味悪くなり、誰からとも無く帰ろうという話になり、出口に向かって歩き始めました。

その時です。

「……わば……まで」

どこからか声が聞こえて来ました。同時に、僕の背中にイヤな感じがしました。

霊が近くにいるときの感じ。

「毒……わば……皿……まで」

声は背中から近づいてきます。

僕は思い切って後ろを振り向きました。

声はやはりお堂からでした。

お堂の破れた障子からは、明かりが漏れていました。

まるで、中で蝋燭を灯しているかのような、ゆらゆらとした明かりです。

そして、お堂の扉が少しずつ開き始めました。

本能的に、「これはやばい!」と分かっているのですが、体が全く動きません。

開いた扉から、スウっと、何かが出てきました。

包丁の先のような、尖った刃物。

もしかしたら、日本刀でしょうか?

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「キャーーーーーーーーー!」

和子さんが悲鳴をあげました。

同時に、こわばっていた体が、フッと動くようになりました。

僕たちは慌てて、わき目をふらずに逃げ出しました。

僕たちは、へとへとになりながら爺ちゃんの家までたどり着きました。

「なんだったんだよ!あれ!」

収蔵が僕に言いました。

「僕だってわんないよ!」

和子さんは周りを見回していました。

「待って!肇くんがいない!!」

見ると、確かに肇がいません。いつはぐれたのかさえ、分かりません。

そこへ、騒ぎに気付いた爺ちゃんが出てきました。

「なにやっとんじゃ、おまえら!こん夜中に!」

僕たちは、爺ちゃんに今あったことを話しました。

聞いているうちに、爺ちゃんの顔色が見る見る青ざめていきました。

そして、いきなりバキッ!っと僕の頬を思い切り殴り飛ばしました。

「……!」

僕はびっくりして、声もでません。

爺ちゃんに殴られたのなんて、これが初めてだったのです。

「勇!おまが着いていながら、なんでむくろくりになんぞ!行ったらあかんと…… 何故あかんと……わからんじゃあ……」

最後の方は言葉になっていませんでした。

こんなに狼狽している爺ちゃんを見るのは初めてでした。

「大黒の坊主に……いや……今日は坊主の集会で京にいっとる日じゃ……」

ぶつぶつと一人でつぶやくと、一人で頷き、僕の肩に手を置きました。

「いい、いい。 心配するな、勇。なんとかしてやる、爺ちゃんがなんとかしてやる……」

そう言うと、家から塩を持って来ました。

「毒を食らわば皿まで食らわん 皿まで食らわば肝喰らえ……毒を食らわば皿まで食らわん 皿まで食らわば肝喰らえ……」

僕たち三人を並ばせると、頭から足まで塩をかけながら、何かおまじないのような事を言っていました。

そして、着いて行くという僕を残し、爺ちゃんは一人で肇を探しに向かいました。

僕たちは、爺ちゃんの家で、ひたすら二人の帰りを待っていました。

翌朝、肇は一人で裏庭に倒れているのを発見されました。

外傷もなにもなく、ただ疲れきっていて、それから三日間も眠りっぱなしでした。

爺ちゃんは『むくろくり』に流れ着いていました。

僕は会わせてもらえませんでしたが、とても苦しそうな、何か恐ろしいものを見たような表情で亡くなっていたそうです。

そして、体には何も外傷がないのに、内臓が一切無かったと。

目が覚めた肇は何も覚えていませんでした。

ただ、うっすらと

「大丈夫、大丈夫じゃ……」

という爺ちゃんの声だけは覚えていると言っていました。

(了)

[出典:http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1135737077/]

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