短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

霊感少女と行列#1026

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当時大学生だった僕は恋をしました。

相手はバイト先で知り合った子。

バイト仲間数人で遊びに行ったりして仲良くなり、向こうも彼氏がいないことも確認したりして、青春真っ盛りでした。

しかし彼女は……霊感少女ちゃんでした。

定番のプチ肝試し&怖い話大会のときに本人自らカミングアウト。

彼女曰く、

「私には霊感が有って霊が見える、霊たちの外見は普通の生きている人間と変わらないけれど霊が近くにいると頭のてっぺんから鳥肌が立って、髪の毛が抜けるの。だからそれが霊だってわかるの」

といいつつ御髪を一掻き、手のひらには二~三本の髪の毛、彼女の髪は長くて黒いこともあり、見た目には結構な量の髪が抜けたようにも見え、その場は盛り上がりました。

しかも調子に乗って、「私のそばにいると普段霊感の無い人でも霊が見えたりする」云々とのたまったりしてました。

周りは大いに盛り上がり、その場は彼女の独壇場、本気でビビリだす人もちらほら。

髪の毛なんてちょっと引っ張れば、二、三本くらいすぐ抜けるのに……

その演出の上手さに、今なら多少感心したりもできますが、当時の僕青かった。

その行為が寺田こころくんのように、あざとく感じられて正直チョッと引きました。

そんなことまでしなくても十分人目を引く容姿に恵まれているのに、普段は明るく元気で魅力的な娘さんなのに……なぜ?どうして?

なんだか裏切られたような、切ない気持ち。

主観で勝手に決め付けて、一人で勝手に傷ついてどうしようもない青春の夏の夜。

……ああ、甘酸っぱい……

しかしそこは若気の至りの日本の夏、外見より中身で人を好きになれるほど、こちとら人間ができちゃいない。

程なくして思いの丈を告白し、めでたくお付き合いすることができました。

お付き合いを始めて約半年、季節は巡り、二人は東京から新潟まで、車で小旅行に出かけました。

学生ですから、お金の節約のため高速は使わず下道で、長くて楽しい二人っきりのドライブ。

しかしさすがに長すぎたのか、彼女は車に酔ってしまい、助手席にうずくまっています。
時刻は夜の九時を少し回ったくらい、田舎によくある一車線半ほどの一本道。

人通りどころかすれ違う車さえほとんど無く、あたりはおそらく田んぼでしょう。

漆黒の闇が広がっています。

車のライトをハイビームにして、たまに彼女に声をかけつつ、今夜の宿を探して走っていると、突然前方に道を横切る人影が……

すぐさま徐行、するとさらにもう一人、前の人の後を追うようにゆっくり道を横切って行きます。

さらにもう一人……二人……

一列になってゆっくりと、あとからあとから人が横切っていくのです。

とうとう手前で車を止めて、彼らがわたりきるのを待つ格好になりました。

不思議な光景でした。

あたりは漆黒の闇夜。

ぽつぽつ見える民家の明かりだってかなり離れた所に見えるだけです。

よく見ると細い農道が走ってきた車道にぶつかっており、車道をまたいでまた細い農道が続いているのが解りました。

彼らはその道を、足元を照らす明かりも持たずに、間隔はまばらですがもくもくと一列になって歩いているのです。

初めのうちは呑気にしていました。

農家の方たちの集まりか何かがあって、帰るところなのかなと考えていました。

ライトを当てるのは失礼だから、サイドランプに切り替えて、渡り終えるのを大人しく待っていました。

しかし二十人、三十人と、それこそ闇の中から湧き出るように、延々と続く行列を見つめているうちに、だんだん恐ろしくなってきました。

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何か……異様なのです。

服装や性別にまとまりは無く、平均年齢はやや高そうですが、老人も中年もいますし、若そうな人もちらほらいます。

闇の中から湧き出るように現れて、サイドランプで照らされた道を横切り、また闇の中へ溶け込んでゆく……

左から右へ、ゆっくりと、一列になって何人も、何十人も……

しかも彼らは、こちらの方をちらとも見ようとしません。

辺りは恐ろしく静まりかえっていました。

停止中の車のエンジンの低い音しか聞こえません。

話し声も、足音すら……

しかし目の前には確かに道を横切る人の列が見えています。

ハンドルを握る両手は、じっとりと汗ばんでいました。

助手席の彼女のほうを見ました。

先程までと同じように、窓のほうを向いてシートの上で足を折り曲げ、頭を抱えるように丸くなってうつむいています。

眠っているのでしょうか。

僕はもはや動けなくなっていました。

彼女に声をかけることも、Uターンして来た道を引き返すことも、クラクションを鳴らすことも、何一つできませんでした。

体が動かないのです。

ただ息をひそめて、じっと目の前の行列を見つめることしかできないのです。

どれくらいの時間そうしていたのでしょう。

気がつくと目の前に人影はなくなっていました。

おそらく百人近い人数だったと思います。

僕は息を殺したままゆっくりと、確かめるようにして車のライトをつけました。

目の前にはまっすぐな車道が見えます。

細い農道も確かに見えます。

人影はありません。

ハイビームにしてみました。

やっぱり何もありません。

僕は大きく息を吸い込み、吐き出しました。

ギアをドライブに入れようと横を見ました。

彼女がこちらを向いています。

彼女は震えながら、無言で僕のほうに両手を差し出しました。

彼女の両手には、大量の抜け落ちた髪の毛が絡みついていました。

僕たちはすぐさま高速を使って東京へ引き返しました。

戻ったのは夜中でしたが、東京のなんと明るいことでしょう。

二人でファミレスに入り、お互いの友達に電話をかけ、ひまなやつを片っ端から呼び出しました。

意図せず合コン状態になり、そのときに知り合って後に付き合うことになったやつもいますが、僕たち二人はその後三ヶ月ほどで別れてしまいました。

その日もその後も、この話が二人の間で出てきたことはありません。

彼女が今どうしているのかはわかりません。

きっと幸せに暮らしていると思います。

(了)

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