短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

製材会社の工場【ゆっくり朗読】

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恐い話というか気味の悪い体験。

ディアス造船所@dias35424661/2022-07-13 22:15:37

派遣の仕事をしていた頃、1ヶ月泊まり込みの稼ぎのよい仕事を紹介された。好条件だったので快諾した。
場所は道東の山奥、冬季間に数ヵ月稼働する製材会社の工場だった。
私の仕事はフォークリフトで製材の積込であった。

工場は私の他に、話好きな工場長と無口な作業員二人、あとは飯場のおばちゃんの四人だった。

三食の飯もうまかったし、仕事は定時で終わり風呂も広くてテレビ付きの個室も与えられ、夜中にコンビニに行けないのを除けばまあいいかと思った。
もちろん派遣会社の営業の言うとおり模型を持っていったから、寝るまでの間は退屈しなかった。

ただ違和感を感じ始めたのは一日を通して人と話をするのは工場長だけだった。麓の町出身のザ・林業従事者の面持ちの当時64歳、歳より若く見えた。
しかしあとの作業員二人は一言も口をきいてくれない。挨拶をしても風呂で一緒になってもだ。

私は、喋るのが不自由な人たちなのかと思った。
また飯場のおばちゃんも同じだった。話をしているのはいつも私と工場長だけだった。
工場長にその事を聞くと「気にするな」と一言。

何かしら事情があるのだなと思い、それ以降は聞かなかった。心霊番組や怪談のような怪奇現象等はなく山奥の工場で1ヶ月間、仕事をして、旨い飯を食い、風呂に浸かり、部屋では1/700金剛と扶桑を作っていた。(笑)

そして刑期、いや任期を満了してその工場をあとにした。
自宅に帰る前に会社に寄って終了報告した。

営業係兼配置係曰く、明日早速その製材会社へ御礼に行くとのこと、3日休みをもらっていた私もその御礼に付き合うことになった。

正確には御礼よりその土地の旨いものを食べに行くのが目的だった。
翌日、私と同じ事を考えていた営業係の車に乗りいざ現地へ、着いたのは昼過ぎで少し陽が傾きかけた時間だった。

しかし驚いたことにその工場は無人になっていた。
その様はしばらく閉ざされていたように雪に埋もれていた。

昨日帰って来た私が同乗しているので間違えるはずもなく、また見間違えることなく昨日まで働いていた工場だ。窓から中を見ると一昨日まで乗っていたフォークリフトもあった。

営業係が唸るように呟いた。
「やられたな。」
カネの心配をしているのだ。

派遣会社に金が入らないと私の給料が出ないのだから私も
「営業さんよぉ、タダ働きはゴメンだぜ!」とのセリフを口にした。
この製材会社の本社が麓の町にあるというのでそこを訪ねることにした。

しかしその本社も同様に無人だった。完璧に飛んだな。夜逃げだな。
タダ働き確定だ。
と思った。

辺りの住人に聞いても人が出入りしていることはないと言う。
帰りの車中、私の賃金はもちろん保証される話となり、数日後に私はいつもの職場に復帰した。

数日後、営業係から珍妙な連絡が来た。

その製材会社から入金があったそうな。しかも満額で。
その金ってもしかして落ち葉とかなんかじゃねえの?とからかったが、本当に現金が振り込まれていたそうである。
以上が私の体験した、うっすら恐い話である。

今思えば、あの工場長が一人で経営していて本社の社屋は長年使っていないで山奥の工場を短期間でしかも数人でやっていたのではないか、あの日私が帰った直後に工場を閉じてその夜に大雪が降って積もったのだろうと考えている。

そう思わないと説明がつかない。

今でも似たような怪談を聞くと、あの山奥の製材工場を思い出しては一人で気味悪がっている。

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