短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

誰も食べていない味噌ラーメン nc+

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味噌ラーメンの匂いで目が覚めた

奴の話は、そう始まった。

ベッドに仰向けのまま天井を見つめ、次に窓へ目を向けたという。カーテンの隙間から差し込む朝の光。雀の鳴き声。時計は六時を少し回っていた。そこで、はっきりと気づいた。

味噌ラーメンの匂いがする。

寝ぼけた感覚ではなかったらしい。油の焦げた甘さと、発酵した味噌の重さ。湯気まで想像できるほど生々しい匂いだったという。換気のために半開きにしていたガラス戸の外を見ても、屋台などない。ここは北海道ではないし、早朝からラーメンの屋台が出るような土地でもない。

部屋を見回しても原因はなかった。三日前に味噌ラーメンを作った記憶はあるが、そんな匂いが残るはずもない。昨夜食べたのは豚骨のカップ麺だ。匂いは明確に違った。

「ここがミソな」
「黙れ」

奴はそう独り言を言いながら考えたらしい。隣の部屋だ。隣人が朝から味噌ラーメンを食べているのではないか。そう思い、半ば苛立ちまじりでインターホンを連打した。

それで、俺は叩き起こされた。

事情を聞かされ、半信半疑のまま奴の部屋へ行った。だが、部屋に入った瞬間、俺には何も感じなかった。空気は普通だった。味噌ラーメンどころか、料理の匂い自体がしない。

奴は納得がいかない様子で首をひねっていたが、結局「寝ぼけてたのかもな」と言って、その場は終わった。俺も自室に戻り、茶を淹れて寝直すつもりだった。

だが、奴は帰らなかった。

「なあ、お前こういう話好きだろ」
「不思議な話とか幽霊とか」

確かに嫌いではない。だが、これはただの勘違いだ。そう言い切ろうとした時、ふと気づいた。

茶を淹れている最中、湯気の向こうに、微かに甘い匂いが混じっている。

最初は気のせいだと思った。だが、鼻の奥に残る感覚が消えない。湯の匂いでも、茶葉でもない。どこか粘つくような、腹を刺激する匂い。

味噌だ。

口に出す前に、奴がこちらを見ていた。黙って、深く息を吸い込む。次の瞬間、奴の顔色が変わった。

「……なあ」
「今、したよな」

否定しようとしたが、できなかった。俺にも、はっきりと分かった。味噌ラーメンの匂いだった。

部屋を探ったが、原因はなかった。台所は空だ。ゴミ箱も昨日のまま。鍋も丼も使っていない。だが匂いだけが、ゆっくりと濃くなっていく。

腹が、妙に重くなった。

何も食べていないのに、満腹感があった。胃の奥が膨らむような、不快な感覚。奴も同じだったらしく、黙り込んで腹を押さえていた。

その時、台所の方で音がした。

乾いた陶器が、軽く触れ合う音。

恐る恐る覗くと、流しの横に丼が置かれていた。見覚えのない丼だ。中身は空だが、白い湯気だけが立ち上っている。匂いはそこからだった。

触れる気にはなれなかった。視線を外した瞬間、湯気は消え、匂いも薄れた。

それ以降、何も起きていない。

昼、奴に誘われて近所のラーメン屋へ行った。二人とも味噌ラーメンを頼んだが、味がしなかった。何を口に運んでも、ただ熱いだけだった。

その夜、腹は満ちたままだった。

何も食べていないのに。

[出典:怖い話&不思議な話の投稿掲示板/投稿者「かれき ◆UtLfeSKo」 2018/06/26]

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