短編 カルト宗教 ライトノベル

めぐみの樹奇譚【ゆっくり朗読】

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ある町に道路が通った。その道路の脇に、枝ぶりのおかしな樹が、ポツンと一本残された。道を行き来する人々は、この樹が気になってしかたがなかった。そんな時、誰かが小さな皿を樹の根元に置き忘れた。二、三日後、皿には小銭が入っていた。驚いた人は、皿の代わりに大きな箱を置いた。すると、どんどん小銭が入るようになった。

やがて、別の人が樹に注連縄を巻いた。出勤や通学で通る人々が、立ち止まって手を合わせるようになった。やがて、樹のもとにはお供え物も見られるようになった。朝の散歩で、十円玉を手に樹まで来て賽銭をあげ、手を合わせる老人たちも現れた。中には「あの樹を拝んで病気が治った」という人も出た。

その話は町から町へ伝わり、「ありがたい樹がある」と評判になった。地元の町では、神主を呼んで祝詞をあげ、寄付金を集めて小さなお社を作った。そして、町内の会合で年に一回のお祭りをすることが提案された。

お祭りの日、町中が賑わった。だが、その夜、奇妙なことが起こった。樹が光り始め、まるで何かの言葉を発しているかのようだった。目を疑う人々が集まり、樹の周りで囁く声が聞こえるのだった。その声は、町の昔話や忘れられた伝説を語るかのようで、聞く者は皆、不思議な感覚に包まれた。

翌朝、樹はただの樹に戻っていたが、その夜の出来事は町中に広まり、人々はさらにこの樹を神聖視するようになった。祭りの夜だけ、樹が語りかけるという噂が広がり、遠方からも人々が訪れるようになった。

そして、毎年、祭りの夜が近づくと、樹の周りでは不思議な現象が起こり、町の人々はそれを「樹の恵み」と呼び、敬うようになった。だが、樹が語る言葉の意味や、なぜそんな現象が起こるのかは、誰にも解らないままだった。

その不思議な樹を巡る出来事が町中に広まるにつれ、奇妙な集団が現れた。彼らは自らを「光の守護者」と名乗り、樹の力を信じ、新たな信仰を生み出した。彼らの主張は、樹が古代の知恵を持つ神秘的な存在であるというものだった。

最初は小さなグループだったが、徐々にその数は増え、集会を開くようになった。彼らは樹の周りで夜通しの祈りや儀式を行い、樹からの「啓示」を受け取ると信じていた。教団は独自の教義や規則を作り、教祖とされる人物が現れ、信者たちを導いた。

彼らは教団の活動を町の外へと広げ、他の町や村にも伝道を始めた。教団のメンバーは、樹がもたらすという平和や繁栄を訴え、多くの人々を惹きつけた。しかし、この教団の教えや活動は次第に異常なものとなり、周囲からは「カルト教団」と見なされるようになった。

教団は信者たちに対し、厳しい規律や献金を強いるようになり、反逆者には厳しい罰を与えるなど、支配と恐怖による統治を強化した。彼らの教義は、樹との一体化や神秘体験を重視し、しばしば危険な儀式に発展した。

やがて、この教団の問題行動は警察の注目を集めるようになり、町の住民たちも教団に対する不信感を強めた。教団は隔離されたコミュニティを形成し、外部との接触を遮断し始めた。内部では洗脳や虐待が行われ、外部からの批判や介入を一切受け付けなくなった。

この教団の影響は、町の平穏を乱し、かつて樹に対して持っていた神聖な感覚や尊敬の念は、次第に恐怖や懸念へと変わっていった。町の人々は、かつての穏やかな日々を取り戻すため、教団に対抗するための方法を探し始めた。教団の存在は、町に深い傷を残し、人々の心に忘れがたい影を落とした。

町の人々と警察は、教団の危険性に気づき、対策を講じ始めた。教団の活動は徐々に規制され、教祖や幹部たちに対する捜査が始まった。しかし、教団は更に団結し、外部の介入に対して強硬な態度を示した。彼らは教団の敷地を要塞化し、信者たちを中に閉じ込めるようになった。

一方で、教団内部では緊張と不安が高まっていた。教祖の言葉に疑問を持つ者も現れ始め、内部分裂の兆しが見え始めた。教祖はこれを察知し、より厳格な規則と洗脳を強化することで、統制を維持しようとした。

教団の異常な行動は国内外のメディアにも取り上げられ、社会問題として注目されるようになった。このプレッシャーの中、教団は更に孤立し、信者たちを外の世界から隔離するため、教団敷地内に完全自給自足のコミュニティを築き始めた。

その頃、町の人々は、教団に対する抗議活動を強め、教団の活動停止を求めるデモや集会を開催した。町の中心部では、樹への祈りや平和を願う集会も行われ、教団に対する反対の声が高まった。

警察は教団の幹部たちに対する逮捕状を取り、教団に対する強制捜査を開始した。捜査中、教団内部からの情報提供者が現れ、教団の実態や危険性に関する詳細が明らかになった。教団の幹部たちは逮捕され、教祖は自らの信念を主張しつつも、法の裁きを受けることとなった。

事件の結末として、多くの信者たちは解放され、心の傷を抱えながらも、社会に再び溶け込むことを試みた。町は、長い間の緊張から解放され、再び平和を取り戻し始めた。樹は、この一連の出来事の静かな証人としてそこに立ち続け、町の人々は樹を通して、信仰や信念の危険性について深く考えるようになった。

この事件は、信仰やカルト教団の危険性についての議論を呼び起こし、人々に大きな教訓を与えた。町の人々は、困難な時期を経て、より強いコミュニティを築くことができた。そして、樹のもとで、新たな平和と調和のシンボルとして、町の記憶に残ることとなった。

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